最愛の番になる話

屑籠

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「それで、今日はしたいこと有る?」
「したいこと?」

 啓生が訪ねてくるが、したいこと、なんて思いつかない。
 
「そう、咲ちゃんがしたいこと」
「でも、啓生さんの予定は?」
「僕はほら、平日にも時間は有るからね」
 
 だから、俺に付き合ってくれるという。
 でも、何がしたいなんて、今すぐに思いつかない。
 けど……。

「あの」
「うん、なぁに?」
「俺、啓生さんと初めて会った時みたいに遊びたい」
「おっふ、そう来るとは思わなかった……そっか、うーん」

 少し考えて、啓生は宗治郎と風都に視線を送る。
 二人は、啓生にそろって首を横に降った。

「ごめんね、咲ちゃん。今日は無理っぽい。次の休みまでにはなんとかするから」
「あ、いや、無理なら良いよ。啓生さんに無理させたいわけじゃないし」
「もー、咲ちゃんは! もっと我儘言って良いんだよ? それに、絶対に無理なんて事はないんだ。でも、今日は準備が足りないから他にしたいことが有るなら言ってね」
「……啓生さんと話しができればそれでいいよ」

 そっか、という啓生の顔は酷く浮かれていて風都がとても冷たい目で啓生を見ていた。
 それでも、啓生と出会った時みたいにぶらりと出かけたいのも、啓生と話がしたいのも、どちらも本当。

「咲也様、啓生様など甘やかさずともよろしいのですよ?」
「など!? え、ちょっと風都!?」
「もっともっと振り回して差し上げればよろしいのです。四方は番に甘いのですから」
「滲み出る風都の悪意だよね? 四方の遺伝子が番に甘いのは事実だけど」
「いや、でも……待てば、風都さんも宗治郎さんも俺が啓生さんと出かけるのを守ってくれる、んだよね?」

 風都も宗治郎も俺の言葉に目を見張って、それから宗治郎はそっとメガネを直しながら笑った。
 実際、坂牧の家に居た頃はずっといろいろな意味で怖かった。アルファの父もオメガの母も。そして、アルファオメガの兄弟たちも。
 自分のことをどうでもいいと思ってるくせに、干渉だけはしてくるから。
 でも、俺が死にかけたときも、あの時だっていっときで終わってしまった。
 また、今度は本当に死んでしまうのではないかと本当に怖くて仕方がなかったんだと今ならわかる。
 でも、啓生と出会って番になってから、そう言った怖いと思うことはなくなった。
 常に誰かが居て、そして自分を気にかけてくれるのがわかるから。

「もちろんでございます。咲也様のために万全を期しましょう。えぇ、咲也様のために」
「そーじろー?」
「もちろん、咲也様のお邪魔などなさいませんとも。陰ながらお守りさせていただきます」
「風都? え、ふたりとも何なの? 咲ちゃんは僕の番なんだからね。ふたりとも、早く自分の番を見つけなよ」
「番を見つけたとして、咲也様は大切な主人でございますので」
「もぉおおおおお!! わかってる、僕が居ない間の咲ちゃんを任せるのに適任だって分かってるんだけど!! ちょっとは咲ちゃん離れしてって思うのは僕の我儘な理由!?」
「そうですね、啓生様の我儘でございます」
「すっぱり言わないで!」

 もぉー、と言ってぎゅうぎゅう抱きついてくる啓生。
 もう少しすねてるかなって思ったけど、ハッとしたようにそうだ! と顔を上げた。

「予定がないなら、雪藤のおじいさんに会いに行こうか」
「え、雪藤のおじいさんって」
「雪藤の前当主で、養子縁組した咲ちゃんのおじいちゃんにもなるね」
「そう言えば、俺って誰の養子になったの? 養子先の両親に会ったこと無いけど」
「そーじろー!」
「確認してみますので、少々お待ちください」

 そう言って、宗治郎は端末を弄りながらリビングを出てしまった。

「雪藤のじいちゃんは、俺にとってもおじいちゃんだから、養子縁組した咲ちゃんは俺の従兄弟って事になるね」
「そうなの? え、俺その、縁組した先で兄弟とかいるの?」
「気になるところ、そこ? 兄弟ねぇ……ねぇ、風都?」
「そうですね。私の他に、あとえぇと……5、6人は居た気がしますが」

 どうだったか、と首を傾げる風都は、そのあたりにあまり興味がないようだ。
 というか、戸籍上は風都と義兄弟になっているという事?

