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愛してた
しおりを挟むどうして、エィラをもっと、思いやれなかったのだろう。
『ジゼを愛してほしい』
セバは、要求するばかりで。
わがきみの伴侶になったんだから、子どもをうんだんだから、皆に認められて、舞踏会で踊って、やさしく抱きしめられて、セバが持ちえないしあわせを一身に受けて微笑むエィラが、うらやましくて、にくらしくて。
どれだけ、エィラが辛い思いをしているのか、考えようとせずに。
「ごめんなさい、エィラ……!」
あふれる涙で、抱きしめる。
「俺が、エィラを支えるから。ジゼさまのお母さまは、エィラだけなんだ。他の誰にも代わりはできない。だから──」
セバの肩に顔をうずめたまま、エィラは首を振った。
「僕、がんばったんだよ。あの子を、何とか愛そうって。
僕の子なんだから。僕の面影は全然ないけど、ゲォルグさまによく似た可愛い子だ、大事にしよう、大切にしようって。3年、がんばった。僕の故郷の言葉で、石の上にも3年っていうから、3年は頑張ろうと思って、必死で」
星の瞳から、ひかりが、消えてゆく。
「……だめだった。──僕は、あの子を、愛せない」
絶望の声だった。
「……あの子が成長して、大人になったら、向きあえるかもしれない。でも、ちいさな子どもの頃に、親に憎まれたら、無視されたら、あの子に傷を負わせてしまう。
……僕は、あの子の母として、ふさわしくない」
「そんなわけ──!」
悲鳴をあげるセバに、エィラは首を振る。
「……もう、無理なんだ、セバ」
顔をくしゃくしゃにして、エィラは泣いた。
「このままじゃ、あの子をぐちゃぐちゃにして、僕も壊れる。誰も、しあわせに、なれない」
セバにすがる指が、ふるえてる。
「現実の世界で、課金アイテムなんか使って、ゲォルグさまを僕のものにしようとした報いだよ。……ぜんぶ、僕のせいだ。
……帝王陛下の命なんだ、子どもだけうんで、お金をもらって、さよならしてれば、誰もこんなに苦しまずに済んだのに」
星の瞳から、涙が落ちる。
「──ゲォルグさまを、愛してた」
愛の告白が、虚ろな哀絶を響かせて、砕けた。
「どんなことをしたって、お傍にいたい気もちは、誰よりわかる」
セバは、涙のエィラを、抱きしめる。
「俺が傍にいるから、だから──!」
エィラは、首を振った。
「もう、辛いんだ。
ゲォルグさまがセバを見るのも、あの子がゲォルグさまに愛されるのも。何もかも、痛くてたまらない」
セバの胸に手をついたエィラは、すこし身体を離して、笑う。
「こんな僕でもね、可愛いって、愛してるって言ってくれる幼馴染みがいるんだ。平民で、顔もふつうだし、才能も何にもない。でも僕だけを見て、どんなに醜くて酷い僕のことも、愛してるって言ってくれるんだ」
「……エィラ……」
「……僕、愛されたい。今まで愛されなかったぶん、愛してほしい。あまやかしてほしい。カラカラな心と身体を、満たしてほしい」
絶望の瞳で、エィラは笑う。
「愛してくれるのは、ゲォルグさまじゃない」
エィラの腕が、セバを抱きしめる。
「あの子を、おねがいね、セバ。僕のぶんも、愛してあげて。あの子は、セバの名を継いだから」
「そんなわけ、ない──!」
セバの悲鳴に、顔をくしゃくしゃにして、エィラがささやく。
「ゲォルグさまと、離縁する」
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