CRYSTHL―クリスタル―

気紛屋 月影

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紫と黒蒼は話し、朝には旋律波動で起こされる。

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 一度帰宅した生徒が戻って来た。その中に保護者が混じっているのを見て、黒蒼は無意識に呟いた。
 「まぁ、ある意味学校ここが安全地帯だよな」
 何人かの生徒が漫画などから得た知識を利用して結界札を学校全体に張り巡らしたのだ。とは言っても、それは下準備らしいのだが、詳しくは教えられていない。
 「”絶”が攻め込んで来た時に分かる、ね」
 何やら企んでいる雰囲気だったが、悪い物では無いだろう。むしろ、敵味方関係無く驚かせるような物の気がする。絶対そうだ。

 「魔法とは言っても、ほとんどの奴が真似どころか、創作系な術作ってるしなー」

 のしッ、肩に掛かる重み。犯人は紫。何時の間に戻って来ていたのかと驚きながら動じない黒蒼。いちいち反応するだけでも精神をごりごり削られる。今までの経験上の事だ。
 「な、言ったろ? 心強い味方が居るって!」
 「そうだ、な!」
 げたげた笑う紫に頷きながら肘打ちを食らわす。「ぐふぉッ」鳩尾にでも入ったのか、蹲り震える手で黒蒼のズボンの裾を握った。
 「ち、ちょ……な、なんか、俺の扱い……変わって来てないか?」
 打たれた箇所を押さえ、立ち上がれるまで回復した紫が言うが、黒蒼は無視した。拳銃になった月虎をくるくる回し、弄ぶ。「むしするなよ、こくそうくんんん!」涙声でキャラ崩壊する紫。
 「……宮司、紫を頼む」
 「なぬッ⁉」
 丁度戻って来た巻き込まれ役・宮司に押し付ける。
 「み~や~じぃ~」
 「ッ、ぎゃー! 涙に鼻水塗れな顔ですり寄るんじゃ」
 憐れ、宮司。最後まで言うことは叶わず、キャラ崩壊を起こした紫の犠牲になった。他にも戻って来た生徒は居たのだが、たまたま近くに居たのが宮司だった。

 「成仏してね、宮司」

 骨は拾ってあげるから。
 鈴原の合掌に、笑いを堪える者数名。「……ッ、ぶッ‼」誰かか噴出したと同時に、大爆笑の嵐。暫くその空間は収拾がつかなかった。

 ※


夕方。
 校庭では、炊き出しが行われていた。率先して行動したのは、家庭科クラブ。だが――、
 「ごふッ」
 「ぎゃー‼」
 「泡吹いて気絶したぞ⁉」
 家庭科クラブの誰かが作ったであろう食事を一口食べた教師が泡を吹いて倒れた。悲鳴が上がり、阿鼻叫喚な現場になる。
 「”絶”と戦う前に死ぬ気かよ!」
 「いや、ちげーよ!」
 「死ぬ気じゃなくて、殺す気か!」
 
 ぎゃー、ぎゃー、
 
 誰の声だか分からないくらい、その場は混乱している。混乱が恐怖になり、周りに伝染して行く。纏める者が居ないからか、騒ぎは大きくなる一方だ。

 「紫」
 「なんだ、黒蒼。まさか俺に行けって言うわけじゃないよな?」
 「分かったか?」
 「いや、分かったかじゃないだろ⁉ 殺す気か!」
 黒蒼が紫を死地にやるかのような振る舞いをする。すぐさま突っ込み、拒否る紫。……紫だけではなく、黒蒼までも若干キャラが崩壊……しているようで、そうではなかった。感情が表に出るようになったのだ。
 「仕方ない、な」
 肩を竦めて黒蒼は騒ぎの中心に向かって、暫くして騒ぎは収まったのであった。

 
 「し、死ぬかと思った」
 「うう、ごめんなさい、先生……」
 「いや、悪気が無かったのは分かったから、落ち込まないで。や、だから泣くなッ」
 担架で運ばれた教師が目を覚ました。蒼い顔をしながら「死んだ祖父母に会った」と言った呟いた時には、暗黒物質ダークマターを作り出した家庭科クラブの女子部員が取り乱したのが、また修羅場だった。
 暗黒物質を作り出すことが出来るのは彼女だけだったのが、不幸中の幸いだった。
 因みに彼女の作った料理は、捨てずに回収されたらしい。何に使うつもりなんだろう。考えたくないな。

