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女子力の高い生徒と、侵略。
しおりを挟む「…………あのさ、聞いても良いか?」
吹奏楽部が旋律波動で生徒や教師を強制起床させて暫く経った。
対策本部こと黒蒼のクラス。
統率者に相応しいだろう生徒が主に集められた中、その内の一人である黒蒼は言葉を発した。その表情は引き攣っているように見える。
「どうかしたのん? 黒蒼君」
「いや、あの……」
女子、かと思いきやオネェ口調の男子だった。ぐい、と覗き込まれるように見られ、言葉に詰まる。
顔が近い。
離れてくれ。
言葉と顔には出さずに思う。
「村上、ここに並べてある服さ」
「何に使うつもりだ?」
集められた生徒が空気を読んで代わりに問い掛けると「ああ、これね」とキラン、と目を輝かせた。全員の頭を嫌な予感が過る。
「皆のコスプレ衣装よ!」
デザインも何もかも違う服を一着手に持ち、言い放った村上。「『……』」しん、と沈黙。
それから、
「『はあぁああああああッ⁉』」
意味不明、といった叫び声がクラス内どころか、校内中に響き渡った。
「……なんでコスプレ?」
意味が分からない。
その気持ちで黒蒼の頭は一杯だ。視線の先には、にこにこ上機嫌で衣装を配り周る村上と、他多数。
いや、全く理解できない。
何も言えないでいると、「……命掛かってるの忘れてねぇか?」ぼそりと教室の端っこに居た白狼がその場に居た全員の心中を代弁した。
全くその通りだ。
言葉に出したいけど、言った後が恐ろしくて言えない。だから口にチャックを付けたように黙っていよう。
それだけ、衣装を手掛けた者――否、演劇部関係者全員は怒らせると怖いのだ。
過去に彼等の怒りを買った者が居たが、全員が全員、何をされたのか口を一切割らなかった。むしろ、ドⅯ気質に変化している様な気もする。
「さあ! アンタ達も働きなさい!」
村上の声に「はい、村上様ァッ!」と、数人の男の娘が。男の子ではなく、男の娘だ。がっしりとした体型ではなく、ほっそりとした者が半数を占めている。……何も見なかった事にしたい。目の毒だ。
「……は、はは」
思わず顔が引き攣る。
それは黒蒼だけでなく乱銀も同様だったが。
「でも、良く出来てる」
「あぁ、服はな」
服という単語を強調して言ってみるが、華麗にスルーされた。まぁ、聞き流されるとは思って期待してなかったが。
「ホント、頑張ったのよぉ~。特に、ア・ナ・タ・達のは」
「……俺?」
「……私?」
村上はうきうきと”それ”を手渡す。反射的に受け取る黒蒼&乱銀。互いに視線をやって、交わるなり逸らす。ピリピリした空気は、まだある。
解ってはいるのだ。
このままではいけないと。
けれど、まだ、時間が欲しかった。
二人の間に流れる空気を、周りは感じ取っていた。示し合わせたわけでもなく、「さぁッ、お着換えよ!」オネェの号令に黒蒼は別室に強制連行され、「乱ちゃんはこっちねー」と女性陣にそれそれと着せ替え人形と化した。
暫く、衣装替え中の彼等をお楽しみください。
演劇部・ナレーターを受け持つ生徒が若干ノリノリで言った瞬間、爆笑の渦が広がった。
笑い声で掻き消されていたが、 黒蒼の絶叫が響いていた事は、連行していった村上の僕――もとい男の娘集団しか知らない。
「ま、ちょ、なんで関係ない所まで触るんだ⁉ え、や、ぎぃやあぁぁぁ!」
……訂正。断末魔の間違いだった。
※
「……やめてくれ、ほんとに」
「……大丈夫かぁ、黒蒼?」
げっそりした黒蒼に流石に憐れに思った白狼が慰める。その優しさに涙が出そうになったのは秘密だ。
「たくッ、命掛かってんの分かってんのか? 遊びじゃねぇんだ。死んじまえばそこでゲームオーバーだ」
呆れを多く含んだ声音で保険医は言い放つ。多種多様な衣装に身を包んだ生徒。校庭には早速着替えた生徒が警戒に当たっているのが見えた。
「命掛かってて、こんなことしてる場合じゃないけど……」
「どうせなら”転”でもそれらしくやってみようと気合が入りまして」
それらしくとは、軍隊などそういうものに捉えて良いのだろうか? 疑問に思うも、裁縫を担った男子含む彼女達がにこにこ楽しそうに言葉を紡ぐ。
これから血の流れる世界が展開されるであろう時に。それはもう、わくわくした様子で。
「コスプレ的な衣装」「作ってみました‼」
きゃあッと笑う彼女達の背後で花が舞っているように見える。
たぶんそれは見間違いでも幻覚でもないだろう。実際、その背後で取り巻き達が花弁をばっさばっさ大量に舞わせているのだから。
「気合が入った、ねぇ」
