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秋の課題編
第二十二話 二人の騎士
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課題の紛失事件から一夜明け、私たちは早朝のうちに学園の敷地内に建つ職員宿舎を訪れた。目的は、アンダーソン教授よりも先にホーク助手に会うことだ。
とはいえ、さすがに私は独身男性用の宿舎には入れない。なので、正確にはクラークとチェイサーが彼を迎えにいき、人のいない講義室まで引っぱってきたというのが正しい。
「それで? こんな早朝から何の用かな?」
目の覚め切らない顔のホーク助手は、めずらしく不機嫌そうな声を出した。
トレードマークの丸眼鏡も、よれよれの白衣も今は身につけていない。ノーカラーのシャツにジャケットを肩に羽織るというくだけた格好のせいで、普段よりもずいぶんと若く見えた。
クラークが丁寧に頭を下げる。
「朝早くに申し訳ありません、ホーク先生」
「申し訳ないって顔には見えないよ」
じっとりとした目をクラークに向け、ホーク助手はため息をついた。
「まさか宿舎にまで押しかけてくるなんてね」
呆れた様子で私たち三人を眺め、机の上にどかりと腰を下ろす。
まるで学生のような立ち居振る舞いに内心眉をひそめながらも、私からも非礼を詫びた。今、彼の機嫌を損ねるわけにはいかないのだから。
「申し訳ありません。どうしても、朝のうちにホーク先生にお願いしたいことがありまして」
彼はあくびを噛み殺すと、わざとらしく窓の外を見遣った。
「まだ空は暗いじゃないか。夜だよ、今は」
よほど朝に弱いのか、ねちねちと文句を言う。そんなホーク助手を取り囲み、私たちは互いに目配せをした。
すぐにチェイサーが封筒を彼に向かって差し出す。中身は昨日コレットから取り上げたレポートだ。
さして興味もなさそうに、ホーク助手はその包みを受け取ってこちらを見た。
「これは?」
「先日お渡しした課題に落丁がありましたので、このページを追加していただきたいのです」
「落丁? 僕が確認した時にはそんなものなかったけど」
「ええ、ですから、ホーク先生がうっかり落としてしまったことにしていただけません?」
シナリオはこうだ。
私が提出した課題は、ホーク助手の手元にある時に綴じが開いてバラバラになってしまった。それを彼が搔き集めて再度製本したものの、コレットのレポートだけを綴じそびれたというわけだ。
正直、非常に苦しい言い訳だと思う。ただ、先日見た彼の机の上の乱雑さを思えば、あり得ない話ではないとアンダーソン教授に思わせることができるのではないかしら。
ホーク助手は封筒の中からレポート用紙を取り出すと、紙面に目を走らせながら低い声を出した。
「それで僕に何のメリットがあるのかな?」
「何もありません。ただただ、教授に叱られていただくだけですわ」
鋭い視線が私を刺す。眼鏡をしていない彼の目は、ひどく威圧的だった。
ただ、それに怯む私ではない。まっすぐその瞳を見つめ返すと、ホーク助手は鼻で笑ってひらひらと扇ぐようにレポートをかざした。
「それを僕が飲むとでも?」
「はい。だって、先生はこういう面白いことがお好きでしょう?」
私の言葉に、ホーク助手の瞳がわずかに見開かれた。
例えば彼が、生真面目で融通の効かない人間であればこんなことを頼もうという発想にはならなかった。
けれど、どこか斜に構えたところのある彼なら、面倒ごとに巻き込まれた私を面白がって首を突っ込むのではないかと踏んだのだ。
そしてそれは当たっていたらしい。
先程まで不愉快そうにしていたホーク助手は、途端にいつもの人を食ったような笑顔を浮かべた。
「確かに、これは面白そうだ」
再び目をレポートに落とすと、楽しげな声で続ける。
「つまり、誰かがこのコレット君のレポートを無くしてしまった。それが僕であることにしたいんだね?」
「ええ、そうです。ご理解が早くて助かりますわ」
口の端を上げて笑顔を作ると、ホーク助手は私同様に心のこもらない笑みを浮かべた。
「一つ聞きたいんだけど、どうして君はレポートを盗んだ犯人を見逃すの?」
彼の中では盗まれたことが前提になっているのね。恐らくすでに今回の事件の全容が見えてきているんだろう。
今さら否定するつもりもなかったので、そのまま訂正せずに答える。
「見逃してなどいません。それなりの罰を受けてもらいますわ。ただ、あらゆる状況を鑑みて、表沙汰にする判断をしなかっただけです。グループで内輪揉めしているなんて、教授に知られても心象が悪いでしょう」
「ふぅん?」
納得したのかしないのか、ホーク助手はにやにやと私を見つめた。
「いいねぇ、サリバン君。冷酷なようでいて甘い、そのアンバランスな感じがとても」
すうっと細められた目はまるで獲物を狙う猛禽類のようで、一瞬、肌が泡立つような感覚を覚えた。
しかし、その視線はすぐに遮られる。私とホーク助手の間に、クラークとチェイサーが立ちはだかったからだ。
「ふふふ、怖いなあ。そんな顔しなくても、取って食べたりしないよ?」
向こう側から、くすくすと笑うホーク助手の声がする。急に目の前に現れた二人に面食らいながらも、私は会話を続けた。
「それで、引き受けてくださいますの?」
「ああ、教授には僕からうまくいっておくよ。そのかわり、今度資料の整理を手伝ってくれる?」
「もちろん、俺とレオナルドでよければいつでもお手伝いしますよ」