 そんな騒動がありながら、それ以降は何事もなく普通だった。

 「黒蒼」
 「……何だ、紫」
 日が暮れ、夜になった。体育館は解放され、身体を休める者が今は眠っている。校庭では火が焚かれ、不寝番と他に作業をしている者が数人起きている程度だ。
 焚火の前に座り炎の揺らめきを眺める黒蒼の隣に、どかりと紫が腰を下ろした。
 「……」
 「……」
 互いに無言。何か用があるのだろうと思っていた黒蒼は内心首を傾げた。
 
 「乱銀ちゃんと何かあったのか」
 「……!」

 共に無言で炎を眺めていた。その沈黙を破るように紫が口を開き言った言葉に、視線を炎から外した。
 「お前が乱銀ちゃんと二人でどこかに行って、帰って来てから皆、お前らの様子が可笑しいって気付いてたぜ」
 「……」
 「何も言わないのか。無言は肯定と受け取るぜ」
 「……あぁ」
 小さく頷く。
 何も言えない。否、言えなかった。
 乱銀と何かあったのか。ああ、あったとも。
 (俺と乱銀は”絶”で生きていた、なんて)
 言えるわけがない。
 黒蒼は恐れた。自分達の所為で、”転”この世界が危険に晒されていると思われることに。
 黒蒼は自分から友達を作ることはしなかった。
 相手から寄って来ることに任せていた。何度も話し掛けてくる相手が、紫だった。

 (こんな時に、自分の駄目な所を思い出すか、普通……?)

 そんな自分を自嘲する。ああ、嫌だ。こんな自分が大嫌いだ。
 小さく笑って、膝を抱え込んだ。今は、あまり関わらないで欲しいと思った。
 しかし――、はぁーと言う大きな溜息。
 「何があったか、なんて聞いて悪かったな。だけどな、ちゃんと自分の気持ちに気付けよ!」
 言うが否、紫が黒蒼の背中をばしばし強い力で叩く。痛みに顔を顰めながら、黒蒼は彼の言葉の意味を考えた。

 (自分の、気持ち)

 それは、何の気持ちだろうか。何に対しての感情か。
 (いや――)
 その答えは、もう出ているはずだ。考えないように、気にしないようにしてきた。
 その結果が、乱銀との間に亀裂を作った。

 「……理解わかってる」

 素っ気無く黒蒼は言い放った。
 身の内に燻るものを、受け止めなくては。そんな思いを込めて黒蒼は頷いた。
 「……そうか!」
 紫はただ笑った。
 (誰かに背中を押してもらうって、悪くないだろ?)
 にやりと紫は笑う。
 何事にも無頓着だった黒蒼。そんな彼を紫はずっと気にかけて来た。
 周りと積極的に交流しない彼を、周りを巻き込みながら輪に入れたりした。
 (乱銀ちゃんが来てから、コイツは変わった)
 全面的に気を許しているように見えた。周りが不思議がった時、紫は確信したのだ。

 黒蒼と乱銀この二人は、互いに必要なのだと。

 (二人して好き好きオーラ出してる癖に、無自覚なんだよなぁ)
 笑いを噛み締め、紫はこの先の戦いが終わった後の事を考えた。
 それは――、
 (二人が一緒になって、俺達が愛でる未来)
 恋のキューピットか!
 なんて、くだらないことを考える。
 自分の恋愛より、他人の恋愛に介入するとは紫らしい。

 「紫? 寝たのか?」
 黒蒼の声。寝転んで何も言わない自分を眠ったと思ったのか、何処からか持ち出したブランケットを掛けた。

 いや、起きてる。とは言わなかった。
 「……ありがとな、紫」
 その言葉が、起きることを躊躇わせた。
 初めてだな。
 黒蒼に感謝されるって。
 これまでにも感謝の言葉はあった。その中でも、今の言葉は深く心の中に染みた。
 (お安い御用っだっての)
 ほんのり気持ちが温まる感覚。その感覚のまま、意識は闇の中――夢の中に旅立って行った。



