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ごめんなさい
しおりを挟むセバは、メナから聞いていた。
「ジェディス家の魔力は、とても特殊で、子がとてもできにくい」と。
広大なドディア帝国中を探しても、その魔力に耐え、子をうめる者は、ほとんどないという。
代々ドディア帝国の防衛を担ってきた、稀少な氷の魔法が使えるジェディス家の存続は、ドディア帝国の国務でもある。
18歳の成人となり、伴侶をもてるようになった今のゲォルグの急務は、子をなすことだ。
ドディア帝王の命を受けた帝国魔導院が、帝国中に鑑定魔法を張り巡らせ、ゲォルグと子をなせる者を探索していた結果が出たという。
本人は謙遜するが、ゲォルグは魔力がとても高い。
子は難しいのではないかと言われていたが、すべての帝国民を鑑定した結果、帝国中でただひとり、エィラならば無事に子をうめるだろうと判断された。
──ノザでは、なかった。
どうしてだろう。
セバは、うれしいと思ってしまった。
ノザとなら、戦えない。
幼馴染みという、もう誰にもどうしようもない凄まじい威力の攻撃を放ち、ゲォルグの心の特等席にずっと座り続けるノザと闘うだなんて、不可能だ。
『できない』思うことが自分の首を絞めることを知っている。
それでも、誰も辿りつけない天才の高みにいるノザが、ゲォルグの幼馴染みで愛らしい筆頭公爵家のノザが立ちはだかるなら、孤児で凡庸な容色と資質のセバには万に一つの勝ち目も見えない気がした。
……おなじ平民のエィラとなら、戦えると思っているのだろうか。
泣いてすがって、ようやく従僕にしていただいた分際で。
──あさましい。
うなだれるセバを、メナは帝国魔導院まで連れていってくれた。
「帝国中を探索する大まかなものではなく、詳細に鑑定してくださいませんか。魔力量が多少無理でも、そこは薬剤で何とかします。身体の負担を度外視して、ゲォルグさまの子をセバがうめないか、鑑定してください」
頭をさげてくれたメナに跳びあがったセバは、燃える頬で一緒に頭をさげた。
そうだ、平民のエィラが、ゲォルグの子をうめるなら。
もしかして、もしかすると、セバにもゲォルグの子をうめる力があるかもしれない。
エィラがゲォルグさまの子をうむとしても。
ジェディス家の子は、希少な氷の魔力を継ぐ子は、ひとりでも多いほうがいい。
エィラの予備として、自分がゲォルグの子をうめるかもしれない。
頭の芯も、身体の奥も燃え熔けるような愉悦に、ふるえた。
……あなたの子を、うむ。
最愛のあるじである、あなたと、自分との子が、この世界に生まれてきて、笑ってくれる。
どれほどの、しあわせだろう。
どれほどの、さいわいだろう。
期待と恋慕に燃える胸で、セバは、大陸でも最高の技術と精度を誇るドディア帝国魔導院で、詳細な鑑定を受けた。
結果を出してくれたのは、白い眉のおじいちゃん魔導士だった。
ドディア帝国魔法界の権威だという。
セバをもう一度、間違いがないか、青みを帯びた瞳で見つめた魔導士は、首を振った。
「残念ながら、ゲォルグさまの魔力を受ける器ではない。成長して魔力量は増えたとしても、魔力の相性は生涯、変わることはない」
しゃがれた声が、告げる。
「子は、できぬでしょう。どれほど愛しあっていたとしても」
……あさましい夢を見たからだ。
エィラは、セバのたったひとりの、ともだちなのに。
ゲォルグさまを、エィラが慕っていることを、知っているのに。
エィラが、ゲォルグさまと結ばれるなら、よろこぶべきなのに。
予備に、なりたいだなんて。
何番目でもいいから、あなたの子をうみたいだなんて。
……醜い願いを……ごめんなさい……
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