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別世界
「おぉお! キーしゃん、しゅごぃ!」
ぱちぱち拍手する僕に、キマが首をかしげる。
「きーしゃん?」
「キーしゃん!」
「ぽてが呼ぶと、みんなが可愛くなるね」
チタがにこにこして、キマの鋭い目が、まるくなる。
「……そういうの、別世界だと思ってた」
「え?」
首をかしげるチタを見つめたキマが、つぶやく。
「身なりがよくて、清潔で、いつも微笑んで、やさしい感じ。
別世界の人で、俺と話すことなんて、一生ないと思ってた。
……びっくりした」
「えぇ!? ぼ、僕……!?」
こくりとキマがうなずく。
「……あこがれの、やさしい人みたい」
ぽん!
音をたてるようにチタが噴火する。
「そ、そそそんなこと、言ってもらったの、は、はじめて……!
ずっと、冴えない、みっともない、みそっかすって言われてきたのに──」
眼鏡の向こうでチタの瞳が揺れる。
「チタ? は、俺にとって、別世界の、あこがれの人だよ」
ささやくキマに、くしゃりとチタの顔が歪む。
「……その言葉を、喜んでしまった僕が、申しわけない。……つらい目に、あってきたんだね」
ふたりを見あげた僕は、ちいさな両手をにぎる。
「これから、しぁわせ!」
「……え……?」
きょとんとするふたりに、笑う。
「みんなで、これから、しぁわせに、なゆの!」
顔を見あわせたふたりが、笑う。
「……ああ、そうだね、ぽて」
ふわふわ赤い頬で、チタが笑う。
「ぽてが言うと、ほんとになる気がする」
ささやいたキマが
カツン
鋼鉄の棒で、石畳の道を叩く。
それだけで、僕めがけて走ってこようとした輩が、止まった。
キマの目が、男を見る。
押し負けるように、うつむいた男が、駆け去った。
「つおい、キーしゃんと、やさしー、チタしぇんしぇーが、ぃてくれたら、むてき、にゃの!」
ほんとうは、むーちゃんにも、いてほしいけれど。
そこは言わずに我慢なのです。
ちっちゃな両手をにぎって笑う僕の頭を、チタとキマの大きな手が、なでてくれる。
「ちいさい孤児は襲わないっていう、孤児たちの規律みたいなものがあるんだ。だからコトは襲われなかった。
……兄ちゃんが倒れてるのも、みんな、知ってるしな。
でも、身なりのいいチタとぽては、やばい。
俺がいても、隙を狙ってきやがる。薬士同盟に急ぐぞ」
低いキマの声に、チタも僕も跳びあがる。
「はい! よろしくお願いします!」
「ぉねがぃ、しましゅ!」
「任せろ」
胸を叩いたキマが、それでも僕とチタの足に無理がないよう、最短経路で薬士同盟へと向かってくれる。
扉のところでは、眼鏡のおじちゃんが、そわそわした感じで待っていてくれた。
「おお、帰ってきたか! 心配してたんだ。
……あれ? あの、やたらと、かっこいーお兄ちゃんは?」
手をあげて迎えてくれたのは、薬士同盟の扉の奥でチタが相談していた、線の細い眼鏡のおじちゃんだ。
「むーちゃん、コーちゃんの、おにーちゃん、おうち、つれてったの」
「なるほど。じゃあ薬士実習は、ちょっとお休みしようか。ふたりで、ひとりと聞いているからね。
チタ、座学の補講をしてあげなさい」
「はい!」
微笑むチタに満足そうにうなずいたおじちゃんは、そうっとキマを見あげる。
「……それで、そっちの、いかついお兄ちゃんは……?」
おじちゃんの眼鏡の奥の目が、どきどきしてるみたいです。
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