【完結】ずっと、だいすきです

  *  ゆるゆ

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おら?




 エィラはきっと、苦しんでる。

 心の負担は、身体をもおかしくさせることがある。
 すこしでもエィラの心が軽くなるよう、薬湯かなにかを処方してほしい。

 セバの進言で、すぐにジェディス家お抱えの医士が呼ばれた。

「具合がわるいところはないのですが……」

 遠慮するエィラを、おじいちゃん医士は、丁寧にやさしく診察してくれた。

「魔法でお子さまがうまれる場合でも、お子さまがうまれた後に情緒が不安定になってしまうのは、よくあることなのです。どうかお叱りになったり、責めたりなさらず、あたたかく見守ってさしあげてください」

 心配していたのだろうゲォルグは、安堵したように微笑んで、そっとエィラの肩を抱いた。

「ゲォルグさま、ありがとうございます」

 微笑むエィラは、ゲォルグの伴侶で、ジゼの母だ。


 セバには決して持つことのできないすべてを手にした人。


 焼けつく痛みを胸に見送るセバを、ちょいちょい指で医士が招いた。

 あまりゲォルグとエィラに聞かれたくないことを話す定位置となってしまったジェディス邸のメナの執務室で、セバはメナとともに医士に対する。

「……エィラさまは、かなり情緒が不安定になっておられます。脈も定まらない。落ち着いているように見えるのは、自制のたまものです。心に多大な負荷が掛かっている。薬湯をお出ししますが、効果は……」

 医士は残念そうに首を振った。

「ほんの些細なことで、決壊します。
 ジゼさまから目を離さず、誰かはいつもお傍にいて、お守りくださいますように」

 医士の言葉に、メナは深くうなずき、セバは唇を噛んだ。


「メナさま、今からでも、ジゼさまの名を変えませんか。エィラとゲォルグさまの音を入れた名に」

 瞬いたメナが、首をかしげて、つぶやいた。

「オラ?」

 吹きだして笑ったセバと医士に、メナも笑う。
 なごませてくれたメナに感謝しながら、セバはうなずく。

「それでもいい。ゼもセも、ハもバも、だめです。エィラが気にしてしまう。──何の関係もない俺を」

 進言するセバの目をのぞきこんだメナは、長くほそく、息をついた。


「……ああ、そうだね。ゲォルグさまに進言しておく」

 メナは言ってくれたのに。


『ジゼ』
 名は、変わらなかった。



 分不相応だとわかっている。

 それでも

「ジゼ」

 ゲォルグが呼んで、とろけるような、やさしい笑みを浮かべて赤子を抱くたび、傷ついたように目を伏せるエィラを、見ていられない。

 また間違ってジゼに手をあげたりしたら、ジゼも、エィラも傷ついてしまう。

 まだ何が起きようとしているのか理解できないかもしれないジゼよりも、きっと、エィラのほうが、傷つく。

 我が子に、ゲォルグとの子に手をあげるなんて、やさしいエィラの望みとはかけ離れたものだ。
 そんなこと、もうエィラに、させたくない。


「ゲォルグさま!」

 ソゾに馬車を出してもらったエィラが買い物に出かけたときを狙って、セバはゲォルグの執務室に駆けこんだ。


「セバ、ジェディス領東北部の降水量の経年変化を調べておいてくれないか。近年雨が減っているようで、干ばつの危険がある、利水工事を急がせないと──」

「ジゼさまの名を、変えてください!」

 あるじの言葉を遮ってまで叫んだセバに、ゲォルグは凛々しい眉をあげた。







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