【完結】可愛そうなアリンコ聖女に可哀そうなキラキラ侯爵様が離縁したくないと泣きついてきたんだけど⁉ 【番外編あり】

水星 とも

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19 レオンハルト様が倒れた

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 プライベートスペースの南館のダイニングルームから、執務室のある北館へ向かう。

 その2棟をつなぐ渡り廊下を歩いていると、前を歩いていたベティの息を飲む音が聞こえた。

 そのまま目を庭園に向けると、遠くに見えたのは、男女二人のシルエット。
 一人はまたもやピンクのドレスのハービット男爵令嬢、そしてもう一人は旦那様、レオンハルト様。

 二人は激しいキスを交わしており、見ている方は正直、気持ち悪い。


 ベティが小さな声でささやく。
「奥様お部屋に戻りましょう」

 何故? 私がコソコソと去らなくてはならないの?
 執務室に来いと言ったのは、レオンハルト様なのに?

「そうね! 不愉快だわ! 理性のない生き物って本当に醜い!」

 私の大声は庭園中に響き、当該の二人の唇も離れた。


 ざまあみろ!




「待って!待って!アリーシア!」

 自室に戻る私をレオンハルト様が、追い駆けてくる。
 そしていきなり、私の手首を掴む。

「さわらないで!」

 思いっきりその手を振り払う私を見る、青白い顔色から表情が抜けおちる。

「ごめん。ごめん。愛さなくてもいい。でも嫌わないで!」

「貴方に私が嫌うほど、価値があるとお思いで?」

 まるで高位貴族の貴婦人のようなセリフ。
 こんな時に使うために勉強したのね、笑っちゃうわ。


「レオンハルト様。離縁して下さい」

 虚飾ばかりの高位貴族の世界には、もううんざり!
 周囲の期待に応えて頑張ろうと思ったけど、要であるレオンハルト様が裏切るのならばもうおしまい。

 日々の幸せを女神ソフィア様に感謝し、ありのままの自分を愛するアリーシア・ベルツに戻るのだ。


 レオンハルト様の無表情なその瞳に、暗い暗い影が落ちる。

「そうだ。私は本能を抑えられない醜い生き物なんだ」
 レオンハルト様は私の両肩を掴み、つぶやく。

「醜い……醜い……」
 強く、掴む。

「でもアリーシア、君と離縁なんてありえない! そんなことできない!」
 強く、強く、掴む。

「絶対に! 許さない!」
 強く……強く……

「痛っ……!離して!」

「許さない、許さない……!」


 そこに漂うのは、場違いな香り。
 ……これは私の大好きな、チキンソテーの??


 レオンハルト様の大きな身体が、崩れ落ちる。
 まるで大木が切り倒されたかのように、ゴオンと容赦ない転倒音が響き渡る。

「旦那様!」
 ベティの悲鳴も響き渡る。
 レオンハルト様の状態を見たベティが告げる。

「クルトを呼んできますから、アリーシア様は旦那様に触れないようにして下さい!」
 そう言って全速力で、南館に駆けていった。

「レオンハルト様に…私が触れない……ように??」

 横たわるレオンハルト様の顔色は、真っ白で……

 その両手の手のひらは赤く焼けただれ、倒れる際に私の肩に触れた左頬もピンク色に変色していた。



 その後クルトに先導され、護衛騎士たちによってレオンハルト様は、自室のベットに横たえられた。

 青白いを通り越した、真っ白な顔色。
 落ちくぼんだ目に、こけた頬。
 よく見ればレオンハルト様は、ずいぶんとやせ細っていた。

「栄養失調だそうです」
 家令のクルトが、医師の診断結果をレオンハルト様に伝える。
 そして肩に手を置き、語りかける。

「もう無理ですよ。これ以上隠し続けることは」

 ぱちりとレオンハルト様の目が開く。
 レッドパープル・アメジストの瞳が揺れる。

「でも、でも……アリーシアに嫌われたくない!」

 はあああっと、クルトが息を吐く。

「もう充分嫌われてますよ! 浮気ものの最低男としてね!」

「違う! 違うんだ! 私は君だけを……」

 クルトの後ろに立つ私を、すがるように見つめる。


「……とにかくぜんぶ説明して下さい!」
 目を細め、にらみつけながら言ってやる。

 うるうる、うるうる、アメジストが水没する。

 だが、許す訳がない!
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