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14. 白と鍋
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鏡の前に立ち、丹念に自分の身体を見回す。毛の処理は、済んでる。体型は、今更変えようがないから仕方がない。もう少し胸が大きい方が魅力的なんだろうな、と落ち込んでもすべて後の祭りだ。下着でどうにか取り繕っても、脱いだら意味がないし、そのギャップに引かれてしまいそうだし。自然体が1番、信じることにしよう。
初めてというわけでは、ないけれど。この間の勢いとは違う、改まっての緊張感がある。どぎまぎしながら、定時で業務を片付けるなりすぐに自宅に急行し、時間の許す限り最終チェックを続ける。
皓人さんが迎えにくるまであと10分。
用意していた真っ青なワンピースに袖を通して、髪型やメイクが崩れていないか、改めて確認する。鼻の頭のテカりが気になって、もう1度パウダーを手に取る。
再度鏡を確認していると、インターフォンの音が鳴りひびく。モニターで相手を確認すれば、予想通り皓人さんで、安心と緊張が一気に全身に広がる。ドクドクと音を立てる心臓を抑えて、私は準備していた鞄を手に、彼の待つエントランスへと急いだ。
エントランスまで降りれば、すぐに皓人さんを見つけられた。マンションのすぐ脇に停めてある車に、気だるげに寄りかかる姿は、なんとも様になっている。白のスウェットパンツにうすいグレーのトレーナーという、とてもラフな格好なのに絵になるのはどうしてなんだろう。私に気付いて片手を振る仕草までかっこ良くて、思わず隣に並ぶのを躊躇してしまうほどだ。
「茉里ちゃんは今日も可愛いね」
おずおずと私が近寄ればさっと助手席のドアを開けてくれて、さらり、とそんな台詞を言えてしまう。こんな人が実在しているだなんて。改めて不思議な感覚に陥る。
「皓人さんだって、いつも通り素敵ですよ」
運転席に滑り込んだ彼に、私も負けじとそんな言葉を呟いてみた。途端に、彼の耳に赤色が走る。何かに勝ったような気分がして、思わず心の中でガッツポーズをきめる。
「じゃあ、行きますか」
赤い耳を誤魔化すように咳払いした後、彼の言葉を合図に、車はゆっくりと動き始めた。
前に乗った時も思っていたけれども、皓人さんの車内はとてもキレイだ。余計なものがない。それに、なんだか良い匂いがする。ちょっと、オシャレな匂い。きっと、皓人さんの家もそうなんだろうな、なんて考える。
「このあいだ、空港で茉里ちゃんが選んでくれたおみやげあったでしょ? 仕事関係の人に渡す用の、あの、ハスカップ? のジャムみたいのが挟まってるやつ」
「うん」
「あれ、みんな気に入ってくれた。ありがとう」
いえいえ、と私は小さく首を振る。こんな些細なことでも報告してくれるのが、なんだか嬉しい。自然と口角が緩む。
「今日の夜ごはんはー、パエリアです」
「パエリア? 皓人さん作れるの?」
「うん。慣れたら結構簡単だよ」
「へえ」
「ミラノでも、なんか美味しそうな食べ物あったら、茉里ちゃんに食べさせてあげられるようにレシピ聞いてくるね」
「ありがとう」
皓人さんは楽しそうにハミングしながら、車を滑らせる。私の心に芽生えた小さなモヤモヤに、彼はたぶん気付いていない。
「海外出張って、よくあるの?」
他愛もない会話に、それとなくを装って気にかかっていた話題を差し込んでみる。彼は特に表情を変えるでもなく、先程までと同様に口を開く。
「んー、まあそんなに頻繁じゃないけど、コレクションの時期はなるべく現地に行くようにしてるかな。あとは今回みたいに、仕入れのために毎月どこかへ行くぐらいだなー」
「そうなんだ……」
