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01 これも全て、おにぃがカッコ良すぎるせい!
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放たれた火が、巨大な火竜のごとく燃え上がり、荘厳な神殿を飲み込もうとしている。
悲鳴をあげ逃げ惑う信者や聖職者たちを、なだれ込む兵士たちが容赦なく切り捨てていく。
「異端者たちに死を!」
「モーリス神万歳!」
「聖女を殺せ!」
「聖痕を奪え!」
死体であふれ、血の匂いが充満した神殿内に、鎧をまとった兵士たちの怒号が響き渡る。
神殿の最上階には祈禱場があり、中央には巨大な女神像、ヴィーナ神の石像が立っていた。
そこに生き残った信者、聖職者が肩を震わせ隠れているが、敵兵に発見されるのは時間の問題だ。
放たれた火がここまで燃え移ってきており、扉の前を家具でバリケードを作ってはいるが、その隙間から黒い煙がどんどん入り込んできている。
「聖女様、モーリス神教の神兵がもう、そこまで来ています」
年配の女性神職者が白い聖衣をまとった女性にすがりつく。
聖女と呼ばれた女性は黄金の髪に深い湖の瞳を持っており、その腕には同じ色を持つ赤ん坊が抱かれていた。
「ジーン」
「はい」
10才になる少年、ジーンは聖女の元で跪いた。
「貴方はこの子を連れて逃げなさい」
聖女はジーンに赤ん坊を渡すが、抱きなれていないためその動きはぎこちない。
「貴方の身体ならこの空気口から逃げられる」
小柄なジーンはそのブラウンの瞳を見開き、壁の隅にある30㎝四方の空気口と、聖女の顔を何度も見る。
「捕まりそうになったらこの【ゲート】のブレスレットを使いなさい。……古代の遺物だからきちんと動くか分かりませんが、ここの赤い石を押すと異世界に行けるはずです」
聖女はジーンの腕を取り、そこに【ゲート】と呼んだ金のブレスレットをはめた。
古代の…と言われたように彫刻が彫られた古びたブレスレットで、中央に直系1cmほどの赤い石がはめられていた。
「図書室の古書を読み切った貴方なら、これの使い方を知っているわよね?」
「はい」
「目標となる『目印』がないからどこの異世界に飛んでしまうか分かりません。かつては沢山の石がはめられていたそうだけれど、今はこのひとつしかないので、飛べるのは一回だけです」
ジーンがブレスレットを確かめると確かにそれらしいくぼみはたくさんあるが、石は赤いものしか残っていなかった。
「最後にこの【ゲート】が使われたのは120年以上前の話し、正常に動くかどうか――異世界ではなく時空のはざまに取り残されるかもしれません……だからどうしても逃げられない時にだけ使うようにしなさい」
「はい」
「おそらく私は殺されます。そうなれば聖女の力はアレクサンドラに継承されます。異世界まで追手は行けないと思いますが、聖女の力の源、聖痕がその身にあれば居場所は探知されてしまいます……彼らは聖女がいるかぎり、モーリス神の恩恵を受けられないから、諦めずに追いかけてくるかもしれません」
聖女の手から鞘に入った小型ナイフがジーンに渡された。
「……その時はこれを使いなさい」
それは【ゲート】のブレスレット同様、古ぼけたもので、これも古代の遺物だと思われた。
「【聖女殺しの剣】です。これを使えば聖女はいなくなる……そうすればモーリス神の信徒たちは行方を探知できなくなるはずです」
その時、ドーンドーンと扉を破壊する大きな音が響き渡り、きゃあきゃあと祈祷場から悲鳴が上がる。
「さぁ、もう行きなさい!」
聖女と数人の聖職者に押されて、ジーンと赤ん坊は空気口に押し込められる。
最後に聖女は赤ん坊の頬をなで、涙を流した。
「私の娘、アレクサンドラ……愛しているわ。どうか幸せになってね」
真っ暗な空気口をすべり降りながら、ジーンは振り返り、涙を流しながら微笑む聖女と聖職者たちを見えなくなるまで見つめ続けた。
直後、その狭い空間に反響して剣戟の音と断末魔の悲鳴が聞こえ始めた。
「あぁアリーちゃん! ごめんねぇ」
ここはJYTテレビの収録スタジオ。
「あ、下田さん!」
最近テレビに出るようになったおにぃは、タレント事務所と契約したのでマネージャーがつくようになった。
下田さんはそのおにぃのマネージャーで、テレビ局の玄関まで私を迎えに来てくれたのだ。
彼はおにぃの専属じゃなくて、他にも2人のタレントを抱えているので忙しそうだ。
「いえいえ、スマホ忘れるおにぃが悪いんです! 自分で取りに帰れって話しですよ!」
「ジーンさんはこの後、次の試合のポスター撮りがあって……その後ジムに行くって言ってたんで……」
だからって下田さんに、家までスマホを取りに行かせようとするなんて!
