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18 突然戻ってきた日常
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翌朝の朝食の時間に、ダイニングルームに行くとレオンハルト様がいた。
朝が苦手な彼と、この時間に会うのは初めての事だ。
「朝食をご一緒とは、お珍しいですね」
「うん……アリーシアが私と話したいって言ってるって聞いたから……」
ついつい素っ気ない物言いになってしまった私の言葉に、レオンハルト様が小さく答える。
朝日を浴びて、真っ白に輝くテーブルクロス越しに見るレオンハルト様の顔色は、白皙を通り越してやや青白く見える。
すると私たちが眩しいと感じていると思ったのか、メイドの一人がカーテンを引く。
明るさに慣れた目には、暗く感じるダイニングルームが静寂に包まれる。
レオンハルト様は無口な方で、ご一緒する機会のある昼食の時でも話すのは、いつも私。
その私をレオンハルト様が、ニコニコと見つめているというのが常だった。
だから私が口を開かなければ、実に静かな食事風景となる。
その静寂の中、もう一人のメイドが私の前に、黄金色のコンソメスープを置く。
あぁ嬉しい!
ビアンカの嫌がらせで、口に入らなくなった私の好物だ。
朝の目覚めに最適な塩分、毎朝頂いても飽きない素晴らしい味わいに、これの為に侯爵夫人になった思えば価値はあったか、なんて。
「美味しい?」
「……」
「だって、アリーシア微笑んでる」
そういうレオンハルト様の前には、いつものようにお茶しかない。
もう朝食は先に食べて、食後のお茶なのか。
「私はこれから朝食を頂くので、どうぞお構いなく。お話はその後いたしましょう」
せっかく早起きしたんだから、さっさと出仕するなり執務をすればいい。
「うん…」
レオンハルト様が白い指先が、ゆっくりとお茶の入ったカップのふちを滑る。
「うん」
その白い指がカップを持ち上げ一口飲んだあと、ため息を吐く。
「……この前、アトレアホテルの庭園にいた?」
私が躊躇したことを、ストレートにお聞きになるんですね。
幸せな偽りのおとぎ話の日々は、さっさと終わってもいいと……
「ええ」
「どうしてそこに」
「ハービット男爵令嬢から手紙を頂きましたの。貴方と愛し合ってる証拠を見せると。密会の場所を教えて下さったの」
「密会だなんて……! そんなのうそだ!」
「私がうそを言ってると? 愛し合うハービット男爵令嬢と旦那様の姿をしっかりこの目で見ましたけど?」
「違う! 違う! 誤解なんだ! 本当に愛してるのは君だけで……」
「クインシー伯爵令嬢、マルタ子爵令嬢」
ハービット男爵令嬢の手紙の中にあった浮気相手の令嬢の名を口にすると、びくりと大きくレオンハルト様の肩が揺れた。
あぁ可笑しい。
こんな浮気者の言い訳の常套句を、聞くことになるなんて!
「もういいですわ。初めからお飾りの妻だと言って下されば良かったのに。私きちんと良い仕事いたしましたわよ?」
そう、何の期待せず、何の夢も見ず、淡々とお飾りの妻の仕事を!
「違う! 違うんだ! 頼む! 話を聞いてくれないか?」
そこで、レオンハルト様は周りを見回しメイドたちの姿が入ったようだ。
「執務室で話を……あぁ君は朝食がまだだな。食べ終わったら執務室に来てくれないか。そこで話がしたい! 待ってる」
そう言って、ダイニングルームから足早に出ていった。
その姿を冷めた目で見送ったら、卵料理とサラダが目の前に置かれた。
置いたのは家令のクルトだ。
「あぁ貴方も無事だったのね」
「はい。ありがとうございます」
ベティと貴方の元気な姿が見れて、良かったわ。
「……どうか奥様。旦那様のお話を聞いて下さいまし」
深く頭を下げてくる。
メイドがその側からスコーンの皿を私の前に置き、その横にジャムのポットを置く。
「本日のジャムはイチジクです。料理長の自信作となります。是非奥様にご賞味頂きたいと申しておりました」
急に日常が、以前のように戻って戸惑う。
「……ビアンカは?」
「旦那様の指示で、使用人棟の自室に閉じ込めております」
暖かいスコーンにバターを塗る。
まずはいつものようにバターだけ、うん美味しい。
結局私はどうしたいんだろう。
レオンハルト様の浮気(複数?)が発覚した今
ののしる?
見なかったふり?
……やっぱり離縁?