「え、じゃあ風都さんは俺のお義兄ちゃんなの」
「えぇ、戸籍上は。ただ、すみません。長らく他国に居たもので他の兄弟を私も知らないのです」
「興味なかったもんね、風都」
「えぇ。人はどうでもいいものを記憶していないでしょう?」
「どうでもいい……風都さんは兄弟が嫌いなの?」

 もし、そうなら……。そう自然と眉間にシワが寄ってしまう。
 けれど、困ったように風都は首を振った。
 
「いいえ、嫌いではありません」
「じゃあ、どうして?」
「うーん、なんと言えばよろしいのやら……」

 風都はとても考え込んでしまっている。
 というか、とっても困ったような顔をしていた。
 
「風都は、僕と会った日の後からずっと他国のバトラー学校に通ってたんだ」
「バトラー学校?」

 そう言えば、いつも風都はバトラー服を着ている。宗治郎はスーツなのに。
 でも、それを気にしたことはなかった。風都の立ち振舞にはとても似合っていたから。
 
「そう。僕付きにならないと決まったら、次に求められるのは番に仕えられる人だからね」
「まだ見ぬ番様のために自分に出来ることを、と思ったのです」
「じゃあ、その……自分の兄弟が困ってたときは、どうするの? 助けてって言ったら」
「助けて、ですか……状況によりますね」
「状況による……?」

 風都は今もなお、困ったような顔をしている。
 本当に、兄弟についてあまり興味がないようだ。
 あの人達と同じ……?
 
「えぇ。それが甘えからくるのなら、助けないでしょう。けれど、本当に困っている、命に関わるとなればもちろんお助けします。そもそも、私が助けに行くよりも先に何とかなさるでしょうが」
「そう、なの……」
「咲也様。助けを求めているかどうかは、きっと顔を見ればわかります。それに、私が特別つながりが薄いだけで、他の兄弟達は仲が良いとのことです。大丈夫ですよ」
「どうしてわかるの? 見てないのに」
「私の子飼いを、兄弟たちにはつけていますので。報告は上がってきております」
「子飼い?」
「えぇ、子飼いです。まぁ、部下ってところですね。重要な事があればすぐに報告が来るので、今のところは大丈夫ですよ」

 部下って、バトラー学校に通っていてなんで部下が出来るんだろう?
 それに、兄弟たちにつけてるって、その統括をしてるのが風都ってこと?
 じゃあ、本当に何かあればわかるってことか。
 
「でも、五、六人って兄弟多いね」
「あぁ、はい。そこが気になっておいでで。えっと、なんて言えば良いのか……この間、増えて減ったと聞いたので」
「増えて減る? 兄弟って増えるけど、減らない気がする」

 こんなに年が離れてるのに、弟か妹が生まれたのかな?
 そう言えば、オメガは特に年齢に縛りなしに妊娠出産できるって聞いたけど、本当なのかな?
 でも、減るって何?
 
「えぇ。番様方のご家庭に事情があれば我が家で引き取り、そして四方の方々へ嫁ぎます。なので、私の血のつながった兄弟と言うのは少ないのできちんと把握していますが、えっとどれだけ四方の番様がいるのかは……」
「なるほど? え、じゃあ俺も?」
「えぇ、一番最近増えた兄弟と言うのは咲也様ですね」
「でも、風都さんは番に、オメガに仕えたかったんでしょ? どうして、その人達に仕えようとは思わなかったの?」
「そうですねぇ……」

