【完結】ずっと、だいすきです

  *  ゆるゆ

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どんびき?

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 竪琴がやわらかに楽を奏でる。
 春の夜を魔道具の明かりが照らしだし、ドディア帝国帝宮を染めあげる。

 きらびやかな衣がひるがえり、細い足首が竪琴と踊る。

 見つめるセバは、壁の影だ。


「平民ですが、エィラさんはとても優秀だとか」

「なんとお可愛らしい」

「お似合いですな」

「いや、ゲォルグ殿がうらやましい」

 ドディア帝国で最も大きな、貴族一同が会する春の舞踏会で踊るふたりは輝いて、セバはそっと目を伏せる。


「だいじょぶか、セバ」

 馬車と馬を預けたソゾが戻ってきて、セバは首をかしげる。

 だいじょうぶ?

 もう夜も深い、夕食を食べたかということだろうか。

「ああ、ご飯なら、食べた。そこのお肉がおいしかった」

「ほんとか!」

 お肉に突進したソゾが、口いっぱいにお肉を頬張って、もぐもぐしてから首をかしげる。

「コゴ兄のが、うまくね?」

「確かに」

 笑ったセバと一緒に、ソゾも笑った。

 言葉はぞんざいだし、馬しか見えていないが、ソゾはしゅっとした凛々しい青年だ。
 貴族の令息たちが立ち止まり、声をかけたそうにしているのに、セバはちいさく笑う。

「もてるな、ソゾ」

「馬にな」

 胸を張るソゾに笑う。

「人間にも」

「興味がない」

 ソゾの興味は、馬に極振りらしい。
 名前と顔を覚えてもらえているセバは、すごいと思う。


「俺のことはいいんだよ。セバは? 辛くねえの?」

 ソゾの視線の先で、やわらかな明かりに照らされ、きらめくように、ゲォルグとエィラが踊っている。
 エィラの胸元で紅いひかりが輝いて、エィラの細い腰を抱くゲォルグが微笑んだ。

 ぼんやり見つめたセバは、ぼんやり唇を開く。

「ジェディス家の皆が心配してくれる。ありがたいことだと思う」

「だ、か、ら! 辛くねえの?」

 お肉を食べ終わったソゾの真面目な顔に、セバは微笑む。

「めちゃくちゃ辛い」

「なのに、なんで、そんな笑ってんの。なんで、エィラにやさしくできんの」

 理解不能だと言いたげに眉をしかめるソゾを隣に、セバは光のなかで踊るゲォルグとエィラを見つめる。

「あまいから」

「……へ?」

 ぽかんと口を開けるソゾの向こうで、ゲォルグの白い衣がひるがえる。


「ゲォルグさまがくださるもの、すべてが、頭の芯がしびれるほど、あまい。
 胸を焦がす悋気も、独占欲も、心を裂かれることさえ、たまらなくあまい」

 うっとり、告げた。

 狂気のような、あまい恋を。


「………………うわあ…………」

 ソゾが、ドン引いてる。

 セバは、笑った。


「俺はほんとうに、わがきみのものだと思う。
 お傍にいられたら、他に何もいらない。
 お傍にいるためなら、何だってする」

 竪琴が終わる。

 エィラの手をとったゲォルグが、一直線に戻ってきてくれる。


「セバ」


 あなたが、名を呼んでくれる。

 あなたのためにつけられた名を。

 それ以上のよろこびを、知らない。



「ゲォルグさま、おつかれさまでございます。どうぞこちらのお飲み物を。よく冷えております」

 うやうやしくゲォルグに差しだした。


「エィラはこっち。マルラの花の香りのするごく弱いお酒であまいものだ。名前が似てるから、すきって言ってたよな」

「わあ、ありがとう、セバ」

 ゲォルグの腕に、腕をからめたままのエィラが、笑う。


 胸を切り裂く灼熱さえ、あなたがくれるなら、あまい。


 うっとり恍惚さえのせてゲォルグを見あげるセバに、後ろのソゾが、ドン引いてる。






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