下田さんが忙しいのは分かってるだろうに――――テレビに出るようになって天狗になってんじゃない!?
「ほら、控室までおいでよ。アリーちゃんが直接渡してあげたら?」
そう言いながら、下田さんは入口の警備員さんに目配せしたので、私は遠慮なく入らせてもらう事にした。
わー、テレビ局の中に入れるなんて! 誰か有名人に会えないかな~~。SHINE MANの赤黒クンとか吉澤あきらクンとか……
きょろきょろしながら廊下を歩いていると、下田さんが急に真面目な声をかけてくる。
「アリーちゃん、やっぱりタレントのお仕事に興味ない?」
「あ~今はピアノに集中したいんで……」
「先月、ヤマキジュニアピアノコンクールで3位だったんだってね? おめでとう!」
「ありがとうございます」
初めての入賞に歓喜したけど~~冷静になれば私って、プロになれるほどじゃないんだよな~
音大に行くかも悩み中。
それに……
「私、これだし……」
私の左手の甲には、大きなアザがある。
手の甲いっぱいの大きさで、花のような、家紋のような真っ赤なアザが。
ものすごく目立つから、おにぃの指示で普段は手袋をしている。
「アザなんてコンシーラーで簡単に消せるよ? タトゥーだってみんな消してるんだから」
「はぁ……でも、おにぃが大反対で…」
「だよね~ジーンさん、アリーちゃんのこと大事にしてるからなぁ。アリーちゃん、可愛いし、スタイルもいいし絶対いけると思うんだけど……事務所の社長も何度かジーンさんに打診したんだけどなぁ~~」
「ははは」
あの超過保護マンに、私は苦笑いするしかない。
そうしてるうちにおにぃの控室に着いた。
「ジーンさん。下田です。入りますね」
ノックをした下田さんに続き、控室に入ると……
そこには女の人とキスをするおにぃの姿があった。
「おっ、おにぃ!」
「……あぁ、アリー」
のんびりしたおにぃの返事が返ってきた。
おにぃの肩に手をかけ、キスをしていた女が振り向く。
ほっそりとした長身にクールな美貌、高級ブランドの服をモデルのように着こなす完璧なプロポーション。
女優の氷室まさみだ!
「ふふっ。ジーンまたね」
ゆっくりと私を品定めするように見つめながら、余裕の微笑みですれ違う女優……香水まで何やら良い匂いすぎて腹が立つ!
「どっ! どーゆーこと!? なんで氷室まさみと…」
「さぁ……俺のファンなんだって」
おにぃこと、ジーン・桜田は、総合格闘技の選手で、HUZINのライトヘビー級王者だ。
190cmを越える長身、鍛え上げられた体躯、ブラウンヘアーに彫りの深い端正な顔立ち。
現在無敵の王者の上に整ったザ・ガイジンの容姿なのに、日本語しか喋れないというキャラが受けて、最近タレント化しているのだ。
「なっ、なんでキスなんてしてるのよっ!」
「むこうが勝手にしてきたんだ」
「おにぃは格闘家でしょ? シュッとよけるとか、サッと離れるとか!」
「それで彼女がコケでもしたら、ケガするだろ?」
このフェミニストめ!
