【完結】ずっと、だいすきです

  *  ゆるゆ

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きみは

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「到着致しました、ゲォルグさま」

 母が選んだ御者が扉を開けてくれる。
 下馬した護衛の衛士が六人、恭しく敬礼してくれた。
 皆、息子のゲォルグにも気持ちよく仕えてくれる。

 ……自分はこんなに素晴らしい人たちに仕えてもらうことができるだろうか。

 透きとおる冬の陽射しのなか、期待と不安に揺れる胸で馬車を降りる。
 冷たい風が吹きぬけた。

 白い髪を撫でつけた院長と孤児たちが並んで迎えてくれる。
 最前列に佇む、ひとりの少年に目がいった。


 やわらかそうな蘇芳の髪が揺れている。
 すこし吊りあがる蘇芳の瞳に、意志の強さと聡明がひらめいた。

 小柄な少年だった。16、いや14歳だろうか。
 青年となりゆく途中の、あやうい色の薫る、しなやかに伸びる手足に息をのむ。

 ここは孤児院だ。花街じゃない。
 院長と孤児たちに目を移して確認してしまうほど、したたるような艶を湛える少年だった。

 うすくれないの唇が、ゲォルグの来訪に驚いたように、かすかに開かれている。
 あどけない仕草まで、つやめいた。

 どんな声を、しているのだろう。
 どんな風に、笑ってくれる?

 見つめすぎたらしい。

 目があった。


 蘇芳という色が、これほど心惹かれるものだと、初めて知った。

 指先まで、あまい痺れが走り抜ける。


 魔法で子どもを成せるから、男性の母でもある当主は、言っていた。

「代々のジェディス家の血なのか、継がれた魔力のためか、芯から仕えてくれる者は、見ればわかる。心配しないで行ってこい」

 無責任なことを言うと、ため息をついた自分が間違いだった。



 わかる。


 ──この子は、俺のものだ。


 耳の先まで、ビリビリする。


 身体も、心も、この子を貪る権利が、俺にある。




 沸騰しそうな劣情を、必死で堪えた。

『何を考えているんだ、孤児院だぞ、視察に来てる、しっかりしろ!』

 自分を叱咤する声さえ遠かった。


「きみは?」

 慾にかすれるような、情けない声にならなかっただろうか。


「セバと申します、ゲォルグ・ディオ・ジェディスさま」

 まだ少年の、やわらかな、春の木漏れ日の降りる森を吹き渡る風のような声だった。

 きみに呼ばれる名が、とろける。

 耳から爛れ落ちるかと思った。


「お給金は結構です、下僕で構いません、どうか御身のお傍でお仕えすることをお許しいただけませんか」


 当たり前だ。

 きみは、俺のものだ。

 俺の傍にいなくてどうする。


 告げる前に引っかかった。

 すごいことを言われた気がする。


「……げぼく?」

「はい」


 ちょっと待とうか?


「俺に隷属したいと?」

「はい」


 とろけるようなあまい瞳で、うっとりひらく唇で、恍惚をのせたかんばせで、諾を告げないでくれないか。
 勃つじゃないか。

 ギリギリするような理性を振り絞り、ゲォルグは我慢した。

 褒めてほしい。


 頼むから16歳であってくれ。
 我慢は2年で充分だ。

 祈ったゲォルグに、セバは告げる。


「8歳です」


 ……………………………………。


 ──────絶望だ。


 10年も我慢しろというのか。



 ちょっと待て。

 セバを傍において、10年も我慢するのか──!?



 絶望だ。

 ああそうだ、これを絶望というんだ。






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