次は自信作のイチジクジャムを、たっぷりのせて食べてみる。
「まぁ! 本当においしい!」
「奥様にお褒め頂いて、料理長も喜びます」
いつの間にか私の専属侍女のベティが、側に控えていた。
その後もゆっくりと2杯もお茶を楽しんで考えたが、私なりの今回の浮気への落としどころをまだ見つけられない。
こんなに簡単に離縁してもいいのか……
「でもこういうのって時間をかけても、事実は変わらないものね」
どんな理由があれ、レオンハルト様が浮気をした事実は変わらないのだ。
とりあえず話を聞こうと覚悟を決めて、ベティと共にレオンハルト様の執務室に向かった。
朝が苦手な彼と、この時間に会うのは初めての事だ。
「朝食をご一緒とは、お珍しいですね」
「うん……アリーシアが私と話したいって言ってるって聞いたから……」
ついつい素っ気ない物言いになってしまった私の言葉に、レオンハルト様が小さく答える。
朝日を浴びて、真っ白に輝くテーブルクロス越しに見るレオンハルト様の顔色は、白皙を通り越してやや青白く見える。
すると私たちが眩しいと感じていると思ったのか、メイドの一人がカーテンを引く。
明るさに慣れた目には、暗く感じるダイニングルームが静寂に包まれる。
レオンハルト様は無口な方で、ご一緒する機会のある昼食の時でも話すのは、いつも私。
その私をレオンハルト様が、ニコニコと見つめているというのが常だった。
だから私が口を開かなければ、実に静かな食事風景となる。
その静寂の中、もう一人のメイドが私の前に、黄金色のコンソメスープを置く。
あぁ嬉しい!
ビアンカの嫌がらせで、口に入らなくなった私の好物だ。
朝の目覚めに最適な塩分、毎朝頂いても飽きない素晴らしい味わいに、これの為に侯爵夫人になった思えば価値はあったか、なんて。
「美味しい?」
「……」
「だって、アリーシア微笑んでる」
そういうレオンハルト様の前には、いつものようにお茶しかない。
もう朝食は先に食べて、食後のお茶なのか。
「私はこれから朝食を頂くので、どうぞお構いなく。お話はその後いたしましょう」
せっかく早起きしたんだから、さっさと出仕するなり執務をすればいい。
「うん…」
レオンハルト様が白い指先が、ゆっくりとお茶の入ったカップのふちを滑る。
「うん」
その白い指がカップを持ち上げ一口飲んだあと、ため息を吐く。
「……この前、アトレアホテルの庭園にいた?」
私が躊躇したことを、ストレートにお聞きになるんですね。
幸せな偽りのおとぎ話の日々は、さっさと終わってもいいと……
「ええ」
「どうしてそこに」
「ハービット男爵令嬢から手紙を頂きましたの。貴方と愛し合ってる証拠を見せると。密会の場所を教えて下さったの」
「密会だなんて……! そんなのうそだ!」
「私がうそを言ってると? 愛し合うハービット男爵令嬢と旦那様の姿をしっかりこの目で見ましたけど?」
「違う! 違う! 誤解なんだ! 本当に愛してるのは君だけで……」
「クインシー伯爵令嬢、マルタ子爵令嬢」
ハービット男爵令嬢の手紙の中にあった浮気相手の令嬢の名を口にすると、びくりと大きくレオンハルト様の肩が揺れた。
あぁ可笑しい。
こんな浮気者の言い訳の常套句を、聞くことになるなんて!
「もういいですわ。初めからお飾りの妻だと言って下されば良かったのに。私きちんと良い仕事いたしましたわよ?」
そう、何の期待せず、何の夢も見ず、淡々とお飾りの妻の仕事を!
「違う! 違うんだ! 頼む! 話を聞いてくれないか?」
そこで、レオンハルト様は周りを見回しメイドたちの姿が入ったようだ。
「執務室で話を……あぁ君は朝食がまだだな。食べ終わったら執務室に来てくれないか。そこで話がしたい! 待ってる」
そう言って、ダイニングルームから足早に出ていった。
その姿を冷めた目で見送ったら、卵料理とサラダが目の前に置かれた。
置いたのは家令のクルトだ。
「あぁ貴方も無事だったのね」
「はい。ありがとうございます」
ベティと貴方の元気な姿が見れて、良かったわ。
「……どうか奥様。旦那様のお話を聞いて下さいまし」
深く頭を下げてくる。
メイドがその側からスコーンの皿を私の前に置き、その横にジャムのポットを置く。
「本日のジャムはイチジクです。料理長の自信作となります。是非奥様にご賞味頂きたいと申しておりました」
急に日常が、以前のように戻って戸惑う。
「……ビアンカは?」
「旦那様の指示で、使用人棟の自室に閉じ込めております」
暖かいスコーンにバターを塗る。
まずはいつものようにバターだけ、うん美味しい。
結局私はどうしたいんだろう。
レオンハルト様の浮気(複数?)が発覚した今
ののしる?
見なかったふり?
……やっぱり離縁?
次は自信作のイチジクジャムを、たっぷりのせて食べてみる。
「まぁ! 本当においしい!」
「奥様にお褒め頂いて、料理長も喜びます」
いつの間にか私の専属侍女のベティが、側に控えていた。
その後もゆっくりと2杯もお茶を楽しんで考えたが、私なりの今回の浮気への落としどころをまだ見つけられない。
こんなに簡単に離縁してもいいのか……
「でもこういうのって時間をかけても、事実は変わらないものね」
どんな理由があれ、レオンハルト様が浮気をした事実は変わらないのだ。
とりあえず話を聞こうと覚悟を決めて、ベティと共にレオンハルト様の執務室に向かった。
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