 「……寝た、な」
 規則正しい寝息が聞こえ始めるなり、無意識に詰めていた息を吐き出した。
 紫が狸寝入りをしていたのは、気配でなんとなく、分かっていた。……”絶”の黒蒼と夢の中で出逢った所為かもしれない。
 『黒蒼、お前も休んだらどうだ』
 「ブレイド。いや、見張り含めて、起きてるようなものだから」
 『代わりに俺達がやる。安心しろ、魔具に睡眠は必要ない』
 半透明に姿を顕現した二つの魔具。彼等は休むように黒蒼に進言する。
 「いや、でも」
 変な所で真面目さを見せる黒蒼に、短気な月虎が切れた。「い・い・か・ら! 寝なくても良い! 横になってろ‼」と、拳をパートナーの頭目掛けて振り下ろす。
 「ッ!」
 ごつッ
 鈍い音が響いた。
 「月虎の言う通りだ、休め」
 突然の暴挙に咎めることをしないブレイド。どうやら月虎の味方のようだ。
 「…………分かった、見張りを頼む」
 渋々同意するも、何か不満でも? と、魔具に言葉ではなく雰囲気で語り掛けられ、慌てて首を横に振る羽目になった。

 「……お休み」

 黒蒼はブレイドの膝に頭を預け眠る。
 目を閉じればすぐに、意識は闇に染まった。「良い夢を、我が主」魔具が言う。
 「優しき主よ」
 「俺達は、ここに居る」
 ぱちッ、火が爆ぜる。言葉は、かつての黒蒼に向けて。

 見張りも夜更かしに慣れていない。数人居た見張りもいつの間にか夢の中。
 「こっちは平和だな」「それで良いだろうさ」
 想定内と言う風に、魔具は笑った。
 夜は更けて行く。
 次の朝を迎えるために、時間は進んでいく。そして――。




 「おっはよーうございまぁあーすッ!」
 「皆さん、朝ですよー!」
 「ちゃっちゃと起床しましょうねー!」

 一番鶏ならぬ、人間目覚まし声。
 声掛けをして周っているのは吹奏楽部。彼女達が”絶”への対抗手段として手にしたのは楽器。
 特殊能力・旋律波動せんりつはどう
 各々が所有する楽器を使い、しぶとく惰眠を貪ろうとする生徒や教師を強制的に叩き起こしていく。
 「起きてー!」
 「起きなさぁーい!」

 ジャアァァァ――ン!

 魔法によって数倍の音量を持つ楽器が盛大に鳴らされる。
 「ぎゃぁああああ!」
 「ぐぅおぉおおおお!」
 その威力は絶大で、耳を抑えたり布団を被ってやり過ごそうとする者や、耳へのダメージが大きかったのか悶絶している者多数。

 「……うるせー」月虎がぼそりと吐き出す。
 体育館の方から聞こえてくるそれは、魔具にとってあまり関係がない。聴覚が常人より優れているからだ。
 「黒蒼。起きろ、俺達は見られない方が良いだろう」
 校庭で夜を明かした見張り組。
 ブレイドは楽器の音を耳に捉えるなり、黒蒼を起こしに掛かった。「……ぅぅ……」小さく唸る黒蒼に微笑ましさを感じながら揺り起こす。
 「…………ぁあ、見張り」
 寝惚けた声に加えて小さな声量。二人の耳には『ありがとう』と聞こえた。
 「『――』」魔具は顔を見合わせ、小さく笑った。
 「じゃ、またな」
 ぽん、と頭に手を置かれ、次の瞬間には、二人の魔具は姿を消した。
 「……さて、と……」
 頭に手を置かれた箇所を暫く触れていた黒蒼は立ち上がる。

 ああ、良い朝だ。

 背を伸ばして、大きく息を吸って、響き渡る楽器のメロディーに紫を起こしに掛かった。
 

 戦いが迫っている。
 そんな中で学生達は思い思いに過ごしながら、対策を練る。
 心の中では恐怖に染まっている。だけど、仲間みんなが居れば、怖くない!

 戦いは、すぐそこだ!

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