もっと深いところで傷つけて

屑籠

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 その後、京介は間接的に何かを仕掛けようとも反応することはなくなった。
 けれど、アルファゆえか、何をしても勝てなかったのは変わらず、卒業し、大学へ行ってもそれは同じ。
 京介に勝てない。それがもう、当たり前のようになってきていたころ。
 父も母も、もうずいぶん前から洋には期待しなくなった。
 もう何年ぶりになるだろう、大学を卒業すれば父の跡を継ぐのだからと、再び瀬名本家へと足を踏み入れる。
 弟は、もう何度も瀬名家へと来ていたらしいが。洋はずっと留守番をさせられていた。

「礼二!」

 そういって、弟が駆けていく先には、女顔をしながら少し、どこか京介に似た顔立ちの一目でオメガと分かる男が居た。
 嬉しそうに弟は彼に近寄り、抱きしめる。それを、父が止めようともしない事が驚いた。
 洋がそれをすれば許されないのに、弟がするのは許されるのか、と。
 あぁ、気に入らない。すべてが。
 彼は?と分かり切ったことを聞いてみれば、母に瀬名家のご次男よ、と告げられた。
 やはり、と思ったが口には出さず、そうですか、とその場を離れる。
 新年のあいさつに出向けば、京介もいた。それはそうだ。この家の次期当主となるのは京介なのだから。
 なんだか、久しぶりに会った気がする。
 京介の方は、洋の存在に気付いているのかいないのか、どうでもいいような顔をして早くこの行事が終わらないかと思っているみたいだった。
 ここに居ても、京介は洋を見ない。
 目の前に居ても、居なくても。
 それが何より腹立たしかった。
 そんな折、弟がさっきのオメガを連れてこの部屋に来る。
 兄さん、と京介に駆け寄り、笑う姿にイラつく。
 京介はさっきまで興味なさそうな顔しかしていなかったのに、弟が来ると破顔し、微かに笑った。
 それが、何より癪に障る。家族、だとしても、だ。
 自分とは違いすぎる家族との関係。洋は弟と仲良くはないし、弟を好意的には思えない。
 けれど、京介は弟を好意的にみている。それは、オメガだからだろうか?洋の弟が、アルファだから?
 オメガなどくだらない。内心、むくむくと湧き上がってきた欲に、ふっと笑う。
 準備はそれはゆっくりと進めた。本当ならば、内臓を売ってしまおうと思っていたのだが、それで京介が死んでしまってもつまらない、と思い返す。
 先のオメガのような失敗はしたくない。
 そこに、ちょうどよく声をかけてきたやつらがいた。それが、件のチャイニーズマフィアだった。
 じゃまなオメガがいる、と口をこぼせば、にやりとイヤらしく笑う。
 邪魔なオメガを始末する代わりに、彼らの足掛かりとしての土台、それを用意すること。
 まぁ、土台はすぐに用意することができる。要するに、日本で活動するときの後ろ盾となってやればいいだけだったから。
 それはそれは、怖いくらい事がうまく運んだ。運が味方しているのか、さえ思った。けど、違う。洋は泳がされていただけだ。捕まった今ならわかる。
 あまり、足がつかないように気を付けていたが、マフィアの下っ端がやらかし、洋は引きずり出される。それこそ、芋づる式に。
 洋の存在は、もしかして、ぐらいにしか思っていなかっただろう。
 その下っ端の供述で、捕まったというべきか。なんと口の軽い。

「な、何てことをやらかしてくれたんだお前は!!」

 呼び出された父が、洋に向かって怒鳴る。胸倉を捕まれ、殴られた。
 だとしても、洋にはもう届かない。どうでもいいのだ、この父親のことも。
 母も泣き崩れているが、どうでもいい。
 それよりも、と気になったのは京介の顔。その顔は何の表情も浮かべず、ただただ物事の流れを見守っている。
 つまらない、と思う。そう、単純に。

「兄貴……兄貴は何を考えてるんだ?」

 海が件の弟を抱きしめながら問う。
 いってて、と殴られた頬を抑えながら立ち上がる。
 何を考えている?と聞かれ、洋は首を傾げた。

「何が?」
「何がって……兄貴、マジで言ってんのかよ?礼二は道具じゃねぇんだぞ!?俺の、俺の運命の番だ!!」
「だから?」

 だからって、と言葉を失い、信じられないものを見るように洋を見ている。
 
「犯罪なんだぞ?」
「知ってる」
「じゃあ、何で……」
「気に入らないから、それ以外の理由、いるか?」

 気に入らないから、むかつくから、邪魔だから、それ以外に理由なんてない。
 しいて言えば、丁度良かったから。それぐらいだろう。

「気に入らないって……俺、貴方に何かしましたか?恨まれるようなこと……」
「いや?あぁ、でもオメガって時点で気に入らない、か」

 アルファだが、子供を産めるオメガがうらやましい。
 発情期のフェロモンで誘い、京介の子供だけでも産めたかもしれないのに。
 京介が、恨みでも洋を見たかもしれないのに。

「俺が、オメガだから……?」
「そう、京介の身近なオメガは排除したと思ってたんだけどな」

 まだ残ってた、と言えば驚愕とともに、酷く怯えた顔をして見られた。

「じゃ、じゃああの、駿河さんを殺したのは……」

 駿河?と言われた名前を探すが、記憶にはない。
 殺す?俺は誰も殺してない。殺すことに抵抗がなくても、殺してはいない。
 洋は、手を汚したことなどないのだから当然と言えば当然だ。

「誰だ、それ」
「っ、兄さんの、運命の番です」
「運命の番……あぁ、あいつか」

 あぁ、そんな奴もいたな。と思い出す。
 その事柄を覚えていても、そいつの名前までは憶えていなかった。

「俺は手を下してない。ただ、邪魔だなと言ったら周りが動いただけだ」

 そんなっ、とオメガはショックそうな顔で手を口に当てている。
 そうか、あの男とこのオメガは親交があったのか、と洋は何の感情もなくただただそう思った。
 ふと、京介を見れば、洋を睨むように見ている。それに、洋はひどく驚き、高揚した。
 自分を見る、京介の瞳に。
 その瞳が何を湛えていようが構わない。自分を見たことが重要なのだと。

「……礼二の番の家族を、犯罪者とするわけにはいかない。この男は俺が預かる。いいな?」

 預かる、と京介は洋のそばにより、痛いくらい腕を掴んだ。
 痛みに洋は顔をしかめるが、痛みぐらいいいか、と何も言わない。

「京介さん……でも、いいんですか?俺の事なんて気にしなくても良いんです。兄貴に、番を奪われたんでしょう?」
「もとはと言えば、俺が放置していたからいけないんだろう。俺だけの責任とは思わんが、俺にも責任はある」

 ちらり、と京介は洋の両親を見ていた。
 両親は両親で、お前のしつけが悪いからだ、などと押し付け合いをしている。
 まったく、下らない。この二人のどこに育てられたというのか。

「ここに置いておいてもあのマフィアたちに狙われて殺されるだけだ」

 どうやら、一部を逃がし洋のせいだということにした挙句、そのマフィアに多大なダメージを与えたらしい。
 京介と海が二人で成し遂げており、だれも口出しできなかったと。
 それを、洋のせいとしてマフィア側は思っているため、代償を支払わせようと狙ってくると。
 まぁ、その辺はどうでもいいと思っているので洋に否やはない。

「殺されるぐらいなら、俺が殺す」
「……そう、ですか」

 最後の時は、殺してくれるのか、と少し洋は安堵したのだ。
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