14 / 19
ブレイドと月虎。
しおりを挟む荒廃した町。
荒れ果てた町は再生されていない。
権力者の住む領地は、ここまで荒れていない。どうしてなのか。理由は、流星の石の力を引いていた。
その事について知っている者は、ほとんどいない。
知っていたとしても、口封じに殺される。だから、知られていない。
古老衆が、その証拠を握っている所為だ。
「何故だ。何故、俺達を呼ばない」
灰の雪が舞う町。
主を失った二つの魔具は嘆いた。
「……月虎。そうでも、ないみたいだぞ」
大きな身体を持つ――ブレイドが喜色を滲ませた声音で伝える。
「俺達を導くか、黒蒼!」
蒼い炎が彼等の前に現れた。その炎から感じる魔力は、二人の主の物。
温かく、優しい。
足りないものを満たしてくれるようなものだ。
「……魂は同じでも、お前じゃないんだよな」月虎はぼやく。
だが、”絶”で生きた主だったらこう言うだろう。
『守る為に、力を貸して欲しい』と。
”転”の自分。その世界。
主はきっとその世界を見た。
だからこうして自分達の前に現れたのだ。
「待ってたんだ。ずっと俺達は」月虎が思いを吐き出す。
「同じじゃなくったって良い! お前の力になれるならッ、この力が惜しみなく使えるんだよ‼」
月虎が吠えた。
魔具としての契約は、黒蒼が死んだ時点で切れている。
それでも、二人は黒蒼を主として、再び契約出来る日を待っていた。――何時か、もう一度逢える事を願って。
「遅すぎるぞ、黒蒼。俺達の主」
ブレイドは笑った。嬉しさは収まらない。”絶”の黒蒼が送った蒼い炎の意味を、理解したからだ。
「”転”の味方をしろ、か」
「構わねーだろ、別に」
「ああ、そうだ。この狂った世界……いや、俺達は主の傍に居れれば良い」
世界を見捨てるわけではない。一番大事なのは、主だ。
「行くだろ、ブレイド?」「決まっている」
”絶”の権力者が命じて作らせた”転”への道。
その前に二人は立つ。
不用心にも不用心。”転”への道は見張りはおろか、守りすら付けていなかった。
そのお陰か、簡単に道の前に辿り着いた。まあ、”転”への道の周りが守りに固められていたとしても、二人の敵ではないが。
「もう一度、縁を繋ぐ」「もう、無力とは思いたくない」
ブレイドと月虎。彼等は”絶”で数ある中の高位魔具。
ブレイドは大剣。
月虎は拳銃。
二人合わせて、魔剣銃。意思があり、人の姿を取ることが出来る武器。乱銀の下に来た、双剣もその内の一つだ。
「月虎。準備は良いか」
「おう。出来たぞ」
拳を合わせ、にやりと笑い合う。そして――、
「『我が名はッ』」
同時に口を開く。”絶”の黒蒼の思いはかつての魔具に伝わった。
「ブレイド!」「月虎!」
それぞれ己の名を叫ぶようにして名乗りを上げた。
”絶”が”転”に行くために創り上げた道の前で。名乗りを上げるのは契約の一つ。
「今一度縁を繋ぎ」と、ブレイド。
「この力、この魂を捧げるは」次に月虎が。
「『我等が主、黒蒼‼』」
契約の言葉を終え、二人は”道”に迷う事なく飛びこんだ。空間の先に見えていた”転”の風景。それは”道”に入れば消えた。空間の中は暗い闇の中。
ぐん、と強い力に引き寄せられる。
引力に引かれながら、見えなかった景色は再び見え始めた。次々と変わる場所や風景。
『最後に、力を――』
ふと、聞こえた声。黒蒼の声だ。
力とは。
恐らく、魔具の事を言っているのだと思った。
温かな温もりの、黒蒼の魔力を感じる。夢の中――精神世界の出来事を見ているのか。
「黒蒼ッ!」
月虎が叫ぶ。空間が歪み、二つの世界を繋いでいるだけでなく、他人の夢や精神を見てしまうのか。
『――ブレイド、月虎。遅くなって悪かった』
もう一度、契約をしてくれ。
”転”の黒蒼を抱き締めていた”絶”の黒蒼がこちらを見た。
「ッ、当たり前だッ! 遅すぎるぞ黒蒼!」
この光景を見せているのは”絶”の黒蒼。協力と、再契約が目的だったようだ。それは、信じ待ち続けた彼等だからこそ考えずとも分かった。
『――頼んだぞ、俺の魔具』
この声を最後に、更に強い引力に引かれた。
そして――、引かれる力が弱まり、暗い空間から吐き出された。
「ブレイド、ここは……」
「”転”、のようだな。この世界では”道”は空にあるのか……」
二人はさして動揺せず、現状を把握した。
「ブレイド、あそこ見ろ」
月虎が何かに気付き、指を向ける。その先には、黒蒼が眠っていた。扉越し、窓越しに確認出来する。
「ほんと、そっくりだな」
眠る黒蒼の傍に近付き、ブレイドが片膝を付ける。それから頭を垂れて、ぶらりと投げ出された彼の手を取り、手の甲に口付ける。
もう一つの契約。
「初めまして、だな。”転”の黒蒼」
ブレイドは笑う。
「俺達はお前の魔具になる。どう使うかは、自分で決めろ。俺達はそれに従うだけだ」
ツンを発揮する月虎。
それでも、纏う空気は穏やかだ。暫くして、ブレイドと月虎は本来の姿に変わる。
ブレイドは大剣に同化し、月虎はそのまま拳銃へ。
「――よろしく頼む。ブレイド、月虎」
二人が魔具に変わり、同時に目覚めた黒蒼はそれらを握り締める。刃の付いた、本物の大剣を背に背負って、片手に拳銃を持った。
本物の重さを噛み締める。
後戻りは、出来ない。
「俺は、”絶”に行って、流星の石を破壊する」
集合時間を考え、歩きながら独り言を呟く。廊下から窓の外を見れば、ちらほら人が戻りつつあった。刃の付いた大剣の事をどう言い訳しようか、黒蒼は少し悩んだ。
魔具は選んだ。
もう一度、戦うことを。
魂は同じでも、考え方はあまり似ていない契約者と共に、彼が生きる世界を守る為に。
最期の日、血の海に沈んだ黒蒼を今だ鮮明に思い出す。
”毒喰の白狼”だけでは無いのだ。
彼の、幸せを願うのは。
彼等魔具が思うのは、黒蒼の生きる未来だ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
道化たちの末路
希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。
【完結】王子と結婚するには本人も家族も覚悟が必要です
宇水涼麻
ファンタジー
王城の素晴らしい庭園でお茶をする五人。
若い二人と壮年のおデブ紳士と気品あふれる夫妻は、若い二人の未来について話している。
若い二人のうち一人は王子、一人は男爵令嬢である。
王子に見初められた男爵令嬢はこれから王子妃になるべく勉強していくことになる。
そして、男爵一家は王子妃の家族として振る舞えるようにならなくてはならない。
これまでそのような行動をしてこなかった男爵家の人たちでもできるものなのだろうか。
国王陛下夫妻と王宮総務局が総力を挙げて協力していく。
男爵令嬢の教育はいかに!
中世ヨーロッパ風のお話です。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる