氷の公爵令嬢と炎の皇子

夜桜

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侯爵の男

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 ヴェルダンディちゃんに案内され、わたくしはお風呂に入った。

 東の部屋には予想以上に広い浴場があった。中は神殿のような造り。ライガーの口からお湯が出ている。最新のジェットバス付き。


「なにこれ、広……」


 広い空間だけではない。外の風景も凄かった。窓辺には星空が広がっていた。……こんなに夜空が近いとか、あんな高い壁があるのにこんな風に見えるという事は……これは魔法が使われているのかも。


「わぁ、これは素晴らしい」


 あまりの美しさに感嘆かんたんする。こんな場所があるのなら、ちょっと悪くないかなって思った。

 足から入って、ゆっくりと肩まで浸かる。今までの疲れが吹き飛ぶようだった。なんとまあ癒される……。


 ◆


 入浴を終え、居間に戻ればジークムントとヴェルダンディちゃんが何か話し合っていた。

「――ジークムントさん、この城塞スクルドは三日後に」
「分かっております。これは全て、あの方の計画でしょう。……おや、ソフィ様」


 二人ともこちらを見つめ、少しぎこちなかった。今の会話、ちょっと気になる。


「ヴェルダンディちゃんはこの城塞の設計者よね」
「そうです」
「それは理解できたけど、ジークムントはどうして執事として招待されたの? 心当たりは?」


 わたくしが聞くと彼は思い当たる節があるのか、神妙な面持ちだった。


「……分かりますよ。きっと、どうしても私に担当して欲しかったのだと思います」
「だから、どうして」
「見極める為に、でしょうか」
「分からないわね。何を見極めるって言うの」
「ソフィ様でしょう。貴女が中心となっているので、きっとこのお屋敷だってソフィ様の為に作られたんでしょう。必ず意図はあるかと」

 わたくしの為に。
 そういえば、さっきヴェルダンディちゃんが茶化してきたように、愛とか何とか。……そんな、まさか。


 となると、ジークムントもヴェルダンディちゃんも単に選ばれただけでなく、何か共通点とかあるのかも。

 聞きたいのだけど、今日はもう眠い。
 やっと一日目が終わる。


「……寝るわ」
「分かりました。では、就寝になられるのでしたら、この居間にあるベッドをお使い下さい。私とヴェルダンディは床で寝ます」

 なんてジークムントは提案した。

「うーん、ヴェルダンディちゃんは一緒に寝るとして、ジークムントはせめてソファを使いなさいな。ほら、そこにあるでしょ」

「なるほど、その手がありましたか」


 素で気づかなかったのか、手を叩き感心していた。わざわざ冷たい床で寝る必要はないでしょう。

「じゃあ、ヴェルダンディちゃん」
「はい、お風呂へ行って来ます」



 交代でお風呂を済ませ、ようやく就寝。
 消灯も済ませ、ヴェルダンディちゃんをわたくしのベッドに、ジークムントはソファを使って貰った。それにしても……ヴェルダンディちゃん、小さくて可愛い。お人形さんみたいだった。



「ヴェルダンディちゃん、どうして設計なんてしたの」
「父が設計士だったんです」
「へえ、凄い」
「でも……父はある貴族に騙されて、自ら命を絶ちました。その貴族の名は『アイザック』という侯爵の男です」


 ウルズ帝国のお屋敷もお父さんやその代々が設計していたとか。それからヴェルダンディちゃんは父の遺志を継ぎ、設計士として頑張っていたようだ。

 その腕前が広まると仮面の人物にスカウトされ、今回に至ったみたい。それでこんな城塞を……。


 ……ガタッ!


 突然、物音がした。


「え、なに……?」
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