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ちょこっと?
街に入った途端、雪かきされた通りに元気な呼び声が響いた。
行き交う沢山の人に、びっくりする。
どんなに人がいっぱいでも、むーちゃんだけ、輝いて見える。
「先に薬草組合に行くのがいいかなって思ってたけど、大切なお買い物を忘れちゃったら大変だから、先におなべを買いに行こうか」
ムニャの言葉に、僕は、ちっちゃな手をあげる。
「あい!」
元気にお返事したら、露店を探索です。
「むーちゃんの、まどぅぐ、こわれ、ちゃったら、たぃへん! だから、たかい、けど、ぉなべ、かった、ほぅが、いぃ、かも?」
「そうなの?」
「そうなの! ぉなべ、たっかぃ! でも、まどうぐ、もっと、たっかい!」
ぴょこんと跳びあがる僕に、ふわふわ笑ったムニャがうなずく。
「なるほど」
「あと、てっぱん、ほしぃ、の」
つながった手をひいたら、ムニャが首をかしげる。
「てっぱん?」
「むぎやき、ちゅくゆの!」
「麦焼き?」
「きのうの、よるも、きょうの、あさも、ちゅくれなくて、ごめんなしゃい、なの」
しょんぼり眉をさげる僕に、ムニャが反対側に首をかしげる。
「麦焼きって、買うものじゃないの?」
「ちゅくゆの! むぎの、こな、かったよ!」
夜空の瞳が、瞬いた。
「そ、そうだったね……!」
ゴトゴト遊んだの、忘れてた!
さすが、むーちゃん!
「いいお店、あるかな?」
鐘の塔の広場に並んだたくさんの露店の中から、ムニャと一緒にお鍋屋さんを、ひととおり見てみたけれど……
冬の陽に輝くおなべに、僕は首をひねる。
「やしゅぃ、けど……ぁんまり、よくなさそぅ?」
「そうなの?」
僕はこっくり、うなずいた。
「どぅぐ、ちゅくって、くれた、ひとの、こころ? はぃてゆ。
ぞんざぃ、に、ちゅくられゆ、さみしぃ、かんじ、なの」
「さみしい感じの、おなべしかない?」
こっそり聞くムニャに、露店のお兄さんが気をわるくしないように、こっそりうなずいた。
「ここは薬草組合のホーおじいちゃんに、よい、おなべ屋さんを聞いたほうがいいかもしれないね。高い買い物は失敗できないよ!」
鼻息荒くしてくれる、むーちゃんが、僕の『しぇつやく!』に染まってきてくれたみたいです?
「やしゅい、ぉなべ、すぐ、だめに、なちゃう。たかぃ、ぉなべ、ながもち!」
「そうなんだね。さすが、ぽて博士!」
「えへへ。はかしぇ!」
もじもじした僕は、ムニャを見あげる。
「でも、でも、たまに、たかい、ぉなべ、なのに、すぐ、だめに、なちゃう!」
「大変!」
「むーちゃんの、いぅ、とおり、ホーおじいちゃん、に、ききに、ゆく!」
「お菓子も食べようね」
「ぉかし……!」
あちあちほっぺで、くねくねしちゃう!
ぜ、ぜいたくは、いけないのですが……!
今日は、薬草を摘ませてもらったので、ちょこっと……?
どきどきしながら、雪かきされた道をムニャとふたりで歩く。
露店の立ち並ぶ、にぎやかな鐘の塔の広場から1本裏道に入った。
それだけで呼び声が遠くなる。
静かになる通りの向こうに、薬草の看板が見えてくる。
「ほうほう、今日も来たかね、いらっしゃい」
夜色のとんがり帽子を揺らして、おじいちゃんが笑う。
「お菓子でも食べに来たかね?」
にこにこしてくれる、ホーおじいちゃんに、僕はちいさな手をあげた。
「ねちゅ、しゃまし、そう、つんで、きました!」
「おお! そりゃありがとう。買い取るよ。出してくれるかな?」
ムニャがふところに手を入れる。
夜空の向こうで星が瞬くような力が閃いて、きらきらの緑の草が現れた。
「……な……!」
息をのむ、ホーおじいちゃんの目が、まるくなる。
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