亡霊はレクイエムを歌う

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「益々美しさに磨きがかかったな。アリスティア」

「……」

「そなたが18になるのが楽しみだ」

   2週間ぶりにアリスティアが幽閉された塔へ訪れたベセスダ帝国国王のグウィードはそういった。
   グウィードは、白髪に染ったアリスティアの髪をひと房手に取ると口付ける。

「白髪になってしまったのは残念だが…それ以外はエティシアに本当に似ている。」

   グウィードは、アリスティアの顎に手を添え上を向かせる。

「その神秘的な深い海の瞳。本当にエティシアだ……」

「…」

   アリスティアの母親であるエティシア王妃の姿を重ね、欲の籠った目でグウィードはアリスティアを見つめる。その視線を囚われたあの日から受け続けたアリスティアは、次第に抵抗することをやめた。例え、抵抗したとしてもこの状況は変わらない。

「そうだ、そなたにプレゼントだ」

「…」

   グウィードが召使いに命じ、部屋へ大きな木箱を運び込ませた。グウィードがアリスティアの髪を嗅ぎながら、木箱の中身をアリスティアに見せる。

「綺麗だろう?そなたに似合うと思ってな。婚礼の日、この花嫁衣裳をそなたが身につけるのも…夜に褥でこの衣装を暴くのも楽しみだ…」

「……」


   反応のないアリスティアにグウィードは、くくっと笑い、アリスティアの頭にキスを落として部屋を出ていった。

「アリスティア様…?」

「…湯の準備を…してちょうだい」

「…分かりました。」

   アリスティアが塔に監禁されてから召使いとして雇われている初老の女性は静かに従う。それがアリスティアのためにできる唯一のことだから。



「おちない…おちないおちないおちないおちないおちないおちないおちないおちないおちないおちないおちない。」

   湯がはられた浴槽の中、アリスティアは自身の白い肌に爪を突き立てグウィードに触られたところをひたすら洗う。
   透明な湯は次第にアリスティアの血で薄いピンク色から赤色へ変色していく。それに構わずアリスティアはひたすら自身の肌を傷つけ続ける。

「…アリスティア様?…失礼します。…っ!?アリスティア様っ!!!」

   なかなか湯から出てこないアリスティアを心配し、初老の女性は浴室を覗いた。そして、赤く染った湯の中で己の肌を傷つけ続けるアリスティアを見て絶句し、急いで止めに入る。

「いやっ!離して!!まだ汚いの!!」

「これ以上、ご自身を傷つけてはいけません!アリスティア様!」

「これ以上……ふ、ふふ、ふふふ、あははは」

「…アリス…ティア…様?」

「もう、汚いわ。お父様が殺されてこの塔に閉じ込められてから、グウィードは嫌がる私の体を触り、口付けをしてきたわ。…ねぇ、私はいつになったら自由になれるの?」

「………」

   空虚な瞳で見つめられた召使いは、何も言えなかった。
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