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むせかえるほどの熱さと血の臭いの中、深くマントを被った亡霊が現れる。
かの亡霊は、死者の安息を祈るレクイエムを奏で、その場を去る。もちろん、レクイエムは死者のための歌、生きとし生けるものがその歌を聞けば、死者と共に死者の世界へと連れ去られると言われている………。
ルヴェル冒険譚 第1章 死者のレクイエムより
*
擁壁が連なる城の塔の一つ。その塔には、亡国の王女様が囚われていた。彼女の名前は、アリスティア・モルガナ。隣国であったモルガナ国の王族ただ一人の生き残り。
モルガナ国は、心優しい民想いの国王が豊かな土地を納めていた。もちろん、そんな国王に似たアリスティアも民から愛され、幸せな日々を送っていた。
しかし、そんな幸せはある日壊される。
友好国であった隣国のベセスダ帝国がモルガナ国を裏切り、国を侵略したのだ。突如起きた戦争に、軍事準備をしていなかったモルガナ国は為す術なく、多くの民の犠牲と心優しい国王を失った。アリスティアもモルガナ国と同じ運命を辿るはずだった。けれど、運命のイタズラなのか彼女はベセスダ帝国の捕虜として幽閉されることになる。
「アリスティア様、顔を洗う水をお持ちしました。」
「………」
幽閉されてから2年。15歳だったアリスティアは17歳となり、美しかった金の髪は白髪へと変貌していた。何故、ベセスダ帝国の王はアリスティアを生かしたのか、それは彼女の類稀なる美貌が理由だろう。アリスティアは、亡きエティシア王妃に瓜二つだった。そして、ベセスダ帝国国王グウィードの初恋の相手はティシア王妃だった。
若きティシア王妃の姿をアリスティアに重ね、王はアリスティアを自らの花嫁とするために生かしたのだ。
『アリスティアよ、そなたが18になった夜に真の夫婦となろうぞ』
水面に浮かぶアリスティアの顔が歪む。
父と民を殺した相手の花嫁になる。15歳だったアリスティアには耐えきれなかった。だから、幽閉されていた塔から何度も逃げようとした。けれど逃げられなかった。
「………ねぇ」
「はい」
「私はいつになったら自由になれるの…?」
「………」
「私は……」
「顔を洗い終えたようなので水をお下げしますね。」
「………わかったわ」
何度も脱走し、いつしか扉には二重に鍵がかけられ、窓には鉄格子が嵌められていた。その鉄格子の隙間からアリスティアは外を眺める。
「自由になりたい……。」
誰もいない部屋にアリスティアの言葉がポツリと落ちた。
かの亡霊は、死者の安息を祈るレクイエムを奏で、その場を去る。もちろん、レクイエムは死者のための歌、生きとし生けるものがその歌を聞けば、死者と共に死者の世界へと連れ去られると言われている………。
ルヴェル冒険譚 第1章 死者のレクイエムより
*
擁壁が連なる城の塔の一つ。その塔には、亡国の王女様が囚われていた。彼女の名前は、アリスティア・モルガナ。隣国であったモルガナ国の王族ただ一人の生き残り。
モルガナ国は、心優しい民想いの国王が豊かな土地を納めていた。もちろん、そんな国王に似たアリスティアも民から愛され、幸せな日々を送っていた。
しかし、そんな幸せはある日壊される。
友好国であった隣国のベセスダ帝国がモルガナ国を裏切り、国を侵略したのだ。突如起きた戦争に、軍事準備をしていなかったモルガナ国は為す術なく、多くの民の犠牲と心優しい国王を失った。アリスティアもモルガナ国と同じ運命を辿るはずだった。けれど、運命のイタズラなのか彼女はベセスダ帝国の捕虜として幽閉されることになる。
「アリスティア様、顔を洗う水をお持ちしました。」
「………」
幽閉されてから2年。15歳だったアリスティアは17歳となり、美しかった金の髪は白髪へと変貌していた。何故、ベセスダ帝国の王はアリスティアを生かしたのか、それは彼女の類稀なる美貌が理由だろう。アリスティアは、亡きエティシア王妃に瓜二つだった。そして、ベセスダ帝国国王グウィードの初恋の相手はティシア王妃だった。
若きティシア王妃の姿をアリスティアに重ね、王はアリスティアを自らの花嫁とするために生かしたのだ。
『アリスティアよ、そなたが18になった夜に真の夫婦となろうぞ』
水面に浮かぶアリスティアの顔が歪む。
父と民を殺した相手の花嫁になる。15歳だったアリスティアには耐えきれなかった。だから、幽閉されていた塔から何度も逃げようとした。けれど逃げられなかった。
「………ねぇ」
「はい」
「私はいつになったら自由になれるの…?」
「………」
「私は……」
「顔を洗い終えたようなので水をお下げしますね。」
「………わかったわ」
何度も脱走し、いつしか扉には二重に鍵がかけられ、窓には鉄格子が嵌められていた。その鉄格子の隙間からアリスティアは外を眺める。
「自由になりたい……。」
誰もいない部屋にアリスティアの言葉がポツリと落ちた。
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