最愛の番になる話

屑籠

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 おじいさんの家で夕飯を食べてから、おいとました。
 終始おじいさんは優しく笑っていて、それは実の祖父母とは正反対で、本当のおじいさんが雪藤のおじいさんだったら良かったのに、と思ってしまう。

「雪藤のおじいさんは、優しい人だったな」
「そう? 普通の好々爺だけどなぁ」
「だって俺の、坂牧のじいさんとは大違いだ」

 坂牧の祖父母は、厳格にアルファを贔屓して、そしてアルファを産むオメガを使えるコマとして管理したがった。
 そして、ベータだった俺は利用価値なしとみなされて、その視界に入ったこともなかった。
 坂牧の祖父母の家は、本家と呼ばれている場所で、正月なんかに集まったりするんだけど、その時の席順はあからさまにアルファが贔屓されていて祖父母の周りにはアルファの親族ばかり。その次にオメガの親族が座って、ベータの俺たちは末席に粗末な感じで座らされているだけで。
 食べ物すら差があって、そして、お年玉を尚志や立華、光也はその中身に差が有ったりはしたけど、お年玉を貰えていた。
 けど、俺は一切貰ったことが無い。
 祖父母の近くに寄ることも無くて、何でそこに行かなければいけないのかわからなかった。
 母に近くに居て欲しい、と言ってもごめんねって言われるだけだったし。
 あの家が、坂牧の家で一番いやな場所だった。
 一度、おいて行かれたことがあるんだけど、その時は使用人たちも休暇中で一人ぼっちで食べるものも無くて、死ぬかと思った。
 それ以降、坂牧の本家に行かなくて済むように、執事に言って食料だけは準備してもらってたけど。
 あぁ、そう言えばあの執事だけはあの家の中で変だったな。
 
「何言ってるの。咲ちゃんのじーちゃんだって、雪藤のじーちゃんだよ」
「……でも、坂牧のじいさんは、俺のことが嫌いだったから」
「なるほど? じゃあ、もっともっとじーちゃんのところに会いに行こうね。そう言えば、うちのじーちゃんも居たっけ?」

 四方の家でおばあさんには会ったこと有るけど、そう言えばおじいさんには会ったことがないな。
 それどころか、啓生の父親にも会ったことはない。
 唯一、見たことが有るのは叔父の連星ぐらいじゃないかとおもう。
 
「なぜ忘れているのですか……まぁ、しばらくはお邪魔しないほうがよろしいかとは思いますが、咲也様が会いに行かれるのでしたらとてもお喜びになられるかと思います」
「そうだねぇ。基本的に一族の番さんには甘いからね」
「啓生様もきっと、次代の番様にはお優しくなられるかと思われますが」
「どうかな? 咲ちゃん次第かな」
「なんで俺次第なの? 啓生さんがしたい様にするんじゃないの?」

 啓生はその言葉に、うーん、と少しだけ苦笑いした。
 その苦笑いが、どうしてなのかはわからないけど。

「僕らの行動原理は全部番だからね。だから、咲ちゃんが嫌がったら僕は近づきもしないよ」
「そう、なんだ……好きにすればいいと思うんだけど」
「咲ちゃんはそう言うよねぇ」

 しってたー、と啓生は笑う。
 けど、どうして笑われているのか。
 俺は何もおかしな事は言ってないけど。
 でも、啓生はたまにそうして笑っているから、俺が変なんじゃなくて啓生が変なんだろう、きっと。

「啓生さんは、変だよね」
「え、いきなり酷い」
「いつも俺の事で笑ってるし、変だよ」
「いや、愛が溢れちゃってるだけだって。ね?」

 愛が? と疑問に思う。
 啓生が番である自分を大事にしてくれているのは知っているけど、それが愛なのか番だからなのかわからないな。
 番だから、って言われたほうがしっくり来るし、いつもはそう言ってるし。
 そもそも、愛ってなんなんだろう?

「咲ちゃん、何いってんだこいつって言う顔やめて、地味に傷つくからね」
「……え、あ、ごめんなさい」

 ぼんやりしていて、咄嗟に謝ると、風都が肩を震わせて笑っていた。

「咲也様、謝ると余計に啓生様が傷つきますよ」
「あ、そうなの? え、あぁ、別に何いってんだこいつとは思ってないよ」
「咲くちゃぁん!?」

 もう! と啓生は息を吐いてるけど、怒ってはいないみたい。
 そもそも、啓生が俺に怒る事なんて有るのかな?
 じぃっと、そう思いながら啓生の顔を見つめていたら、首をかしげながら啓生が聞いてくる。

「なぁに、咲ちゃん。どうしたの?」
「あー、その……啓生さんが俺に怒ることなんて有るのかなって思って」
「僕が咲ちゃんに? えぇ、どうだろ……多分、僕が怒る前にきっとそーじろーとか風都に怒られると思うんだよね」
「啓生様、それは流石に責任転嫁過ぎませんか?」

 呆れたように風都が言う。それに宗治郎も頷く。
 啓生はそんな二人に、不満そうな声を上げた。

「えぇー? 実際にそうなるでしょ?」
「……それもそうかもしれませんね。全く、四方のアルファというのは」
「四方のアルファだから?」
「えぇ、番に怒るなんてあり得ないことです。まぁ、四方のアルファが運命と番うからかもしれませんが。だから、雪藤が居るのですよ」

