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第5章「蟻塚祐絵はやはり敵が多い」
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「くそー。あと少しでクリアだったのにな。残念」
「まあ、あのグループで最後の問題までいけたんだ。落ち込むことはないだろ」
担任の早川先生が用意した、いわゆる脱出ゲームに近い謎解きを終えてオレたちは部屋へと戻ってきた。
ここから夕食までの自由時間は短いが、一休みするくらいの時間はあるだろう。
クラスメイトの男子五人が同じ部屋で、それぞれ好きな場所に座ってくつろぐ中、オレは持参したペットボトルのお茶を飲みながら隣に座る矢渕を見る。
「よしよしよし」
と、なにやらスマホの画面を見ながら嬉しそうにはしゃいでいる。
「何やってんだ?」
「ん?最近流行ってる『ヘブンズステアー』ってゲーム。敵を倒しながら世界各所の塔を登って頂上を目指すみたいな奴」
「へえ~。上に行くほど敵が強くなるみたいな?」
「そうそう。頂上にいるボスのアイテムがなかなか手に入らなくてさ~」
「え?それってもしかして沙羅曼蛇じゃね?」
オレたちの会話を耳にしてか、近くにいた男子生徒が混ざってきた。
「確かそんな名前だったはず。何?お前もやってんの?」
「やってる。俺もそれ欲しいから一緒に周回やらね?」
「うわー、それマジ助かる」
何やら二人の間で話が盛り上がりだしたところで、部屋の扉を叩く音が聞こえ、我先にと立ち上がる。
オレはあまりスマホのゲームや家庭用のゲームをやっていないので、こういった話にはついていけず、いつも当たり障りないことを言い、頃合いを見てさっさと退散することにしていた。
昔、対戦ゲームで姉貴にボコボコにされて以来、そういったゲームが好きじゃなくなったのも原因ではあるが。
ガチャッ!と扉を開けると、そこにいたのは萩元だった。
「あっ、やっぱりここだったんだ」
「どうした?もうすぐ夕飯だぞ?」
「うん、わかってる。わかってるけど……その、なんか喋りたくなっちゃって。湊斗と」
「わかった。ちょっと待ってろ」
オレは部屋に戻り、財布とスマホを手にすると矢渕に「少し出てくる。時間になっても戻らなかったら先に夕飯いっててくれ」とだけ伝えて部屋を出た。
2人でしばらく歩き、自販機の置いてある休憩スペースまでやってくると、そこで飲み物を二本買って片方を萩元に手渡す。
「ありがと」
両手で受け取り、蓋を開けるとそのまま口に運ぶ萩元。
オレも自分の分の飲み物を開けて口をつける。
「それで?どうかしたのか?」
「……」
しばらくの間を経て、萩元は壁に背中を預けながら少し困ったように笑う。
「ちょっぴり疲れちゃって」
「あー、人といるのがか?」
「……ん」
小さく頷いて肯定する萩元。
「お前は昔から人一倍気を使うもんな。話し方といい言い方といい」
「だって誰も傷つけたくないし、誤解されたくもないじゃん?人付き合いは良いに越したことはないし」
萩元が何を言いたいのかはわかる。
だが、萩元は結構人見知りをするタイプだ。
しかも人の感情の変化に敏感で、相手の気持ちを汲み取ることに関しては誰よりも秀でている。
だからこそ、相手の顔色を窺いすぎて疲れてしまったのだろう。
だからといって空気を読まなければ、それこそ人間関係は崩壊するし、自分の意見を押し通してばかりでも嫌われる。
オレから言うのもなんだが、萩元はその辺のバランスが絶妙に上手い。
だから、人付き合いが上手くて誰からも好かれるタイプに見えるし、実際彼女の周りには人が多い。
だが、それはあくまで表面上の話。
本当の彼女はとても繊細で、傷つきやすく、なにより面倒臭がり屋。
