僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ

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やみ?




 わくわく僕は、ホーおじいちゃんを見あげる。

「やくそぅ、たかく、かって、もらえゆ?」

 ホーおじいちゃんは、白い眉をさげた。

「ちっちゃいの、このぴかぴかの熱さまし草は、流通させては、いけないものだと思うんじゃ」

「ほへ?」

「おそらく薬効が、かなり高い、と思われる。
 検証しなければならんが、流通させて『この熱さまし草は、なんか違う!』『すごい!』なったときは、手遅れじゃ」

 ホーおじいちゃんの声が低くなる。

「ちっちゃいのが、さらわれてしまう」

「そんなこと、絶対、させない!」

 叫ぶムニャから夜の力があふれるのに、ホーおじいちゃんは、うなずいた。

「気もちはわかるよ。でも、お兄さんひとりで、百人を相手にするのは難しいじゃろう。
 一度なら防げても、繰り返されたら? 次々にやってきたら?」

 ぎゅ、とムニャが唇をかんだ。

「ちっちゃいのが、もしほんとうに『緑のきみ』なら、世界中が、ちっちゃいのを欲しがる。
 多くの人が病にかかる。どんなに金を持っていようと、権力があろうと、病からは、のがれられない」

 ホーおじいちゃんの瞳が、細くなる。

「救ってくれる『緑のきみ』を、持てるすべてで追い求めようとするじゃろう」


 びっくりして、冷たくなる背で、僕は自分の指を見つめる。

 ……たしかに、熱さまし草は、ぴかぴかしてた、けど……

「でも、ぴかぴか、しゅる、だけ、かも?」

 ホーおじいちゃんは、うなずいた。

「その力が、よう分からんことが問題じゃ。おとぎ話のような、伝説じゃからの。
 だからと言って、輝く薬草を流通させるのは危険じゃ」

 しょんぼり僕は眉をさげる。

「……ぼく、の、つんだ、やくそぅ、おかねに、ならなぃ……?」


 むーちゃんの役に立ちたいのに、おかねにしてもらえない僕は、危険を連れてくるかもしれない僕は、むーちゃんの足を引っ張ることしかできない、お荷物なんじゃ……


 泣きだしそうに揺れる瞳に、ちいさな顔をゆがめたムニャが抱きしめてくれる。

「ぽては、僕が、守るから」

 首をふる。


「ぼくも、むーちゃんを、まもり、たぃの……! ぼく、むーちゃんの、やくに、たちたぃ、のに……」

 こぼれる涙を、ムニャの胸が吸いこんだ。


「ぽては、僕の傍に、いてくれるだけで──」

「いや……!」

 むずかるように首をふる僕に、困ったようにムニャとホーおじいちゃんが眉をさげる。


 ──困らせているのは、わかっている。

 ちっちゃい僕は、薬草を摘んだりしないで、お金もちなムニャに、こっそり養われているのが、平穏に暮らしてゆくには最良だって。


 それでも僕は、首をふった。
 何度も、首をふる。


「ぼく……ぼくが、むーちゃんを、まもりゅ、の……!」


 にぎりしめる手は、なんて、ちいさい。

 それでも。


「ぼくが、むーちゃんを、たべさせて……ぼくが、むーちゃんを、しあわせに、すゆの……!」

 泣きだした僕に、ムニャの瞳に涙がにじむ。


「……ぽて……」

 抱きしめてくれる腕が、ふるえる。



 白い眉をさげたホーおじいちゃんは、ぽんと手を打った。

「そうじゃ、なら、闇薬士はどうかの?」

「……やみ?」

 ムニャの凛々しい眉がしかめられて、ホーおじいちゃんはうなずいた。

「ここいらは、強欲領主のせいで、まともな医士がおらん。
 金ばっかり取られて、よくなるどころか、ひどくなる。皆、困っておるんじゃ」

 ホーおじいちゃんのちいさな目が、僕の目をのぞきこむ。

「ちっちゃいのが摘んだ薬草を、乾燥させて、粉にして、薬にして、売るんじゃ。
 闇じゃからの、売るときに、絶対に情報を口でも書でも思念でも伝えない、薬を研究しない魔法契約を結ばせることができる。
 違反しようとすると口が火を噴き、二度と話せなくなり、食べられなくなる。命を取られるのと同じじゃの」

 僕とムニャは顔を見あわせる。

「恐ろしい契約を結んでも治りたいという者しか来ない。ひやかしも、商売敵も偵察も来んじゃろう。
 ほんとうに苦しむ人にだけ、薬が届く」

 ホーおじいちゃんの瞳が、輝いた。

「人をたすけて、ちっちゃいのは、お金を稼げる。どうかえ?」


「ぼ、ぼく、やって、みたぃ!」

 手をあげる僕を見つめたムニャが、顔をあげた。






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