間髪入れずにチェイサーが答える。後ろからその顔を覗きみると、険しい表情でホーク助手を睨みつけていた。
「ははは、二人の騎士殿に殺される前にそろそろ行こうかな。もう朝食の時間だしね」
そう言って、ホーク助手は鼻歌を歌いながら部屋を後にした。
とはいえ、さすがに私は独身男性用の宿舎には入れない。なので、正確にはクラークとチェイサーが彼を迎えにいき、人のいない講義室まで引っぱってきたというのが正しい。
「それで? こんな早朝から何の用かな?」
目の覚め切らない顔のホーク助手は、めずらしく不機嫌そうな声を出した。
トレードマークの丸眼鏡も、よれよれの白衣も今は身につけていない。ノーカラーのシャツにジャケットを肩に羽織るというくだけた格好のせいで、普段よりもずいぶんと若く見えた。
クラークが丁寧に頭を下げる。
「朝早くに申し訳ありません、ホーク先生」
「申し訳ないって顔には見えないよ」
じっとりとした目をクラークに向け、ホーク助手はため息をついた。
「まさか宿舎にまで押しかけてくるなんてね」
呆れた様子で私たち三人を眺め、机の上にどかりと腰を下ろす。
まるで学生のような立ち居振る舞いに内心眉をひそめながらも、私からも非礼を詫びた。今、彼の機嫌を損ねるわけにはいかないのだから。
「申し訳ありません。どうしても、朝のうちにホーク先生にお願いしたいことがありまして」
彼はあくびを噛み殺すと、わざとらしく窓の外を見遣った。
「まだ空は暗いじゃないか。夜だよ、今は」
よほど朝に弱いのか、ねちねちと文句を言う。そんなホーク助手を取り囲み、私たちは互いに目配せをした。
すぐにチェイサーが封筒を彼に向かって差し出す。中身は昨日コレットから取り上げたレポートだ。
さして興味もなさそうに、ホーク助手はその包みを受け取ってこちらを見た。
「これは?」
「先日お渡しした課題に落丁がありましたので、このページを追加していただきたいのです」
「落丁? 僕が確認した時にはそんなものなかったけど」
「ええ、ですから、ホーク先生がうっかり落としてしまったことにしていただけません?」
シナリオはこうだ。
私が提出した課題は、ホーク助手の手元にある時に綴じが開いてバラバラになってしまった。それを彼が搔き集めて再度製本したものの、コレットのレポートだけを綴じそびれたというわけだ。
正直、非常に苦しい言い訳だと思う。ただ、先日見た彼の机の上の乱雑さを思えば、あり得ない話ではないとアンダーソン教授に思わせることができるのではないかしら。
ホーク助手は封筒の中からレポート用紙を取り出すと、紙面に目を走らせながら低い声を出した。
「それで僕に何のメリットがあるのかな?」
「何もありません。ただただ、教授に叱られていただくだけですわ」
鋭い視線が私を刺す。眼鏡をしていない彼の目は、ひどく威圧的だった。
ただ、それに怯む私ではない。まっすぐその瞳を見つめ返すと、ホーク助手は鼻で笑ってひらひらと扇ぐようにレポートをかざした。
「それを僕が飲むとでも?」
「はい。だって、先生はこういう面白いことがお好きでしょう?」
私の言葉に、ホーク助手の瞳がわずかに見開かれた。
例えば彼が、生真面目で融通の効かない人間であればこんなことを頼もうという発想にはならなかった。
けれど、どこか斜に構えたところのある彼なら、面倒ごとに巻き込まれた私を面白がって首を突っ込むのではないかと踏んだのだ。
そしてそれは当たっていたらしい。
先程まで不愉快そうにしていたホーク助手は、途端にいつもの人を食ったような笑顔を浮かべた。
「確かに、これは面白そうだ」
再び目をレポートに落とすと、楽しげな声で続ける。
「つまり、誰かがこのコレット君のレポートを無くしてしまった。それが僕であることにしたいんだね?」
「ええ、そうです。ご理解が早くて助かりますわ」
口の端を上げて笑顔を作ると、ホーク助手は私同様に心のこもらない笑みを浮かべた。
「一つ聞きたいんだけど、どうして君はレポートを盗んだ犯人を見逃すの?」
彼の中では盗まれたことが前提になっているのね。恐らくすでに今回の事件の全容が見えてきているんだろう。
今さら否定するつもりもなかったので、そのまま訂正せずに答える。
「見逃してなどいません。それなりの罰を受けてもらいますわ。ただ、あらゆる状況を鑑みて、表沙汰にする判断をしなかっただけです。グループで内輪揉めしているなんて、教授に知られても心象が悪いでしょう」
「ふぅん?」
納得したのかしないのか、ホーク助手はにやにやと私を見つめた。
「いいねぇ、サリバン君。冷酷なようでいて甘い、そのアンバランスな感じがとても」
すうっと細められた目はまるで獲物を狙う猛禽類のようで、一瞬、肌が泡立つような感覚を覚えた。
しかし、その視線はすぐに遮られる。私とホーク助手の間に、クラークとチェイサーが立ちはだかったからだ。
「ふふふ、怖いなあ。そんな顔しなくても、取って食べたりしないよ?」
向こう側から、くすくすと笑うホーク助手の声がする。急に目の前に現れた二人に面食らいながらも、私は会話を続けた。
「それで、引き受けてくださいますの?」
「ああ、教授には僕からうまくいっておくよ。そのかわり、今度資料の整理を手伝ってくれる?」
「もちろん、俺とレオナルドでよければいつでもお手伝いしますよ」
間髪入れずにチェイサーが答える。後ろからその顔を覗きみると、険しい表情でホーク助手を睨みつけていた。
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