だが、そんな面倒臭がり屋でも自分が傷つかない為ならばどんな努力も厭わない。
周りによく思われる努力もするし、可愛く思われる努力もする。
頼られればそれに答えるし、自分の意見は極力口にしない。
それはきっと萩元が生きていく上で身につけた処世術なんだろう。
だけど、そんな萩元にだって疲れるときもあるし、弱るときだってある。
だからこうして今みたいにギリギリになるまで耐えてようやくオレのところに来ては甘えようとしてくるのだ。
昔のように。
「偉いよな、萩元は。逃げたりなんかせずに立ち向かってんだから」
「……最初は逃げるつもりだったよ。この街からも。でもね、湊斗がいたから」
「オレ?」
「うん。頑張ろうって思った」
そう言って萩元は嬉しそうに微笑む。
オレはそんな萩元にどう反応すればいいのかわからず、視線を逸らして誤魔化すしかなかった。
けれど、萩元にもその仕草の意味は伝わったのだろう。
その証拠にクスクスと笑い声が聞こえる。
「昔みたいにさ……頭撫でて欲しいな」
催促するように少し照れながら、でもはっきりと萩元が口にする。
そんな萩元にオレはゆっくりと近づき、その頭に手を置くと優しく撫でてやる。
「これでいいか?」
「……えへへ」
たったそれだけで萩元はくすぐったそうに目を細めて、幸せそうな笑みを浮かべる。
昔から、萩元がオレの前でだけ見せる表情だ。
相変わらず我儘な奴だと思いつつも、どこか嬉しく思ってしまう自分がいた。
それからしばらくの間は他愛もない会話が続いた。
学校のこと、クラスのこと、友達のこと……そんな取り留めのない話をしながら、オレは萩元の気が済むまで頭を撫で続けた。
「次は絶対に……いなくならないでね?」
別れ際、彼女は寂しそうにそう口にした。
きっと小学生の頃に急に転校してしまったオレのことを、まだ引きずっているのだろう。
「ああ、絶対な」
オレはそう答えると、萩元は満足そうに頷いて、 またねと手を振って帰っていった。
「まあ、あのグループで最後の問題までいけたんだ。落ち込むことはないだろ」
担任の早川先生が用意した、いわゆる脱出ゲームに近い謎解きを終えてオレたちは部屋へと戻ってきた。
ここから夕食までの自由時間は短いが、一休みするくらいの時間はあるだろう。
クラスメイトの男子五人が同じ部屋で、それぞれ好きな場所に座ってくつろぐ中、オレは持参したペットボトルのお茶を飲みながら隣に座る矢渕を見る。
「よしよしよし」
と、なにやらスマホの画面を見ながら嬉しそうにはしゃいでいる。
「何やってんだ?」
「ん?最近流行ってる『ヘブンズステアー』ってゲーム。敵を倒しながら世界各所の塔を登って頂上を目指すみたいな奴」
「へえ~。上に行くほど敵が強くなるみたいな?」
「そうそう。頂上にいるボスのアイテムがなかなか手に入らなくてさ~」
「え?それってもしかして沙羅曼蛇じゃね?」
オレたちの会話を耳にしてか、近くにいた男子生徒が混ざってきた。
「確かそんな名前だったはず。何?お前もやってんの?」
「やってる。俺もそれ欲しいから一緒に周回やらね?」
「うわー、それマジ助かる」
何やら二人の間で話が盛り上がりだしたところで、部屋の扉を叩く音が聞こえ、我先にと立ち上がる。
オレはあまりスマホのゲームや家庭用のゲームをやっていないので、こういった話にはついていけず、いつも当たり障りないことを言い、頃合いを見てさっさと退散することにしていた。
昔、対戦ゲームで姉貴にボコボコにされて以来、そういったゲームが好きじゃなくなったのも原因ではあるが。
ガチャッ!と扉を開けると、そこにいたのは萩元だった。
「あっ、やっぱりここだったんだ」
「どうした?もうすぐ夕飯だぞ?」
「うん、わかってる。わかってるけど……その、なんか喋りたくなっちゃって。湊斗と」
