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23 私は何に恋をしていたんだろう 【SIDEアレクサンドラ王女】
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ここはリヒター侯爵邸、南館の最上階の1室。
公爵夫人にだけ許される、贅を尽くした部屋。
王女であるわたくしの私室と勝るとも劣らない、素晴らしい調度品に囲まれた部屋だ。
つい先日、この部屋を我が物顔で占領していた女を追い出し、わたくしがこの邸を訪れた際の私室とした。
これはあの人気画家フレオの風景画、あのソファーは王室御用達家具店のオーダーものね。
シャンデリアはバルカラの新作もの、このシルクの絨毯…こんな複雑で繊細な模様なんて見たこともないわ!
「レオン様は物の価値分からない、あんな田舎娘のために、この部屋を用意したの? 」
ありえない! ありえない! このわたくしにこそ相応しい部屋よ!
わたくしの方がずっと美しいし、地位もあるし、付き合いだって長いんだから!
物心ついた頃にはすでに、王宮にレオン様はいらして、小さな頃はわたくしとよく遊んで下さった。
畏怖を覚えるほどの、美貌。
伝説の魔族と獣人のハーフにして、長い時を生きる不老の存在であり、膨大な魔力を持つ、侯爵家当主。
その彼の正体は、王族だけに代々語り継がれ、その秘密を守り、懇意にしてきた。
「そう、王族だけの特別な秘密」
そして、レオン様は魔族の頂点である、バンパイア族の血が濃いお方。
だから定期的に女を誘惑し、食事をしなくてはいけない。
「…いいの。わたくしは、受け入れているわ!」
所詮あの女たちはレオン様にとって食事。
牛や豚と同じ存在なんだから気にしてないわ。
好きでされてる事じゃない、必要だから仕方なくされていること。
わたくしは、この国の王女よ。
広い心で、許します。
「それなのにあの田舎娘、うろたえちゃって……ふふふっ、ほんと可笑しい!」
レオン様の全てを受け入れられないなんて、あんな狭量な聖女くずれなんて、あの方にはふさわしくないわ!
「しかも、その秘密をレオン様から教えられていないなんて! 妻なんて言っても所詮その程度の存在なのね。ふふふ」
さすが侯爵家、良い茶葉を使っているわ。
その香りを楽しみながら、ゆっくりとカップに口をつけようとしたその時
ドドーン!
青空に突然、爆発音が響きわたった。
「え? なに?」
お茶がソーサーに零れ落ちる。
振動音のあと、しばらくして羽音がしたかと思ったら、バルコニーにレオン様が立っていた。
「レオン様?」
いつの間にベランダに?
駆け寄ろうとして躊躇する……何かいつもと違うような?
「なぜお前がアリーシアの部屋にいる? ……お前が私の番に危害を加えたのか?」
青空にうかぶ陽光を受けて明るく輝く室内に反して、長身のレオン様がまとうのは黒い、黒い、影……
いつもは心地よく響く美声も、ただただ暗く重い。
「わ、わたくしじゃ……」
視線が階下に向けられる。
「あぁ、ビアンカか。万死に値するな」
ガッガッ!
荒っぽい靴音を鳴らし、大股でレオン様が私に近づいてくる。
と同時に、わたくしの身体は宙に浮き、壁に打ちつけられる。
「きゃ!」
壁に吸い付いたように固定され、身動きが取れない。
足が地面に着かない。
「な、なに?」
これが魔力? こんな力って……!
「お前は本当に、私の番に危害を加えていないか?」
「は……はい」
瞳孔が黄金に輝く、真っ赤な瞳。
優美なアメジストの瞳は、どこにいったの?
これはレオン様なの? レオン様の皮をかぶった悪魔じゃ……!
「……嘘は大嫌いだ! 死にたいか?」
「い……いや」
ぶるぶると身体が震える。
麗しいレオン様の美貌が、いびつに歪む。
目は異様に吊り上がり、真っ白な真珠のような歯には尖りはじめた犬歯。
歯をむき出し笑う姿は、正に肉食獣のそれ。
「獣人の私がその血肉食ってやろうか」
顎をきつく掴まれ、吐息がかかるほどの距離まで、その顔が近づく。
「それとも、吸血鬼の私が全ての血を吸いとってやろうか」
次に首を掴まれ、目の前に尖った犬歯が牙をむく。
「どちらで殺されたい?」
「いやいや…ごめんなさい…ごめんなさぁぃ…」
嗚咽がもれ、子供のように泣き出してしまう。
すると、魔力が緩み、私の身体は地面に崩れ落ちた。
絹の絨毯の上に這いつくばる私を、見下ろすレオン様の表情は、逆行で見えない。
なのに瞳だけは、らんらんと赤く光っている。
「死にたくないなら、大人しくフリージアに輿入れしろ。二度とこの国に、アリーシアの前に姿を現すな!」
嗚咽で声が出ないから、首を何度も必死に縦に振る。
「分かったらさっさと王宮に戻って荷物をまとめろ。目障りだ! 明日、フリージアの使節団と一緒にこの国から出ていけ!」
私は何の夢を見ていたんだろう。
こんな怪物に、焦がれていたなんて!