優しく微笑むおにぃの唇には、赤い口紅がべったりついてる。
「痛い! やめろアリー! 痛い!」
私はポケットから取り出したハンカチで、思いっきり唇をこすって拭き取ってやった。
おにぃと下田さんは次の撮影所にはタクシーで移動するらしいが、その車に私も放り込まれる。
「え? 私、電車で帰れるよ?」
電車でここまで来たんだし。
「家まで送る。どうせ途中だ」
タクシーでは下田さんが助手席、おにぃと私が後部座席だったけど、おにぃは身体が大きいから時おり肩が当たったりする。
あぁ~~私は変態じゃなかろうか。
小さい頃は何も考えず、ただ大好きなお兄ちゃんだから抱き着いていた。なのに今は…肩がふれるだけでこんなに胸がドキドキするなんて。
兄妹なのに、血のつながった兄なのに!
これも全て、おにぃがカッコ良すぎるせい!
おにぃをぎっと睨むと、スマホチェックしていた、そのアンバーの瞳が私を捕える。
「なに?」
あああああ~~~そんな流し目で見ないでよおおお~~~
私を変態の沼に落とすつもりぃいい~~!
この好意はブラコンの域を越えている。
分かってる!
私が悶えていると、助手席から下田さんの声が聞こえた。
「ジーンさん。会長が地方興行をして欲しいって、また言ってましたよ?」
会長とは、おにぃが所属している大宝ジムの会長の事で、おにぃはずっと地方での興行を断り続け、日帰りできる関東でしか試合をしていない。
「無理だ」
「ファイトマネーもはずむって言ってましたよ?」
「アリーを一人にはできない」
「え? 私? 私もう18才だよ? 一人で留守番できるよ」
「だめだ」
そこで住んでいるマンションに着いたので、会話は終了。
「下田、ちょっと待っていてくれ」
そう言っておにぃは下田さんをタクシーに残し、部屋までついてきた。
そして全室一通り見て回る。いつものルーティンだ。
「じゃ、行ってくる。遅くなるから先に寝ておけ」
「分かった」
「ちゃんと布団かぶって寝ろよ」
「わーってる」
「鍵もしめろよ」
「はいはい」
本当におにぃは過保護だ。
地方興行を私のために断るなんて、とんだシスコンだ。
だけど、おにぃのシスコンは年の離れた妹を心配なだけ……
私のブラコンとは違う。
悲鳴をあげ逃げ惑う信者や聖職者たちを、なだれ込む兵士たちが容赦なく切り捨てていく。
「異端者たちに死を!」
「モーリス神万歳!」
「聖女を殺せ!」
「聖痕を奪え!」
死体であふれ、血の匂いが充満した神殿内に、鎧をまとった兵士たちの怒号が響き渡る。
神殿の最上階には祈禱場があり、中央には巨大な女神像、ヴィーナ神の石像が立っていた。
そこに生き残った信者、聖職者が肩を震わせ隠れているが、敵兵に発見されるのは時間の問題だ。
放たれた火がここまで燃え移ってきており、扉の前を家具でバリケードを作ってはいるが、その隙間から黒い煙がどんどん入り込んできている。
「聖女様、モーリス神教の神兵がもう、そこまで来ています」
年配の女性神職者が白い聖衣をまとった女性にすがりつく。
聖女と呼ばれた女性は黄金の髪に深い湖の瞳を持っており、その腕には同じ色を持つ赤ん坊が抱かれていた。
「ジーン」
「はい」
10才になる少年、ジーンは聖女の元で跪いた。
「貴方はこの子を連れて逃げなさい」
聖女はジーンに赤ん坊を渡すが、抱きなれていないためその動きはぎこちない。
「貴方の身体ならこの空気口から逃げられる」
小柄なジーンはそのブラウンの瞳を見開き、壁の隅にある30㎝四方の空気口と、聖女の顔を何度も見る。
「捕まりそうになったらこの【ゲート】のブレスレットを使いなさい。……古代の遺物だからきちんと動くか分かりませんが、ここの赤い石を押すと異世界に行けるはずです」
聖女はジーンの腕を取り、そこに【ゲート】と呼んだ金のブレスレットをはめた。
古代の…と言われたように彫刻が彫られた古びたブレスレットで、中央に直系1cmほどの赤い石がはめられていた。
「図書室の古書を読み切った貴方なら、これの使い方を知っているわよね?」
「はい」
「目標となる『目印』がないからどこの異世界に飛んでしまうか分かりません。かつては沢山の石がはめられていたそうだけれど、今はこのひとつしかないので、飛べるのは一回だけです」
ジーンがブレスレットを確かめると確かにそれらしいくぼみはたくさんあるが、石は赤いものしか残っていなかった。
