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伴侶
ゲォルグとエィラ、ふたりが伴侶契約を交わした。
ドディア帝国での伴侶は、家と家との契約だ。
互いの家に不利益がないよう、利益となるよう、綿密に契約書を作成し、両家当主の認可と、ドディア帝王の許可を得て、はじめて伴侶契約となる。
ひとりひとりに宿る魔紋を使って、伴侶となることを誓約し、ドディア帝王陛下の認可を得れば、伴侶として認められる。
氷のようにきらめくゲォルグの魔紋と、愛らしい薄紅のエィラの魔紋が重なるさまを、ゲォルグの従僕として見守ったセバは、焼け爛れる胸で、微笑んだ。
「おめでとうございます」
……笑えたと思う。
ちゃんと、口角はあげた。
涙が滲んでいても、感動しているからに見えるといい。
セバを見たエィラが、心を痛めたように目を伏せた。
やさしいエィラは、きっと心配してくれているのだろう。
セバの目にゲォルグしか映っていないことは、誰の目からも明らかなようだから。
涙をぬぐったセバは、祝福を告げる。
「おめでとう、エィラ。しあわせに、なってね」
ちいさなエィラのかんばせが、くしゃりとゆがんだ。
「……セバ……!」
抱きつくエィラを、抱きしめる。
「……ごめん……」
ちいさな、ちいさな声に、驚いたセバは首を振る。
「エィラが謝ることなんて、何もない。ゲォルグさまの子をうんでくれるんでしょう? ゲォルグさまの従僕としても、とてもうれしいよ」
本心だった。
「心から感謝を。ありがとう」
セバを見つめたエィラの薄紅の瞳が、ゆれる。
「……僕は……」
エィラの手のなかで、心の臓の形の紅いひかりがきらめいた。
「帝王陛下の勅令だ。魔導院へ」
ゲォルグの言葉に、セバはエィラとともに振り返る。
エィラと伴侶になったゲォルグは、手をのばせばふれられるほど近くにいるのに、どこか遠く霞んでゆく。
見あげるゲォルグが輝くようで、セバはそっと、目を伏せた。
「多大な負担をかけてしまうが、俺の子をうんでくれることに、感謝する」
微笑むゲォルグの氷のかんばせに、エィラはかすかに息をのむ。
「ありがとうございます、エィラさま」
ゲォルグの伴侶になったのだからと敬礼するセバに、エィラは目を剥いた。
「やめてよ! 今までどおりでいい。……セバが……こんなひどいことをする僕と……まだ、ともだちで、いてくれる、なら……」
ふるえる声に跳びあがったセバは、笑う。
「俺と、ともだちになってくれたのは、エィラだけだよ」
伴侶契約をした緊張にだろうか、冷たいエィラの手を握る。
「あるじの伴侶としても、よろしく、エィラ」
今度は、ちゃんと、笑えた。
安堵したセバの唇が、やわらかに笑みをえがく。
はじめて逢ったときから、エィラはずっと、やさしかった。
ただ、おなじ人を想っただけ。
──選ばれたのは、エィラだった。
ただ、それだけ。
だからセバは、焼け熔ける胸で、笑う。
「しあわせになってね、エィラ」
友のしあわせと、自分のさいわいが、並び立たないことを哀しく思った。
……いや、何を、あさましいことを。
セバは、首をふる。
ゲォルグさまのお傍でお仕えできる。
それこそが、至上の、さいわいだ。
泣いてすがって、従僕にしていただいたことを思いだす。
ただひとりのあるじのお傍にいられる、至上のしあわせを、噛み締めた。
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