答えながら、窓の外に視線を走らせる。海外なんて行ったことがない私にとっては、1度の海外出張というだけでも違う世界の話のように聞こえる。けれども、彼にとってはそれが普通のことなんだろう。
胸の奥がズクン、と痛んだ。
「何? 寂しくなっちゃった?」
優しい声でそう問いかけられても、曖昧な笑顔を返すことしかできない。
「向こうにいる間も、ちゃんと連絡するから。時差はあるけど、お互いが起きてる時間って絶対にあるし。それに、たったの1週間だけだから、すぐに帰ってくるよ」
心配しないで、と頭を軽く撫でられる。それでも、不安な気持ちは消えなかった。
ほどなくして大きな家が立ち並ぶ住宅街に入ると、そのままガレージに入って車は止まった。
「自由空間到着ー」
皓人さんの明るい声に、私も気分を入れ換えよう、と深呼吸する。助手席側に回って扉を開けてくれた皓人さんは、私が降りる時には手を差し出してエスコートをしてくれる。彼のいつもの紳士的な振る舞いは、いつだって私をドキドキさせる。
彼の手を取り車から降りれば、そのままぎゅっと抱き締められる。前にも同じようなことがあったけれども、何回繰り返しても慣れることはないし、毎回、初めてみたいにドキドキする。
「今日はずっと一緒だから。ずっと、2人きり」
耳元で囁かれて、私も彼の首へと腕を回す。彼の顔を見上げれば、彼もそれに気付いてくれて。互いに顔を寄せ合い、まるで鳥が啄むようにお互いの唇を重ねる。それを何度か繰り返すと、再び彼の首もとに顔を埋め、匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
「そろそろ入ろっか」
首に回した腕が疲れ始めた頃、タイミング良く降ってきた彼の言葉に頷く。抱擁はやめても、手は繋いだまま。その温もりが愛おしくて、幸せだった。
手を繋いだまま、ようやく彼のスタジオに足を踏み入れる。広い空間のなか、ラックにズラッと並んだ服の数々、様々な種類のマネキンが至るところに立っている。
壁にならんだ棚にはカラフルな糸やリボンがキレイに整列していて、作業台らしきものには布やラメのようなものが無造作に置かれている。たくさんのデザイン画が棚のない壁を埋め尽くしていて、本棚には画集のようなものやスケッチブックがぎっしり詰まっている。
映画やテレビの中でしか見たことの無いような光景が、目の前に広がっていた。
「ここが、俺の作業場所。で、階段を上がったら、生活スペース」
繋がれたままの手を優しく引いて、彼は私を上階へと誘う。
「簡易キッチンとミニダイニング。ベッドルームはあっちだけど、まずは夕飯!」
ソファの上に私の荷物を置くと、いそいそと彼はキッチンに消えていく。
確かに彼の言う通り、「家」というよりも「生活スペース」と呼んだ方がしっくりくる空間だ。無造作に置かれたジャケットだとか、雑誌や新聞だとかが辛うじて生活感を出している程度で、驚くぐらいに生活感がない。家主が見ていないところで勝手にジロジロ見るのも気が引けるので、私は早々に彼の後に続いてキッチンへと向かうことにした。
「そこ座ってて」
指示された通り、ミニダイニングの椅子に腰かける。まっさらなウッド調のテーブルに置かれた、鮭を咥えた木彫りの熊の醸し出す異物感は圧倒的だった。そういえば新千歳空港でこんなの買っていたなあ、と、彼の空間に私との繋がりがあるものが置かれている事実が無性に嬉しかった。
首を伸ばして覗いたキッチンは驚くほどキレイで、普段から料理をしているようには思えなかった。必要最低限の調理器具の近くに置かれた、どう見ても高価そうなスムージーミキサーが異彩を放っている。コンロにかかっているのは、それはそれは立派なパエリア鍋。
「ずいぶんと本格的なんだね」
そう声をかければ、彼は自慢気に腰に手を当てる。
「良いでしょ、パエリア鍋。大学生の時にパエリアにハマって、2年前ぐらいかな? にようやく手に入れた」
