【完結】ずっと、だいすきです

根性？

　ぎゅっと唇を噛むセバのうえから、けげんそうな声が降ってくる。

「セバ、知り合いか？」

　ゲォルグの声に、跳ねるように顔をあげた。


「……入学試験のときに、一緒になって……」

「うそ、セバ、ゲォルグさまとお知り合いなの！？」

　驚愕にだろう、目を瞠るエィラに、前に言えなかったことを申し訳なく思いながら口をひらく。


「ジェディス領都孤児院の出身なんだ。それで……」

「……あ、そうなんだ。勉強、すごく頑張ったんだね。すごいね、セバ」

　微笑むエィラに、孤児を蔑む目も、卑しい者を見下す態度も、何もなかった。

　孤児が帝立学院に入学することが、どれほど難しいか理解して、ただ純粋に讃えてくれる。

　やさしいエィラに『ゲォルグさまを、知ってる』言えなかったことを、苦しく思った。


「ありがとう、エィラ」

　微笑むセバに、微笑み返したエィラが、丁寧に頭をさげる。


「はじめまして、ゲォルグ・ディオ・ジェディスさま。エィラと申します。入学試験のときに、セバに仲良くしてもらって、これからも仲良くしてもらえたらと思っています」

　ふうわり笑うエィラは、とても可愛くて、きらきら光が舞った気がした。

　ゲォルグが、エィラを見つめる。
　左手の指に嵌まった指輪が、きらめいた。


「……なぜ、俺の名を？」

　怪訝そうに眉をしかめるゲォルグに、わたわたしたエィラは、微笑んだ。

「え、えぇと、家の商いで帝宮舞踏会に衣装をお持ちしたことがあったんですが、そのときにお名前とお姿を」

　セバは見たことがないけれど、舞踏会では
『ゲォルグ・ディオ・ジェディスさま、ご来臨！』入場のときに従僕が名を呼んでくれるらしい。

「ああ」

　納得したように頷いたゲォルグは、微笑んだ。

「ゲォルグ・ディオ・ジェディスだ。よろしく、エィラ」

　ゲォルグが差しだした手を、跳びあがったエィラが、真っ赤な頬でにぎる。

「よ、よろしくお願いします、ゲオさま！」

　薄紅の髪をふわふわ揺らして、エィラが笑う。
　輝くように愛らしいエィラに、ゲォルグの瞳が瞬いた。


　──……どうか、すきに、ならないで。

　祈るように、願ってしまう。


「……ゲオは近しい者が呼ぶ愛称だから、初対面では、控えてほしい」

　静かなゲォルグの声に、真っ青になったエィラが頭をさげる。

「も、申しわけございません──！」

　低頭するエィラに、ゲォルグは首を振って、かるく手をあげた。位の高い者がする、頭をあげてよいという合図だ。

「ゲォルグ・ディオ・ジェディス殿、お待ちしておりました。そちらはセバ殿ですね、ようこそ帝立学院へ」

　迎えに来てくれたのは、壮年の事務員だろう。

　……平等を謳う学院とはいえ、次期筆頭侯爵にはお迎えがあるんだな。
　感心していいのか、憤慨していいのか迷うセバに、事務員らしき人がセバに向かって微笑んだ。

「文言を、送ってくれませんでしたね」

　………………。

　新入生のあいさつ？

　今朝、ゲォルグさまに言われるまで忘れ果てていました。

『ごめんなさい！』謝るのではなく、セバは微笑んだ。

「ゲォルグさまのごあいさつだけで、充分だと思います」

　堂々と拒否るセバに、事務員は目を剥いた。


「……うわぁ。最年少なだけあって、根性もすご……」

　ぽそぽそ言われた言葉は、聞こえなかったことにしました。


「きみ、失礼じゃないか？」

　ゲォルグが凍気を発してる──！