遊びにしか見えてねぇのか。
わいわい、わいわいと盛り上がる中、白狼は呟く。その表情は苦い。
視線の先には笑い合う生徒。
”絶”との戦闘が始まったら、この中からどれだけ生き残れるだろうか。
(――……)
そこまで思って、考えを消す。今は考えない。強く思えば思うほど、現実に成り得る気がした。
「……あのし等と距離でも置こうかの」
「ん? はッ、よれよれだなぁ」
「ここんとこ思うんじゃぁ……なんで、あんなんのが友達なんじゃ、って」
めそめそ、めそめそ
項垂れてすすり泣く宮司。あまりの不憫さに白狼は思わず肩を叩いて激励した。
※
全校会議――、
「俺達は、この町を守ろう。出来る限り、自分達が出来ることをやるんだ!」
黒蒼は呼び掛けた。
恐らく、これが最後の周りへの呼びかけになるだろうと思った。
「俺達の世界でもある”転”を守るのもそうだが、この学校を落とされないように気を付けてくれ
!」
本隊を叩かれれば戦況が一変するように、学校を”絶”に落とされてはならない。
言葉の意味が分かったのだろう。纏う空気がピンと張り詰める。
カウントダウンは、とっくに始まっている。
気を引き締めろ。
生きるか、死ぬか。
それを掛けた戦いが始まるのだ。
「誰も死ぬな! 全員生き残れ‼」
黒蒼の絶叫。魂の叫び。
「平和な国だからって、舐めないでよね!」
「死ぬ覚悟はまだ出来てないけど、戦う覚悟ならできたわ!」
次々と上がるのは、各々の覚悟の叫び。
誰もが死にたいとは思っていない。当たり前だ。
身近な人や親しい人も、家族、恋人を。失いたいとは思わない。
だからこそ、立ち上がったのだ。
彼等、学生を中心に。
自分を、自分達を守る為に。
再び、それぞれの意識が高まった時だった。
「ッ、――皆ッ、空を見て‼」
異変に気付いた女子生徒が声を張った。一斉に空を見上げ、言葉を失う。
「そんなッ」
「空の歪みが……!」
「広がって……⁉」
「嘘、だろ! まだ、一週間の半分も経ってねぇよ!」
ざわざわ、ざわざわと、ざわめきが広がって行く。
「ッ、やりやがったな」
「忘れていた。”絶”は、約束はほとんど守らないことを!」
白狼と乱銀、”絶”記憶がある者は悔しそうに歯を噛み締める。一気に険しくなる表情。空の歪みの先を睨み据える。――そこには、大軍の戦士の姿。人間の姿よりもまず、異形の怪物の姿が目に入る。
『聞けぇい、蛮族共よ!
我等”絶”は貴様等の国を一つづつ潰すことに決めた!
まずは日の丸を掲げし国の民よ、光栄に思うが良い! さぁ、泣き喚け、血を見せろ!』
”黒炎の爆龍”の声。
それに負けないくらいの大声を、冷静さが残っていた者が黒蒼よりも先に吠えた。
「落ち着け!」
「混乱したら連中の思う壺だ!」
「言葉に惑わされないで!」
「様子を見て、迎撃と同時に学校を守る事‼」
声を張り上げ、纏めようとするその姿。自分が指示しなくとも、動ける者が居る。それに黒蒼は気付いた。
「集会は終わりだ。
始まるぜー、殺し合いがなぁ!」
保険医は、かつての自分――”毒喰の白狼”の顔に。
にぃ、と知らず知らず笑みが……口角が上がった。「先生!」呼ぶ声に振り返る。
「来たか」
「はいッ、廃棄処分の薬品を片っ端から集めてきました!」
「理科室から劇薬のラベルがあるの持ってきました!」
「おー、ご苦労さん」
じゃあ、始めるとしようか。
保険医は自分と同じ様なあくどい表情をした生徒達を見て、言い放った。
薬品は正しく使いましょう。
危ないことに使ってはダメ。
ましてや、人に使うことは御法度。
近くで会話を聞いていた者達は思ったが、下手に口出しして制裁を受けるのだけは勘弁。と、口にチャックを付けた。賢明な判断だろう。現にこれまで、怪しげな薬の実験台になった者が居るのだから。涙が止まらなくなる泣き薬や面白くない話でも笑い続ける笑い薬、風邪でも引いたかのように発熱する発熱薬などと上げればきりがない。
こういった事に薬品を使うのは恐らくこれっきりであり、また、”絶”の軍団がその怪しげな薬品のサンプルの実験台になるであろうと直感した。
「なんか、敵なのに可哀想に思えて来た」
「言うな。俺も思っちまった」
「でも、まあ、俺達に被害が来ないって思えば、万々歳じゃね?」
「そう思おうぜ」
なんて、普段そういった実験の被害者は涙をほろりと流して見せた。
さぁさ、始まる。始まる。
自分達の未来を掛けた戦いが。
その先にあるのは勝利か。それとも、死か。
”転”の若者を中心とした武力集団の、”絶”の迎撃が始まる!
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