使い魔にご用心。

リー

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愛してるぜご主人様

悪魔に子守

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さてさてぇ。今日の夜は誰のとこに行こうかねぇ。ドM野郎か、青二才か、イカした軍人さんか、はたまた新しいヤツを探しに行くのもいい。

悪魔は今にでもスキップしそうなほど気分を良くしながらカーペットの敷かれた長い廊下を歩いていた。

屋敷の中には最低限の召使いしかおらず、屋敷はいつも静けさに包まれている。ご主人様のテオは人が嫌いではないが、1人の時間が好きなヤツだ。召使いには自分の家から通ってもらっていた。だから夜は、テオとルビーしかいない。

テオが1人の時間を確保したい主義の人間だと理解しているルビーは邪魔をしないように夜に屋敷から抜け出していた。夜の屋敷はどこか寂しい空気が生まれ、孤独感が襲ってくる。

このままではテオの部屋に行って甘えてしまう。そんなことをすればテオにウザがられてしまうだろう。そんなことを避けたい寂しがり屋の悪魔は夜に屋敷を抜け出すのだ。温もりを求めて。

悪魔に温もりはない。人に抱きしめられると優しさに包み込まれた気持ちになる。人が生み出す温もりは素晴らしい。クリスマスの日に家族が集まって食事をしたり、恋人が手を繋ぎながらポケットの中で暖まったりするように。人の良心がそれを生み出しているのだろう。

天使にもそれはある。天から降りてくる天使のほほ笑みには人に喜びを与えるものがあるのだ。天使の腕の中に包み込まれた時には天にも昇る心地だ。

だが悪魔にはない。悪魔に抱きしめられても何も感じる事はない。悪魔同士が抱きしめ合えば、哀しみしか生まれない。悪魔が与えられる物といえば、淫らな快楽のみだ。

そんなことを考えながら、ルビーは少し寂しい気持ちになった。

すると、耳をつんざく声が廊下に響き渡る。

「悪魔ー!!!!!!!」

「うるせぇー!!!!!」

ルビー目掛けて一直線に走ってくるのは、ブロンドの髪をした小さな少年だった。

全速力でかけてきた少年は、ルビーの周りをぐるぐるまわり、羽を触ったり、尻尾をひっぱたりしてきゃっきゃっと笑った。

ひとしきり回り終わるとルビーの前に来て、悪魔を驚愕させるほどのジャンプ力をみせる。ルビーの胸に飛び込む。ルビーはすかさず、腕を伸ばし少年を抱えた。

抱えられた少年は落ち着きを取り戻す事なく、悪魔のツノを掴みいじりだした。

「ルーカス。お前は本当に肝が座ってやがるな。悪魔にそんな事をするなんて切り刻まれても文句は言えねぇな。」

堪忍袋の緒が切れそうなのをなんとか抑え、少年に話しかける。

「かっけぇ!!」

少年は悪魔にキラキラとした眼差しを向け、興奮が抑えられないとばかりに話し始める。

「悪魔久しぶり!うわぁー!かっこい!ツノ強そう!かっこい!俺も絶対使い魔は悪魔にする!!」

「召喚できるといいな。」

少年のルーカスに淡々と答えるとルビーは腕を下ろした。

「いった!」

支えを無くしたルーカスは重力の力によりカーペットの上に落ちていく。

ルーカスは尻餅をついた。

痛がるルーカスをそのままにしてルビーは歩きだす。

「待ってよ!一緒に遊んでよ!」

背後からルーカスが叫んでいるが、それを無視して歩き続ける。

「テオに言いつけるからな!お前なんかビリビリに撃たれちゃえばいいんだ!」

「あぁ?」

テオの名前が出た瞬間ルビーからドスの効いた声が出される。

「悪魔が1日中俺と遊んでくれるって言ってた。テオが言ってた!」

ルビーは顔を硬らせた。主人の命令として受け取らなければいけない。子守だと?

悪魔に子守をさせるなんて。我ながらご主人様はひどい人だ。

ルーカスは顔を硬らせている悪魔を見つめながら言い忘れていた事を告げる。

「今日俺と遊んでくれたらテオがご褒美あげるって言ってたよ!」

「悪魔とたくさん遊びましょうね!」
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