満足そうに微笑む皓人さんの言葉に、私は小さく吹き出した。
「高校の修学旅行でジンギスカンにハマって、大学でパエリアにハマったの?」
「そう。実は、ジンギスカン鍋も持ってる。どっかの棚に入ってると思うけど」
どこにやったかな? と頭をかく彼に、私は笑いが止まらなかった。
「じゃあ、大学卒業してからはタジン鍋にハマってたとか?」
「正解! 茉里ちゃんよく分かったね!」
なんで分かったの? エスパー? なんて皓人さんが聞いてくるものだから、私は更におかしくて、お腹を抱えて笑い始めた。
「茉里ちゃん、なんでそんな笑ってんの?」
本当に分かっていなさそうな表情で訊ねられて、私の笑い声はなかなかに収まらなかった。
「皓人さん、鍋にハマりすぎだし、買いすぎ」
「……それ、友達にも言われた」
ちょっと落ち込んだような素振りを見せながら、彼はダイニングテーブルのど真ん中にパエリア鍋をドーンと置く。続けてお皿とスプーンを二組、テーブルに乗せた。
「さあ、食べよう! いただきます!」
「いただきます!」
2人で向かい合って、手を合わせて、なんとなく目が合って、気恥ずかしくてお互いに笑い合う。絶対的に、この空間は2人だけのものだ。幸せ、という言葉が容易に頭を駆け巡る。この空気感、なんだか好きだ。
思い返せば、外食以外で誰かが作ってくれたご飯を食べるのは、いつぶりだろうか。思い出そうとしても、思い出せないぐらい昔の記憶な気がする。
友達と遊んで、家に帰ると鼻を擽る夕飯の美味しそうな匂い。一目散に台所にかけていって、大好きなお母さんの足元に抱きつく。そんな幸せは、夢の中のもののように思える。現実だったはなのに。
「茉里ちゃん?」
どうしたの? と皓人さんに声をかけられ、わたしはハッとした。何でもない、と首を振れば、そう、という言葉が返ってきただけだった。
「幸せを噛み締めてただけ」
そう答えながら、今感じている幸せに浸ろうとする。まるで夢の中にいるみたいだけれども、この幸せは現実で起きていること。とにかく今は余計なことなんて考えず、目の前にある幸せだけを感じたい。そう強く思った。
初めてというわけでは、ないけれど。この間の勢いとは違う、改まっての緊張感がある。どぎまぎしながら、定時で業務を片付けるなりすぐに自宅に急行し、時間の許す限り最終チェックを続ける。
皓人さんが迎えにくるまであと10分。
用意していた真っ青なワンピースに袖を通して、髪型やメイクが崩れていないか、改めて確認する。鼻の頭のテカりが気になって、もう1度パウダーを手に取る。
再度鏡を確認していると、インターフォンの音が鳴りひびく。モニターで相手を確認すれば、予想通り皓人さんで、安心と緊張が一気に全身に広がる。ドクドクと音を立てる心臓を抑えて、私は準備していた鞄を手に、彼の待つエントランスへと急いだ。
エントランスまで降りれば、すぐに皓人さんを見つけられた。マンションのすぐ脇に停めてある車に、気だるげに寄りかかる姿は、なんとも様になっている。白のスウェットパンツにうすいグレーのトレーナーという、とてもラフな格好なのに絵になるのはどうしてなんだろう。私に気付いて片手を振る仕草までかっこ良くて、思わず隣に並ぶのを躊躇してしまうほどだ。
「茉里ちゃんは今日も可愛いね」
おずおずと私が近寄ればさっと助手席のドアを開けてくれて、さらり、とそんな台詞を言えてしまう。こんな人が実在しているだなんて。改めて不思議な感覚に陥る。
「皓人さんだって、いつも通り素敵ですよ」
運転席に滑り込んだ彼に、私も負けじとそんな言葉を呟いてみた。途端に、彼の耳に赤色が走る。何かに勝ったような気分がして、思わず心の中でガッツポーズをきめる。
「じゃあ、行きますか」
赤い耳を誤魔化すように咳払いした後、彼の言葉を合図に、車はゆっくりと動き始めた。