 あぁ、なるほど、と納得もする。
 何せ、雪藤が居なければきっと四方は番のいう事をなんでも聞いてしまうだろう。
 そして、番が間違った道に進もうとしても、止められないかもしれない。そのために、雪藤が居るんだろう。
 雪藤の人が四方に厳しいというか、気やすいというか、そういう気質なのが良くわかる気がした。

「啓生さんは幸せだね」
「んっと、咲ちゃんがどうしてそう言った思考に陥ったのかわからないんだけど、まぁ幸せだよ? 何せ僕は咲ちゃんと言う最高の番に出会えたんだからね!」
「……うん、やっぱり啓生さんは変な人だね」
「もう、咲ちゃんが笑ってるなら、それでいいよ」
「あきらめてしまわれましたか、啓生様。いや、とても面白い」
「そういうところだよね、風都は!!」
 
 もう! って憤っていても啓生は楽しそうに笑っている。
 そして、この場の空気が冷たくないのが一番好きな空気感だと思う。
 宗治郎も風都も、啓生に軽口を叩きながらそれでも啓生を敬っているのがわかるから。

「咲也様、明日はどうなさいますか?」
「明日……?」
 
 明日、何かあったっけ?
 そう首をかしげていると、くすくすと啓生が笑う。

「明日もお休みだから、なにかすることはないかなって聞いてるんだけど」
「え、あぁ……そう言えば、日曜日だ」

 今日は土曜日で、明日は日曜日。
 週に2日のお休み……忘れてた。学校にいかなくなると、そのスケジュールすら忘れてしまうのかと少し自分でも驚いた。

「あ、でも……啓生さんとお話できればそれでいいよ」

 どこかに行くよりも、もっと話がしたいと思った。
 どこにもいかなくても、啓生と話していると時間が気が付かない内に消えていくから。

「そんな可愛いこと言わなくても、僕はいつだって咲ちゃんの話を聞くからね」
「でも、啓生さんは忙しいでしょ」
「……確かにぃ~! 僕、気が付かない内に多忙だね!? 滅多に咲ちゃんのお話聞く機会無いね!? よし、明日は咲ちゃんととことん語り合おうか」

 そうして、自分のスケジュールを思い出したのか、啓生はハッとしてそうだね!! と勢いよく同意してきた。
 でも、実際何を話せばいいのかは分からない。
 俺は啓生の事をあまり知らないと思う。四方で、そして次期四方の当主で、それで俺の番のアルファってだけ。
 それ以外を、俺はあまり知らない。
 だから、話せるなら啓生の事を知りたいと思う。流石に、誕生日すら知らないのは違うと思うし。
 でも、多分俺の事を調べてると思うから、啓生は俺以上に俺のことを知ってるんじゃないかと思うけど。
 そんな事を思いながら、啓生といっしょにベッドに入り眠りについた。

 ぼんやりと、目を覚ましていくと目の前には、俺の髪を弄りながらそのいい声で鼻歌を歌っている啓生の姿が。
 寝起きで、少しかすれているその鼻歌は、それでも聞いていて心地よくて再び眠ってしまいそうになる。

「けいせい、さん……おは、よ」
「おはよう、さぁくちゃん。んふふ、まだお眠だねぇ。かぁわいい~」
「ん、んゔ……」

 唸りながら俺は幸せそうに笑ってる啓生の胸元を力無い手で叩く。
 頭を振っても眠気が飛んでいかない。朝なのに、起きなきゃいけないのに。

「んんっ! 可愛いぐずってる、可愛い。何この生き物……あぁ、僕の番だった、幸せかよ~」

 大きくもない声で言う啓生の声は、本当に眠くなるほど穏やかで優しい。
 言ってることは大抵変だけど。でも、本当に幸せそうに言うから。

「寝かせてあげたいけど、そろそろ起きてね、咲ちゃん。そーじろーたちが朝ご飯を作ってくれてると思うから」

 そうして、ゆさゆさと体を揺すられると起きなければと思う。
 ぎゅっとその首に抱きつくと、あらら、と啓生が笑う。

「つれ、てって」
「ん、ふふ……仕方がないなぁ」

 そうして、ふわりと浮く体に、漂ってくる匂いも再び眠りそうになる。
 どうしてこんなに眠たいのか、わからないけど。いつもより眠気が酷いのは確かだ。

「おや、おはようございます啓生様、咲也様」
「おはよう、風都。それにそーじろーも」
「えぇ、おはようございます。咲也様は……」
「どうやらお眠みたい。でも、連れてってって可愛く言うから連れてきちゃった」

 そうでしたか、と宗治郎は頷くとソファーに座った啓生の周りをそっと整えた。
 
「でも、今までこんな事なかったから心配だな……発情期が近いのかも」
「なのかもしれませんね」
「では、そろそろ準備しておいた方が良さそうですね」
「そうだね、スケジュールの調整なんかはお願い。後は……病院か」

 心底嫌そうに啓生が呟く。
 なんでそんなに啓生は病院が嫌いなんだろう? 俺よりも大人なのに。
 覚えていたら、聞いてみよう。

「咲也様がいらっしゃってようございました。啓生様を連れて行く手間が省けます」
「ひどいなぁ。僕だって、いつも逃げ回ってるわけじゃないのに」
「え、自覚がなかったのですか? いつも逃げ回っておいでですよ」
「そう、だっけ?」

 宗治郎がそっとため息を吐く音がする。本当に自覚がないみたいだ。
  
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