「最後にこの【ゲート】が使われたのは120年以上前の話し、正常に動くかどうか――異世界ではなく時空のはざまに取り残されるかもしれません……だからどうしても逃げられない時にだけ使うようにしなさい」
「はい」
「おそらく私は殺されます。そうなれば聖女の力はアレクサンドラに継承されます。異世界まで追手は行けないと思いますが、聖女の力の源、聖痕がその身にあれば居場所は探知されてしまいます……彼らは聖女がいるかぎり、モーリス神の恩恵を受けられないから、諦めずに追いかけてくるかもしれません」
聖女の手から鞘に入った小型ナイフがジーンに渡された。
「……その時はこれを使いなさい」
それは【ゲート】のブレスレット同様、古ぼけたもので、これも古代の遺物だと思われた。
「【聖女殺しの剣】です。これを使えば聖女はいなくなる……そうすればモーリス神の信徒たちは行方を探知できなくなるはずです」
その時、ドーンドーンと扉を破壊する大きな音が響き渡り、きゃあきゃあと祈祷場から悲鳴が上がる。
「さぁ、もう行きなさい!」
聖女と数人の聖職者に押されて、ジーンと赤ん坊は空気口に押し込められる。
最後に聖女は赤ん坊の頬をなで、涙を流した。
「私の娘、アレクサンドラ……愛しているわ。どうか幸せになってね」
真っ暗な空気口をすべり降りながら、ジーンは振り返り、涙を流しながら微笑む聖女と聖職者たちを見えなくなるまで見つめ続けた。
直後、その狭い空間に反響して剣戟の音と断末魔の悲鳴が聞こえ始めた。
「あぁアリーちゃん! ごめんねぇ」
ここはJYTテレビの収録スタジオ。
「あ、下田さん!」
最近テレビに出るようになったおにぃは、タレント事務所と契約したのでマネージャーがつくようになった。
下田さんはそのおにぃのマネージャーで、テレビ局の玄関まで私を迎えに来てくれたのだ。
彼はおにぃの専属じゃなくて、他にも2人のタレントを抱えているので忙しそうだ。
「いえいえ、スマホ忘れるおにぃが悪いんです! 自分で取りに帰れって話しですよ!」
「ジーンさんはこの後、次の試合のポスター撮りがあって……その後ジムに行くって言ってたんで……」
だからって下田さんに、家までスマホを取りに行かせようとするなんて!
下田さんが忙しいのは分かってるだろうに――――テレビに出るようになって天狗になってんじゃない!?
「ほら、控室までおいでよ。アリーちゃんが直接渡してあげたら?」
そう言いながら、下田さんは入口の警備員さんに目配せしたので、私は遠慮なく入らせてもらう事にした。
わー、テレビ局の中に入れるなんて! 誰か有名人に会えないかな~~。SHINE MANの赤黒クンとか吉澤あきらクンとか……
きょろきょろしながら廊下を歩いていると、下田さんが急に真面目な声をかけてくる。
「アリーちゃん、やっぱりタレントのお仕事に興味ない?」
「あ~今はピアノに集中したいんで……」
「先月、ヤマキジュニアピアノコンクールで3位だったんだってね? おめでとう!」
「ありがとうございます」
初めての入賞に歓喜したけど~~冷静になれば私って、プロになれるほどじゃないんだよな~
音大に行くかも悩み中。
それに……
「私、これだし……」
私の左手の甲には、大きなアザがある。
手の甲いっぱいの大きさで、花のような、家紋のような真っ赤なアザが。
ものすごく目立つから、おにぃの指示で普段は手袋をしている。
「アザなんてコンシーラーで簡単に消せるよ? タトゥーだってみんな消してるんだから」
「はぁ……でも、おにぃが大反対で…」
「だよね~ジーンさん、アリーちゃんのこと大事にしてるからなぁ。アリーちゃん、可愛いし、スタイルもいいし絶対いけると思うんだけど……事務所の社長も何度かジーンさんに打診したんだけどなぁ~~」
「ははは」
あの超過保護マンに、私は苦笑いするしかない。
そうしてるうちにおにぃの控室に着いた。
「ジーンさん。下田です。入りますね」
ノックをした下田さんに続き、控室に入ると……
そこには女の人とキスをするおにぃの姿があった。
「おっ、おにぃ!」
「……あぁ、アリー」
のんびりしたおにぃの返事が返ってきた。
おにぃの肩に手をかけ、キスをしていた女が振り向く。
ほっそりとした長身にクールな美貌、高級ブランドの服をモデルのように着こなす完璧なプロポーション。
女優の氷室まさみだ!