前に乗った時も思っていたけれども、皓人さんの車内はとてもキレイだ。余計なものがない。それに、なんだか良い匂いがする。ちょっと、オシャレな匂い。きっと、皓人さんの家もそうなんだろうな、なんて考える。
「このあいだ、空港で茉里ちゃんが選んでくれたおみやげあったでしょ? 仕事関係の人に渡す用の、あの、ハスカップ? のジャムみたいのが挟まってるやつ」
「うん」
「あれ、みんな気に入ってくれた。ありがとう」
いえいえ、と私は小さく首を振る。こんな些細なことでも報告してくれるのが、なんだか嬉しい。自然と口角が緩む。
「今日の夜ごはんはー、パエリアです」
「パエリア? 皓人さん作れるの?」
「うん。慣れたら結構簡単だよ」
「へえ」
「ミラノでも、なんか美味しそうな食べ物あったら、茉里ちゃんに食べさせてあげられるようにレシピ聞いてくるね」
「ありがとう」
皓人さんは楽しそうにハミングしながら、車を滑らせる。私の心に芽生えた小さなモヤモヤに、彼はたぶん気付いていない。
「海外出張って、よくあるの?」
他愛もない会話に、それとなくを装って気にかかっていた話題を差し込んでみる。彼は特に表情を変えるでもなく、先程までと同様に口を開く。
「んー、まあそんなに頻繁じゃないけど、コレクションの時期はなるべく現地に行くようにしてるかな。あとは今回みたいに、仕入れのために毎月どこかへ行くぐらいだなー」
「そうなんだ……」
答えながら、窓の外に視線を走らせる。海外なんて行ったことがない私にとっては、1度の海外出張というだけでも違う世界の話のように聞こえる。けれども、彼にとってはそれが普通のことなんだろう。
胸の奥がズクン、と痛んだ。
「何? 寂しくなっちゃった?」
優しい声でそう問いかけられても、曖昧な笑顔を返すことしかできない。
「向こうにいる間も、ちゃんと連絡するから。時差はあるけど、お互いが起きてる時間って絶対にあるし。それに、たったの1週間だけだから、すぐに帰ってくるよ」
心配しないで、と頭を軽く撫でられる。それでも、不安な気持ちは消えなかった。
ほどなくして大きな家が立ち並ぶ住宅街に入ると、そのままガレージに入って車は止まった。
「自由空間到着ー」
皓人さんの明るい声に、私も気分を入れ換えよう、と深呼吸する。助手席側に回って扉を開けてくれた皓人さんは、私が降りる時には手を差し出してエスコートをしてくれる。彼のいつもの紳士的な振る舞いは、いつだって私をドキドキさせる。
彼の手を取り車から降りれば、そのままぎゅっと抱き締められる。前にも同じようなことがあったけれども、何回繰り返しても慣れることはないし、毎回、初めてみたいにドキドキする。
「今日はずっと一緒だから。ずっと、2人きり」
耳元で囁かれて、私も彼の首へと腕を回す。彼の顔を見上げれば、彼もそれに気付いてくれて。互いに顔を寄せ合い、まるで鳥が啄むようにお互いの唇を重ねる。それを何度か繰り返すと、再び彼の首もとに顔を埋め、匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
「そろそろ入ろっか」
首に回した腕が疲れ始めた頃、タイミング良く降ってきた彼の言葉に頷く。抱擁はやめても、手は繋いだまま。その温もりが愛おしくて、幸せだった。
手を繋いだまま、ようやく彼のスタジオに足を踏み入れる。広い空間のなか、ラックにズラッと並んだ服の数々、様々な種類のマネキンが至るところに立っている。
壁にならんだ棚にはカラフルな糸やリボンがキレイに整列していて、作業台らしきものには布やラメのようなものが無造作に置かれている。たくさんのデザイン画が棚のない壁を埋め尽くしていて、本棚には画集のようなものやスケッチブックがぎっしり詰まっている。