「わかった。ちょっと待ってろ」
オレは部屋に戻り、財布とスマホを手にすると矢渕に「少し出てくる。時間になっても戻らなかったら先に夕飯いっててくれ」とだけ伝えて部屋を出た。
2人でしばらく歩き、自販機の置いてある休憩スペースまでやってくると、そこで飲み物を二本買って片方を萩元に手渡す。
「ありがと」
両手で受け取り、蓋を開けるとそのまま口に運ぶ萩元。
オレも自分の分の飲み物を開けて口をつける。
「それで?どうかしたのか?」
「……」
しばらくの間を経て、萩元は壁に背中を預けながら少し困ったように笑う。
「ちょっぴり疲れちゃって」
「あー、人といるのがか?」
「……ん」
小さく頷いて肯定する萩元。
「お前は昔から人一倍気を使うもんな。話し方といい言い方といい」
「だって誰も傷つけたくないし、誤解されたくもないじゃん?人付き合いは良いに越したことはないし」
萩元が何を言いたいのかはわかる。
だが、萩元は結構人見知りをするタイプだ。
しかも人の感情の変化に敏感で、相手の気持ちを汲み取ることに関しては誰よりも秀でている。
だからこそ、相手の顔色を窺いすぎて疲れてしまったのだろう。
だからといって空気を読まなければ、それこそ人間関係は崩壊するし、自分の意見を押し通してばかりでも嫌われる。
オレから言うのもなんだが、萩元はその辺のバランスが絶妙に上手い。
だから、人付き合いが上手くて誰からも好かれるタイプに見えるし、実際彼女の周りには人が多い。
だが、それはあくまで表面上の話。
本当の彼女はとても繊細で、傷つきやすく、なにより面倒臭がり屋。
だが、そんな面倒臭がり屋でも自分が傷つかない為ならばどんな努力も厭わない。
周りによく思われる努力もするし、可愛く思われる努力もする。
頼られればそれに答えるし、自分の意見は極力口にしない。
それはきっと萩元が生きていく上で身につけた処世術なんだろう。
だけど、そんな萩元にだって疲れるときもあるし、弱るときだってある。
だからこうして今みたいにギリギリになるまで耐えてようやくオレのところに来ては甘えようとしてくるのだ。
昔のように。
「偉いよな、萩元は。逃げたりなんかせずに立ち向かってんだから」
「……最初は逃げるつもりだったよ。この街からも。でもね、湊斗がいたから」
「オレ?」
「うん。頑張ろうって思った」
そう言って萩元は嬉しそうに微笑む。
オレはそんな萩元にどう反応すればいいのかわからず、視線を逸らして誤魔化すしかなかった。
けれど、萩元にもその仕草の意味は伝わったのだろう。
その証拠にクスクスと笑い声が聞こえる。
「昔みたいにさ……頭撫でて欲しいな」
催促するように少し照れながら、でもはっきりと萩元が口にする。
そんな萩元にオレはゆっくりと近づき、その頭に手を置くと優しく撫でてやる。
「これでいいか?」
「……えへへ」
たったそれだけで萩元はくすぐったそうに目を細めて、幸せそうな笑みを浮かべる。
昔から、萩元がオレの前でだけ見せる表情だ。
相変わらず我儘な奴だと思いつつも、どこか嬉しく思ってしまう自分がいた。
それからしばらくの間は他愛もない会話が続いた。
学校のこと、クラスのこと、友達のこと……そんな取り留めのない話をしながら、オレは萩元の気が済むまで頭を撫で続けた。
「次は絶対に……いなくならないでね?」
別れ際、彼女は寂しそうにそう口にした。
きっと小学生の頃に急に転校してしまったオレのことを、まだ引きずっているのだろう。
「ああ、絶対な」
オレはそう答えると、萩元は満足そうに頷いて、 またねと手を振って帰っていった。
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