失恋竜が幸せになるまで

屑籠

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13.勝ち負け END

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 目が覚めてみれば、俺はベッドの上に一人で。
 ほぼ、全裸でその場に繋がれていた。
 比喩ではなくて、足に鎖を着けられて。
 竜化すれば、と思うが竜化出来ない。鎖に何か特殊な呪詛が仕込まれているらしい。
 くそっ、といろいろ試した後に息を吐き、ベッドへと身を横たえた。
 どうして、こんなことになっているのだろう?
 なぜ、俺なんかにリーズが執着しているのかもわからない。
 普通に考えれば、俺はリーズにとって対象ではないだろう。
 同年代でも、番でもない。雌になるような力の竜でもない。
 そう考えていると、ふと声のような思念が伝わってくる。

「……ん?」

 だが、何を言っているかまではわからない。
 分からないが、それが嫌な感じではないことだけはわかる。
 それどころか、何となく懐かしいというか……。

「誰、なんだ……?」

 俺がそう、誰となしに呟けば、答えなんて来るはずないか、と笑う。
 だが……

「呼んで、る?」

 ん?と辺りを見回す。
 が、それらしい竜は見当たらない。
 俺は、それなりに長さのある鎖を使って、立ち上がり、巣の中を捜索することにした。
 発情期でもないのに酷使された体が、動くたびにきしむ。
 が、頑丈な体に生まれついてしまったためか、動くことに支障はない。
 呼ばれる声に、引き寄せられるようにたどり着いたのは、卵のある場所。
 
「……お前か、俺を呼んでいたのは」

 仕方がないな、と俺は卵に手を当てこつん、と額を卵に触れさせる。
 来たぞ、と思念を送れば、卵からは嬉しそうなオーラが発せられた。
 ふぅ、と息を吐き卵を背にして座り込む。
 大きさはそれほど大きくはない。が、ずっしりとした重量感がある。

「……あのまま、捕まっていればお前にも会えないままだったのかもな」

 それは、少し寂しいことだったのかもしれない、と思う。
 子供ができた時には考えられなかった変化だ。
 子を産むことが怖かったのに、あれだけ恐れていたのに、生まれてきてしまえば、早く会いたいと願う。
 身勝手だとは思うけれど、会いたくなったのだから仕方がない。

「お前は……こんな俺が側にいて嬉しいと思うのか……不思議な奴だな」

 きっと、リーズと共にいて、俺の存在など知らないほうが幸せになれると思うのに。
 それでも、俺は俺の意思でここから離れることはできない。それが、本能なのかもわからない。

「本能で、お前が親だと、腹の中で育ててくれた奴だと分かってるんだよ」
「……リーズ」

 閉じていた目を開けば、よっ、といつも通りのリーズが笑ってただいま、と近寄ってくる。
 俺はびくりと体を固くこわばらせた。
 そんな俺を見て、リーズは苦笑する。苦笑するが、諦めているわけでも悲しんでいるわけでもない。
 俺が、どうしようもないな、と思っているような感じだ。

「リーズ、アンタは何でここまでするんだ?発情期の時に、名を奪えばよかっただろう?」
「名を奪ったところで、お前の心は手に入らないだろう?俺はお前の心が欲しい」

 まっすぐに見つめてくるリーズに、俺は視線を逸らす。

「俺は……兄と番を取り合ったと言ったな?」

 肯定を返すように一つ頷く。

「だが、奇麗だなと惹かれはしたが、好きかどうかまではわからなかった。いい雌だと思った」
「良い雌は、選ぶ対象だろう?」
「確かにそうだ。だがな、好きだと思ったことは一度としてなかったんだよ。俺が好きだと守りたいと感じたのはお前が初めてだ」

 だめなんだよ、とリーズはくしゃりと髪をかき上げ、困ったように笑う。

「きっと、これが本能だとしても、だ。俺はお前を逃がしてやれない。お前が名を告げなかったとしても、次も、その次も、俺はお前を指名し続ける」

 リーズのその言葉に先を考え、その未来が見えてくるように思える。
 きっと、リーズは俺を手放す気なんてない。それこそ、俺が運命だと言わんばかりに……。

「運命?」
「そうかもしれないな。だが、そんな言葉で片付けられる気もしない」

 俺には、リーズに何も感じることは出来ない。
 いいや、違う……初めて会った時から、脳裏に焼き付いて離れなかった。
 リーズと言う存在……。

「お前は、俺のための竜だ。他の誰にも渡すつもりはない」
「……アンタ、しつこそうだもんな」

 ふぅ、と息を吐き、そっとリーズの耳元へ顔を寄せた。

「もういい、面倒だ。負けてやる……レイドルト、持っていけ俺の真名」

 認めるのも、リーズの驚く顔を見ていたら悪くないと思った。
 俺が、雌側なのは少し納得がいかないけれど。

「俺は、きっとアンタには一生かかっても勝てねぇよ」
「……っ、俺も負けてやるつもりはないからな」

 泣きそうな顔をして笑うから、リーズも普通とそんな変わらないのかもしれない。と思う。
 俺よりも、長く生きているというだけで。

「俺、リーシュルズルドが、レイドルドをもらい受ける」

 明確に、目に見えて何が変わった、とわかるわけではない。
 けれど、あぁ、番になったんだ、とリーズの真名を聞き、俺の真名を縛られ、実感する。
 太い鎖で繋がれたように、この足に着けられた鎖など比べ物にならないくらいに、強く、強く。

「これが、番、か……」
「あぁ……生涯大事にする」
「はっ、精々アンタは俺に振り回されろ」

 まだ、納得できない部分は多いが、これから長い時間を共に過ごせば、何かが分かる気がする。
 リーズに合わせると、生は短くなるけれど、まぁ、リーズのいない世界ではもう、生きられそうにないから、どうでもいいことだな。


END
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