【完結】ずっと、だいすきです

  *  ゆるゆ

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ただ

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「メナさまが、それを仰いますか?」

 セバは、喉を鳴らす。


 イルヤの従僕でいること以外を望まない、メナが?

 誰からも望まれるすさまじい才を持ち、帝家からの懇願をも断り、イルヤただひとりに仕え続けるメナが?

 あるじ以外に仕える選択肢を潰すことを後悔しないかと、問う?


 笑うセバに、メナも笑う。

「愚問だけど、イルヤさまも、ジェディス家の当主としてジーグさまも、ゲォルグさまも、ちゃんと聞くようにって。僕になら本心を話せるだろうし、僕ならセバの本心を見抜くだろうから、と」

 セバは、息をのむ。

「……ゲォルグさまも……?」

 メナが頷く。

「セバはどこに行っても輝ける。ゲォルグさまの従僕として才覚を潰してしまうのは忍びないって」


「は──!」

 セバは、鼻で笑った。


「ゲォルグさまのお傍にいられないなら、死んでいるのと同じです」


 氷の声が、自分の喉からこぼれたことに、驚いた。

 メナの教育のたまもので、音をたてずに一瞬で扉に近づいたセバは、音をたてずに扉を開ける。


「聞こえましたか、ゲォルグさま」

 突然開いた扉に、気まずそうに目を逸らしたゲォルグが唇を開く。


「……しかし、セバには栄達の道が──」

 いつも涼やかな氷の瞳が、揺れている。


「ゲォルグさまにお仕えする、至高のさいわいを、俺から取りあげないでください」

 セバは、まっすぐ、ゲォルグを見あげる。


「捨てたら、死にます」


 まるで脅迫だ。

 なさけない。

 おもうけれど、恥ずかしいけれど、真実だ。



 目を瞠ったゲォルグは、ゆるゆる吐息した。


「……セバがどうして、俺に仕えたいと思ってくれるのか、いちばん解らないのは、俺だ」

 まるで苦渋のような呟きに、きょとんとセバは、瞬いた。


「ゲォルグさまが、俺のあるじだからです」


 ──人を愛するのに、理由は必要ですか。


 顔がいい、頭がいい、背が高い、高収入、そんな理由なら、なくても構わない。

 やさしい、気が利く、誰かの悪口を言わない、価値観が同じ、そんな理由なら、他に同じ特徴を持っている人だって、たくさんいる。


 あなたでなければならない理由なんて、わからない。

 でも、初めてお逢いしたときに、わかったんです。


 ──あなたが、あるじだと。


 あなたが、唯一だと。


 替えなんて、きかない。


 ──あなたしか、いないのだと。




「わがきみ」


 お慕いしています。心から。

 だからどうかずっと、お傍で、仕えさせてください。


 ただ、あなただけに。








 セバのさいわいは、ゲォルグに仕えること。

 わがきみのお傍にいること。


 ただ、それだけなのに。



 外野が、うるさい。



「セバ、きみの頭脳を、従僕で埋もれさせるだなんて、ドディア帝国の多大なる損失だ!」

「考え直せ、セバ!
 きみなら宰相にもなれる!」

「ロァルド家次期当主とも闘える!」

 両肩を掴んで揺さぶらないでください。

 もうすぐやっと10歳で、脳みそが成長途中です。


 ゲォルグの従僕として、天才ノザのロァルド家にお伺いすることもあったセバは、ロァルド家次期当主、ロァルド家第二子ノノ・ディオ・ロァルドにお目にかかる機会もあった。

 ひと目見て、理解した。

 刃向かえば、殺される。

 あれは絶対に逆らってはいけない人だ。


「ノノさまに逆らうなんて、死にたいと言っているようなものですよ」

 告げるセバに、皆は引きつった。

「え、いや……セバなら、どうにか……」

「してくれると思って──! こわいから──!」

 泣いてる。


 気持ちはわかるけど、こっちにこわいのを持ってこようとしないでください。


 10歳です。







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