映画やテレビの中でしか見たことの無いような光景が、目の前に広がっていた。
「ここが、俺の作業場所。で、階段を上がったら、生活スペース」
繋がれたままの手を優しく引いて、彼は私を上階へと誘う。
「簡易キッチンとミニダイニング。ベッドルームはあっちだけど、まずは夕飯!」
ソファの上に私の荷物を置くと、いそいそと彼はキッチンに消えていく。
確かに彼の言う通り、「家」というよりも「生活スペース」と呼んだ方がしっくりくる空間だ。無造作に置かれたジャケットだとか、雑誌や新聞だとかが辛うじて生活感を出している程度で、驚くぐらいに生活感がない。家主が見ていないところで勝手にジロジロ見るのも気が引けるので、私は早々に彼の後に続いてキッチンへと向かうことにした。
「そこ座ってて」
指示された通り、ミニダイニングの椅子に腰かける。まっさらなウッド調のテーブルに置かれた、鮭を咥えた木彫りの熊の醸し出す異物感は圧倒的だった。そういえば新千歳空港でこんなの買っていたなあ、と、彼の空間に私との繋がりがあるものが置かれている事実が無性に嬉しかった。
首を伸ばして覗いたキッチンは驚くほどキレイで、普段から料理をしているようには思えなかった。必要最低限の調理器具の近くに置かれた、どう見ても高価そうなスムージーミキサーが異彩を放っている。コンロにかかっているのは、それはそれは立派なパエリア鍋。
「ずいぶんと本格的なんだね」
そう声をかければ、彼は自慢気に腰に手を当てる。
「良いでしょ、パエリア鍋。大学生の時にパエリアにハマって、2年前ぐらいかな? にようやく手に入れた」
満足そうに微笑む皓人さんの言葉に、私は小さく吹き出した。
「高校の修学旅行でジンギスカンにハマって、大学でパエリアにハマったの?」
「そう。実は、ジンギスカン鍋も持ってる。どっかの棚に入ってると思うけど」
どこにやったかな? と頭をかく彼に、私は笑いが止まらなかった。
「じゃあ、大学卒業してからはタジン鍋にハマってたとか?」
「正解! 茉里ちゃんよく分かったね!」
なんで分かったの? エスパー? なんて皓人さんが聞いてくるものだから、私は更におかしくて、お腹を抱えて笑い始めた。
「茉里ちゃん、なんでそんな笑ってんの?」
本当に分かっていなさそうな表情で訊ねられて、私の笑い声はなかなかに収まらなかった。
「皓人さん、鍋にハマりすぎだし、買いすぎ」
「……それ、友達にも言われた」
ちょっと落ち込んだような素振りを見せながら、彼はダイニングテーブルのど真ん中にパエリア鍋をドーンと置く。続けてお皿とスプーンを二組、テーブルに乗せた。
「さあ、食べよう! いただきます!」
「いただきます!」
2人で向かい合って、手を合わせて、なんとなく目が合って、気恥ずかしくてお互いに笑い合う。絶対的に、この空間は2人だけのものだ。幸せ、という言葉が容易に頭を駆け巡る。この空気感、なんだか好きだ。
思い返せば、外食以外で誰かが作ってくれたご飯を食べるのは、いつぶりだろうか。思い出そうとしても、思い出せないぐらい昔の記憶な気がする。
友達と遊んで、家に帰ると鼻を擽る夕飯の美味しそうな匂い。一目散に台所にかけていって、大好きなお母さんの足元に抱きつく。そんな幸せは、夢の中のもののように思える。現実だったはなのに。
「茉里ちゃん?」
どうしたの? と皓人さんに声をかけられ、わたしはハッとした。何でもない、と首を振れば、そう、という言葉が返ってきただけだった。
「幸せを噛み締めてただけ」
そう答えながら、今感じている幸せに浸ろうとする。まるで夢の中にいるみたいだけれども、この幸せは現実で起きていること。とにかく今は余計なことなんて考えず、目の前にある幸せだけを感じたい。そう強く思った。
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