 ちらりと風都は、俺を抱きしめたままの啓生を見た。
 ん? と俺も啓生を見ると、啓生はなに? と首を傾げる。

「何? 僕は何もしてないよ?」
「えぇ、啓生様は何もしておりませんが……」

 はぁ、と本当に嫌そうにため息を吐いた風都。

「オメガの方に仕えると言うことは、その番のアルファとも切っては切れないのです。アルファというのは、もともとプライドの高い生き物ですので、自分も含めて。なので、自分より劣るアルファの番様に仕える気は起きなかったのです」
「啓生さんは、風都と同じくらいって言ってなかったっけ? そう言えば、啓生さんって強いの?」

 アルファとして強い、四方の血が濃い、などなどいろいろ聞くけど、強いってなんだろう?
 それに、雫も警戒しているぐらいだから、風都もアルファとして強いのだと思う。
 でも、それがどれぐらいの強さって言う指標がわからない。

「僕と風都が同じくらい? うーん、まぁそうね」
「えぇ、通常時の啓生様と私では大差ないでしょう?」
「まぁ、そうね。風都も言葉が足りなすぎるとは思うけどね」
「そう、ですね。気をつけます。つい、当たり前にあると知ってると忘れてしまうものですね」
「風都、気をつけてね」
「はい。それで、啓生様が強いか、ですか。そうですね、えぇっとどう例えればいいのか」
「僕らアルファは、フェロモンとグレアでアルファの地位が決まるんだけど」
「ふぇろもんとぐれあ?」
「フェロモンは、そうだな……咲ちゃんは僕の匂い感じてる?」
「啓生さんの匂い? この甘いヤツのこと?」
「そう、僕のフェロモンをそう言えば咲ちゃんはずっと甘いって言ってたね。僕も咲ちゃんのフェロモンは甘く感じてるから、一緒だねー?」
 
 きゃーっ、とぐりぐりとしてくる啓生の頭が痛い。
 けど、こうして触れ合うのは嫌じゃない。いい匂いもするし。

「それでね、このフェロモンは僕と咲ちゃんは互いにいい匂いだと思うんだけど、アルファ同士だと嫌な匂いに感じるんだよ」
「嫌な匂い?」
「そうね。例えば、咲ちゃんに僕のフェロモンを付けて 〝僕の番に近づくな〟 って警告を出すことも可能で、そのフェロモンの強さによって他のアルファが近づけるかどうかが違うの」
「もっとわかりやすく言うと、アルファ同士であればどれだけ嫌なフェロモンを出せるかどうかが強さという訳ですね」

 それはそれで嫌な例えだと、啓生は眉間にシワを寄せた。

「それって、僕がめちゃくちゃ臭いみたいじゃない?」
「だからこそ、アルファはフェロモンの制御を幼いうちから身につけるんです」
「聞いてる? 風都?」
「それで、グレアですが……そうですね、アルファがフェロモンを操る時、周りにダダ漏れになっては被害が出ます。なので、目で相手を見つめてフェロモンの範囲を制御するんです」

 俺の頭はすでに??? とばかりになっているが、どう説明を聞いても多分わからないと思う。

「まぁ、端的に言えばアルファ同士で喧嘩になったらお互いに睨み合って、睨み負けたほうが負けってこと」
「そう、なの……えぇ、と、柄悪い喧嘩みたいな」
「見た目がどうであれ、確かに睨み合いとか柄悪いよねぇ。まぁつまり、僕はアルファ同士で喧嘩になっても、負けないぐらいに強いって事だね」
「啓生さん、なよっちいのに強いんだ」

 俺に回している腕も、触れている腹も一般的な男性と言われればそのとおりだけど、筋肉質ではない。アルファってどことなくガッチリとしているイメージがあったから、強いと言われて違和感しか無い。
 
「アルファの強さは肉体とは別だからね!? ちなみに僕は普通に喧嘩しても多分強いよ!? ただ、筋肉がつきにくいってだけだからね? 誤解しないでね、ね?」
「いや、別に俺誤解してないよ。それに、啓生さんがイメージ通りのアルファだったら多分近づけなかったし、声かけられた時点で逃げてただろうし」
「僕、この見た目で良かったって初めて思ったかも……感激!」
「お安い感激でございますね。さて、そろそろ出かけるお支度をなさいませんと」

 ばっさりといつも通り風都が笑顔で告げると、俺と啓生を出かける支度をするために寝室へと追い出した。
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