私は次の日すぐに、フリージアに逃げた。
公爵夫人にだけ許される、贅を尽くした部屋。
王女であるわたくしの私室と勝るとも劣らない、素晴らしい調度品に囲まれた部屋だ。
つい先日、この部屋を我が物顔で占領していた女を追い出し、わたくしがこの邸を訪れた際の私室とした。
これはあの人気画家フレオの風景画、あのソファーは王室御用達家具店のオーダーものね。
シャンデリアはバルカラの新作もの、このシルクの絨毯…こんな複雑で繊細な模様なんて見たこともないわ!
「レオン様は物の価値分からない、あんな田舎娘のために、この部屋を用意したの? 」
ありえない! ありえない! このわたくしにこそ相応しい部屋よ!
わたくしの方がずっと美しいし、地位もあるし、付き合いだって長いんだから!
物心ついた頃にはすでに、王宮にレオン様はいらして、小さな頃はわたくしとよく遊んで下さった。
畏怖を覚えるほどの、美貌。
伝説の魔族と獣人のハーフにして、長い時を生きる不老の存在であり、膨大な魔力を持つ、侯爵家当主。
その彼の正体は、王族だけに代々語り継がれ、その秘密を守り、懇意にしてきた。
「そう、王族だけの特別な秘密」
そして、レオン様は魔族の頂点である、バンパイア族の血が濃いお方。
だから定期的に女を誘惑し、食事をしなくてはいけない。
「…いいの。わたくしは、受け入れているわ!」
所詮あの女たちはレオン様にとって食事。
牛や豚と同じ存在なんだから気にしてないわ。
好きでされてる事じゃない、必要だから仕方なくされていること。
わたくしは、この国の王女よ。
広い心で、許します。
「それなのにあの田舎娘、うろたえちゃって……ふふふっ、ほんと可笑しい!」
レオン様の全てを受け入れられないなんて、あんな狭量な聖女くずれなんて、あの方にはふさわしくないわ!
「しかも、その秘密をレオン様から教えられていないなんて! 妻なんて言っても所詮その程度の存在なのね。ふふふ」
さすが侯爵家、良い茶葉を使っているわ。
その香りを楽しみながら、ゆっくりとカップに口をつけようとしたその時
ドドーン!
青空に突然、爆発音が響きわたった。
「え? なに?」
お茶がソーサーに零れ落ちる。
振動音のあと、しばらくして羽音がしたかと思ったら、バルコニーにレオン様が立っていた。
「レオン様?」
いつの間にベランダに?
駆け寄ろうとして躊躇する……何かいつもと違うような?
「なぜお前がアリーシアの部屋にいる? ……お前が私の番に危害を加えたのか?」
青空にうかぶ陽光を受けて明るく輝く室内に反して、長身のレオン様がまとうのは黒い、黒い、影……
いつもは心地よく響く美声も、ただただ暗く重い。
「わ、わたくしじゃ……」
視線が階下に向けられる。
「あぁ、ビアンカか。万死に値するな」
ガッガッ!
荒っぽい靴音を鳴らし、大股でレオン様が私に近づいてくる。
と同時に、わたくしの身体は宙に浮き、壁に打ちつけられる。
「きゃ!」
壁に吸い付いたように固定され、身動きが取れない。
足が地面に着かない。
「な、なに?」
これが魔力? こんな力って……!
「お前は本当に、私の番に危害を加えていないか?」
「は……はい」
瞳孔が黄金に輝く、真っ赤な瞳。
優美なアメジストの瞳は、どこにいったの?
これはレオン様なの? レオン様の皮をかぶった悪魔じゃ……!
「……嘘は大嫌いだ! 死にたいか?」
「い……いや」
ぶるぶると身体が震える。
麗しいレオン様の美貌が、いびつに歪む。
目は異様に吊り上がり、真っ白な真珠のような歯には尖りはじめた犬歯。
歯をむき出し笑う姿は、正に肉食獣のそれ。
「獣人の私がその血肉食ってやろうか」
顎をきつく掴まれ、吐息がかかるほどの距離まで、その顔が近づく。
「それとも、吸血鬼の私が全ての血を吸いとってやろうか」
次に首を掴まれ、目の前に尖った犬歯が牙をむく。
「どちらで殺されたい?」
「いやいや…ごめんなさい…ごめんなさぁぃ…」
嗚咽がもれ、子供のように泣き出してしまう。
すると、魔力が緩み、私の身体は地面に崩れ落ちた。
絹の絨毯の上に這いつくばる私を、見下ろすレオン様の表情は、逆行で見えない。
なのに瞳だけは、らんらんと赤く光っている。
「死にたくないなら、大人しくフリージアに輿入れしろ。二度とこの国に、アリーシアの前に姿を現すな!」
嗚咽で声が出ないから、首を何度も必死に縦に振る。
「分かったらさっさと王宮に戻って荷物をまとめろ。目障りだ! 明日、フリージアの使節団と一緒にこの国から出ていけ!」
私は何の夢を見ていたんだろう。
こんな怪物に、焦がれていたなんて!
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