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えらいひと
しおりを挟む──馬をあいしてるソゾは、自分に、似てるかも。
思うと笑みがこぼれるセバに、コゴも笑う。
「へえ、ソゾにむっとしない子、初めて」
首を傾げるセバに、コゴの顎が、馬の湿布に夢中なソゾを指した。
「いつも馬しか見てねえからさ『こっち向けよ』って大抵キレる」
「今、治療中で大変だからだろう?」
「いや、いつも。常に。馬しか見てねえ」
吹きだしてセバが笑った。
自分と、おなじだ。
いつも、ゲォルグしか見えてない。
「それで処分されそうになった馬の世話をしてあげてるんだ?」
「……うん。最後くらいさ、やさしくしてほしいだろ。人間も、きっと馬も。
ソゾが無理を言ったんだけど、院長、やさしいからさ、馬を置いてもいいって。
今日も、なんかえらい人が来るから並べって言われたんだけど、ソゾがいねえと馬が啼くから」
馬を、あいして、馬に、あいされてる。
……一方通行の自分と、ソゾは、ちょっと違う。
うらやむ気持ちに、蓋をした。
「ソゾは御者になりたい?」
「馬の世話ができたら、何でもいいなあ。厩番兼御者とか? 馬とずっと一緒にいたい」
「なるほど。コゴは得意なことは?」
「んー、ソゾが馬ばっかだからさ、他のことは一通りできるぜ」
「やさしい兄貴なんだな」
「へへ。血は繋がってねえけどさ、うちの孤児院、皆、誰かを家族にするんだ。ソゾは俺の弟だから」
鼻の下を擦って、照れくさそうにコゴが笑う。
「そうなのか」
瞬いたセバに、コゴが息をのむ。
「……あ。言ったらだめだったかも。院長が、皆で家族になろうってしてて、それで黙ってようって……あちゃー」
言ってしまった。項垂れるコゴにセバは微笑む。
「だいじょうぶ。告げ口したりしないから」
なるほど、所在なさげに、自信なさげに見えたのは、いつ自分が『おねえちゃん』『おにいちゃん』口走ってしまうかと不安だったからだろう。
ジェディス領の孤児院は院長の裁量で運営することを認められているけれど、どこまでが許容範囲なのかは難しい。
反対されたら、家族になれなくなってしまう。
でもどうしても孤児院の皆に、家族がひとりもいない皆に、お互いを家族としてほしかったのだろう。
孤児の皆も、きっと家族になりたかった。
微笑むセバの向こうから、頭の芯が痺れるような香りがした。
「セバ?」
戻らないから見に来てくれたらしいゲォルグに跳びあがる。
「申し訳ございません──!」
あるじに、自分を探させるなんて、最低だ──!
低頭するセバに、ゲォルグはかるく手を挙げた。
敬礼を解くセバと、つややかな白の衣をまとうゲォルグに、ぽかんとしたコゴが跳びあがる。
「うひゃあ! えらい人だ、ソゾ──!」
「……もうちょっと」
すり潰した薬草を馬の脚に塗りこみ、丁寧に包帯を巻いてゆくソゾは、顔をあげることもしなかった。
そのソゾの手元と、コゴが持っている薬草に目をやったゲォルグは、安心しきったようにソゾに身をゆだねる馬の頬をやさしく撫でた。
「治療してもらえて、よかったな」
「ヒヒン!」
いななく馬に、ゲォルグが微笑む。
「……うひゃあ、また、すんごいお顔で……」
「コゴ!」
こら!
セバの叱責の滲む呼び声に跳びあがったコゴが、あわてたように頭をさげた。
「……まあ、セバも相当な顔だけど……ほんとに孤児かよ……」
「コゴ?」
「黙るから!」
あわあわしながら、しゃんとするコゴに、ゲォルグが喉を鳴らした。
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