悪役令嬢は等身大な恋がしたい

都築みつる

文字の大きさ
33 / 41
冬の婚約編

第九話 祝賀会(1)

しおりを挟む
「わあ、アメリア様、とってもお綺麗です……!」

 鏡越しに私を見たメイドのココがうっとりした様子でため息をついた。

 ココは我が家に仕え始めてまだ一年目のメイドだ。主に来客対応や外へのお使いをやっているので、普段なら私の部屋に入ることすらないのだけれど、今日は特別。

 お父様とお母様、そして私の三人の身支度を済ませるには人手はいくらあっても足りないのだから。

 私には、アンナとココを含めた五人のメイドが割り当てられた。それぞれが朝からせっせと爪を磨いたり、顔のマッサージをしたり、髪に香油を塗ったりと大忙しだ。

 そうして髪を結い上げドレスを着るところまで済ませ、ようやく一息ついたところに放たれたのが、さっきの台詞だったのだ。

「落ち着きなさい、ココ。これからアクセサリーも選ばなきゃいけないし、化粧もしなくちゃいけないのよ?」

 まだ準備の半分が終わっただけなのにあまりにも褒めるので、なんとなく照れくさくなり嗜めるように言うと、ココはしょんぼりと肩を落とした。

「す、すみません、浮かれてしまって。アメリア様のお手伝いをするのが初めてだったので……」

 思った以上に落ち込むココを見て、慌てて言葉を継ぎ足す。

「褒めてくれたことは嬉しいのよ、ありがとう。先にそれを伝えるべきだったわね」

 私の言葉を聞いた瞬間、ココの表情はぱあっと明るくなった。そんな彼女の顔を、驚きの眼差しで見つめる。

 こんな一言でこれほどまでに喜んでくれるなんて。たった一言の感謝の言葉が、彼女だけではなく私まで嬉しくさせるなんて。

 ふと、休み前の課題提出の時のことを思い出した。アルバートに笑顔を向けられて、思わず出た周りへの感謝の言葉。

 あの時は、班全体がほんの少し私を受け入れてくれたような気がして、心の中が浮き足立つ感覚がした。

 これまでの私は、非を認めたら負けてしまうような気がして、謝罪はおろか感謝すらまともにしてこなかった。

 その結果、ありもしない罪を着せられかけたのだから、今後は少し態度を見直すべきかもしれない。

 今までの自分を変えるのは怖い。でも、少しだけでもお母様のような朗らかさを身につけることができたら。そうすれば、周りは……アルバートはもっと笑ってくれるかしら。

「この後もっとお綺麗になるのが楽しみです! アクセサリーはどれになさいますか?」

 ココの弾んだ声にはっと我に返る。

 いやだわ、夜会の支度中に何を考えているのよ。

「そうね……」

 軽く頭を振って気持ちを切り替えると、ココの抱えるジュエリーボックスに目を移す。中には、この日のために厳選したアクセサリーがいくつかセットで並んでいた。

 当日まで一つに絞らなかったのには理由がある。クラークが贈ると言っていた髪飾りが、一向に届く気配がなかったからだ。

 髪飾りがどんなデザインなのか見ないことには、アクセサリーも決まらないのよね。

 なんなら、髪飾りが届かないことも想定して全て準備はしてあるのだけど、本当にくるのかしら?

 訝しげにジュエリーボックスを睨みつけていると、部屋の扉がノックされた。

「入りなさい」

 許可を出すと静かに扉は開き、アンナが中に入ってきた。手には白い蘭の花束を抱えている。

「アンナ、それは?」

 私の問いに、アンナは花へと視線を落として答えた。

「たった今、クラーク様から届きました。こちらを髪飾りとして使っていただきたいとのことです」

「生花を?」
「えっ、素敵……!」

 私の疑問とココの感嘆はほぼ同時だった。

 アンナは後輩の無作法をぎろりと睨みつけ、次に私に向かって花を差し出した。

「いかがなさいますか? 今晩一晩は保つように処理をなさっているそうです。」

 目の前の蘭は、花びらに疵ひとつない非常に上質なものだった。

 しばらくそれを見つめた後、私は一つため息をついた。

「せっかく用意してくださったのだから、使わなければ失礼でしょう。アンナ、この花をコームにあしらうことは可能かしら?」
「もちろんです」
「じゃあお願いするわ。それからココ」

 アンナの視線に縮こまっていたココは、突然の名指しに飛び上がった。

「はっ、はい!」
「アクセサリーはパールにするから、ネックレスとイヤリングを準備して」
「かしこまりました!」

 また忙しなく動き始めたメイドたちを一瞥し、窓の外に目を向ける。

 暗くなり始めた空からは、ちらちらと細かい雪が降り始めていた。

(この季節に、蘭の花ね……)

 もやもやとした胸の内を表すように、空は灰色の雲で覆われていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

どんなあなたでも愛してる。

piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー 騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。 どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか? ※全四話+後日談一話。 ※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。 ※なろうにも投稿しています。

ルンルン気分な悪役令嬢、パンをくわえた騎士と曲がり角でぶつかる。

待鳥園子
恋愛
婚約者である王太子デニスから聖女エリカに嫌がらせした悪事で婚約破棄され、それを粛々と受け入れたスカーレット公爵令嬢アンジェラ。 しかし、アンジェラは既にデニスの両親と自分の両親へすべての事情を説明済で、これから罰せられるのはデニス側となった。 アンジェラはルンルン気分で卒業式会場から出て、パンをくわえた騎士リアムと曲がり角でぶつかって!?

最近のよくある乙女ゲームの結末

叶 望
恋愛
なぜか行うことすべてが裏目に出てしまい呪われているのではないかと王妃に相談する。実はこの世界は乙女ゲームの世界だが、ヒロイン以外はその事を知らない。 ※小説家になろうにも投稿しています

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

あざとさを捨てた令嬢は、若き公爵に溺愛される

古紫汐桜
恋愛
婚約者の裏切りを目撃し、命を落とした“私”が目を覚ましたのは、 見知らぬ貴族令嬢の身体の中だった。 そこは、誰かの悪意によって評判を地に落とした世界。 かつて“あざとさ”で生きていた彼女の代わりに、 私はその人生を引き受けることになる。 もう、首を揺らして媚びる生き方はしない。 そう決めた瞬間から、運命は静かに歪み始めた。 冷酷と噂される若公爵ユリエル。 彼もまた、自らの運命に抗い続けてきた男だった。 そんな彼が、私にだけ見せた執着と溺愛。 選び直した生き方の先で待っていたのは、 溺れるほどの愛だった。 あざとさを捨てた令嬢と、運命に翻弄される若公爵。 これは、“やり直し”では終わらない、致命的な恋の物語。

【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」  この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。  けれど、今日も受け入れてもらえることはない。  私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。  本当なら私が幸せにしたかった。  けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。  既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。  アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。  その時のためにも、私と離縁する必要がある。  アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!  推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。 全4話+番外編が1話となっております。 ※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。

処理中です...