恋花ーコイバナー

東雲いさき

文字の大きさ
37 / 41
第5章「蟻塚祐絵はやはり敵が多い」

3

しおりを挟む
「……ん」
翌日の早朝。
特に目覚ましがなったわけでもなく、ただ自然と目が覚めてしまったオレは、ぼーっとした頭のまま身体をぐっと起こす。
「合宿、だったな。そういえば」
いびきをかきながら寝る男子や布団に丸まって寝ている矢渕たちを起こさないように顔を洗ってそっと部屋を抜け出す。
早朝ということもあってか廊下には全く人気はなく、しんと静まり返っていた。
「どこに行く気だ?結城」
と、合宿施設の玄関で椅子に座りながらコーヒーを飲んでいた五十嵐先生が、オレの姿を見て話しかけてくる。
「まだ起きるには早かったんじゃないか?」
「あー、なんていうか目が冴えちゃって。日課のランニングをしたかったんすけど……やっぱり駄目っすよね」
ははは、と苦笑いしながら頭をかく。
まあ、許すはずもない。
ここは山の中だ。もし生徒に勝手をさせて迷子にでもなったら大変なことになる。
諦めて部屋に戻るか。
そう考えていると先生は、ふむ、と少し考え込んでから口を開いた。
「お前は確か運動部ではなかったはずだよな?なのに走ってるのか?」
「一応、身体作りは大事かなって。先生も一緒にどうです?」
オレは笑って冗談混じりに先生を誘ってみる。
「良いぞ」
「……え?」
返ってきたのは意外な返事だった。
まさか乗ってきてくれるとは。
「だが、少し待て。代わりに見張ってくれる先生を呼んでくる」
「本当に良いんすか?」
「可愛い教え子の頼みだ。それに俺も丁度走りたかったところだしな」
こうしてオレは何故か先生と一緒に朝のランニングをすることとなった。

「あっ、戻ってきた!何処言ってたんだよ?」
ランニングを終えて部屋に戻るや否や、矢渕がオレのことを出迎えた。
「ちょっとな」
「ちょっと……?も、もしかして深夜にこっそり抜け出して柊の部屋に行ってたとか!?」
「違えよ」
鬱陶しく絡んでくる矢渕に、オレは呆れながら身体を拭いていく。
「朝のランニングをしてたんだ。五十嵐先生と一緒に」
「え?……それ何の罰ゲーム?」
オレの返答に、矢渕は若干困惑気味に言う。
まあ、そうなるよな。普通は。
「とにかく女子の部屋なんて行ってない。そもそも深夜に部屋を抜け出そうなんて無理な話だろ。見張りの教師がいるんだから」
オレは矢渕にそう言い、今日の予定表を確認してからジャージを羽織る。
どうやら朝食後はクラス毎で別れてハイキングらしい。
五十嵐先生はコースの状態の下見も兼ねたんだろうか?
「朝は何が食えるんだろうな?」
「なんかバイキングだって話だぞ」
「うわ、最高じゃん!」
支度を終えたクラスメイトたちと一緒に朝食の会場へ向かう。
と、そこに。
「ねえ、級長。ちょっと良い?」
オレの姿を見つけ、そう声をかけてきたのは丁度出くわしたクラスメイトの女子の1人だった。
「どうした?」
「えっと、柊ちゃんのことなんだけどさ」
「……?柊がどうかしたのか?」
「あー、いや。柊ちゃんが直接どうしたって話じゃなくて。どっちかというと蟻塚の話」
「何かあったのか?」
「ここだけの話だよ?アイツ、パパ活してたんじゃないかって噂が出ててさ」
「それはまた、なんというか」
凄い話だな。
本当なら、だが。
「あんな奴と関わってると柊ちゃんもいずれそっち側になっちゃわないか心配なんだよね」
なるほどな。
確かに、その噂がもし本当だとしたら、あの蟻塚といる柊は少なからず悪い影響を受けるかもしれない。
だが、その噂が本当かどうかなんて今の時点では判断出来かねる。証拠もないしな。
噂はあくまでただの噂でしかないのだ。
とりあえず本人に確認を、と言いたいところではあるが相手はあの蟻塚だ。
本音を語ってくれるとは思わない。
オマケにオレは相当嫌われているしな。
「まあ、やることはやってみる。教えてくれてありがとな」
何にせよ。
たかが噂程度でアイツを軽蔑する気もない。
オレはまだ蟻塚のことを何も知らないのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...