【完結】ずっと、だいすきです

  *  ゆるゆ

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メナ

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 息をのむセバの前で微笑んだ青年が、ロヌ院長に腰を折る。

「ご健勝そうでなりよりです、ロヌ院長」

「久しぶりだね、メナ。ジーグさまはお元気か」

「大変に」

「イルヤさまは」

「お変わりなく」

 瞳を交わしたふたりが笑う。

「セバです、よろしくお願いします」

 丁寧に頭をさげるセバに、メナは緑の瞳を細めた。

「よく見てるが、3度違う」

「……え?」

「敬礼の角度。そういう微細なことをつついて嗤うのが貴族だから。帝都に行くまでに教えるよ」

「あ、あの、俺が護衛を──!」

 手を挙げてくれる孤児仲間に、メナの唇の両端があがる。

「僕より強いって言いたいの?」

 色を失くして震える仲間に目を瞠る。

 強い者は、より強い者が解るという。
 華奢にさえ見える、しなやかなメナが、孤児院で一番大柄で喧嘩の強い少年を、佇むだけで圧倒していた。

 透きとおる緑の瞳にも、やわらかそうな栗色の髪も、つややかな褐色の肌も、威圧するところはひとつもない。
 それなのに、あでやかなメナが視線を遣るだけで、大柄な孤児仲間が震えて一歩下がった。


「行こうか、セバ」

「は、はい。あの、護衛のことも、皆も、ありがとう」

 見送りに出てきてくれた皆に手を振った。
 引き攣った顔のまま大柄な仲間が手を振りかえしてくれる。

「がんばってこいよ、セバ!」
「ぎゃふん! だぞ!」
「負けるな、セバ!」

 皆の声が、背を、心を、押してくれる。

「頼んだよ、メナ」

「御意」

 胸に手をあてたメナは微笑んで、セバを促した。


 おっかなびっくり、セバは初めて馬車に乗りこんだ。
 深い藍の布が張られた椅子が、ふかふかしてる。

「わあ」

「やってくれ」
「はいよ」

 馬が駆けだすと、孤児院はどんどん小さくなった。

 窓から身を乗りだしたセバは、手を振った。
 皆が、手を振りかえしてくれる。

「がんばれー、セバー!」

 歓声が、遠くなる。
 ちいさなロヌ院長が、白い雪の向こうに溶けてゆく。

 見えなくなるまで、大きく、大きく、手を振った。




「見逃したけど、従僕としてはありえない振る舞いだよ、解ってるね」

 透きとおる声だった。
 冷たくはない。やさしくもない。ただ事実を告げる声だ。

「ご容赦をありがとうございます」

 胸に手をあて、頭をさげる。

 3度違うと言われた。
 ロヌ院長に敬礼するメナを見た。

「……へえ」

 修正したセバに、メナは眉をあげた。

「思っていた以上だ。根性もある。これは楽しくなりそうだ」

 喉を鳴らすメナに、ささやいた。


「……あなたの主は、ゲォルグさま、ですか」

 細い眉が、吊りあがる。


「前言を撤回するよ。きみの目は節穴か」

 瞬いたセバは、首を傾げる。


「……お目に掛かったことはないのですが……ジーグさま?」

 ゲォルグの母であり、ジェディス家当主であられる、ジーグ・ディア・ジェディスさま?


「あの風体で含蓄あることを言ってるように見えるけど、脳筋だから」

 どんな体格なのかも知らなかったが、思わず笑ってしまったセバは唇を開く。


「イルヤさま?」

 ゲォルグの父? 名前と領地で囁かれる下世話な噂しか知らない。

 平民でありながら、そのうるわしさで筆頭侯爵をとりこにした魔性だと。


 メナは眉をあげた。

「間違いをゆるされるのは、一度だ。憶えておけ」

「はい」

 重々しく頷いたセバは、メナの眦がほんのり色づくのに微笑んだ。


 あるじの名を聞いただけで、鼓動が跳ねる。

 気持ちが、とてもよく解る。

 だからあなたの主は、イルヤさま。






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