「ふふっ。ジーンまたね」
ゆっくりと私を品定めするように見つめながら、余裕の微笑みですれ違う女優……香水まで何やら良い匂いすぎて腹が立つ!
「どっ! どーゆーこと!? なんで氷室まさみと…」
「さぁ……俺のファンなんだって」
おにぃこと、ジーン・桜田は、総合格闘技の選手で、HUZINのライトヘビー級王者だ。
190cmを越える長身、鍛え上げられた体躯、ブラウンヘアーに彫りの深い端正な顔立ち。
現在無敵の王者の上に整ったザ・ガイジンの容姿なのに、日本語しか喋れないというキャラが受けて、最近タレント化しているのだ。
「なっ、なんでキスなんてしてるのよっ!」
「むこうが勝手にしてきたんだ」
「おにぃは格闘家でしょ? シュッとよけるとか、サッと離れるとか!」
「それで彼女がコケでもしたら、ケガするだろ?」
このフェミニストめ!
優しく微笑むおにぃの唇には、赤い口紅がべったりついてる。
「痛い! やめろアリー! 痛い!」
私はポケットから取り出したハンカチで、思いっきり唇をこすって拭き取ってやった。
おにぃと下田さんは次の撮影所にはタクシーで移動するらしいが、その車に私も放り込まれる。
「え? 私、電車で帰れるよ?」
電車でここまで来たんだし。
「家まで送る。どうせ途中だ」
タクシーでは下田さんが助手席、おにぃと私が後部座席だったけど、おにぃは身体が大きいから時おり肩が当たったりする。
あぁ~~私は変態じゃなかろうか。
小さい頃は何も考えず、ただ大好きなお兄ちゃんだから抱き着いていた。なのに今は…肩がふれるだけでこんなに胸がドキドキするなんて。
兄妹なのに、血のつながった兄なのに!
これも全て、おにぃがカッコ良すぎるせい!
おにぃをぎっと睨むと、スマホチェックしていた、そのアンバーの瞳が私を捕える。
「なに?」
あああああ~~~そんな流し目で見ないでよおおお~~~
私を変態の沼に落とすつもりぃいい~~!
この好意はブラコンの域を越えている。
分かってる!
私が悶えていると、助手席から下田さんの声が聞こえた。
「ジーンさん。会長が地方興行をして欲しいって、また言ってましたよ?」
会長とは、おにぃが所属している大宝ジムの会長の事で、おにぃはずっと地方での興行を断り続け、日帰りできる関東でしか試合をしていない。
「無理だ」
「ファイトマネーもはずむって言ってましたよ?」
「アリーを一人にはできない」
「え? 私? 私もう18才だよ? 一人で留守番できるよ」
「だめだ」
そこで住んでいるマンションに着いたので、会話は終了。
「下田、ちょっと待っていてくれ」
そう言っておにぃは下田さんをタクシーに残し、部屋までついてきた。
そして全室一通り見て回る。いつものルーティンだ。
「じゃ、行ってくる。遅くなるから先に寝ておけ」
「分かった」
「ちゃんと布団かぶって寝ろよ」
「わーってる」
「鍵もしめろよ」
「はいはい」
本当におにぃは過保護だ。
地方興行を私のために断るなんて、とんだシスコンだ。
だけど、おにぃのシスコンは年の離れた妹を心配なだけ……
私のブラコンとは違う。
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