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第25話 猛毒の愛
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お屋敷の中にある礼拝堂。美しい七色のステンドグラスを眺め、待っていると……辛そうな表情をされたカエルム様が戻って来た。
「ウィンクルム母様は?」
「心身ともに疲弊しているだけで、無事です。幸い、ケガはありませんでしたが……許せません」
静かに闘志を燃やされながら、わたしの隣に座った。
「これからどうしましょう」
「……なんだか嫌な予感がするのです。こう言っては何ですが……スピラ様は一度、聖地へ戻られた方が……」
きっと、先程の母様を鑑みて、そう心配してくれているのね。でも、わたしは首を横に振る。
「カエルム様と離れ離れになるだなんて、耐えられない。わたしには、貴方が必要なんです」
本心を伝えると、カエルム様は「申し訳ない」と謝って下さり、手を優しく握ってくれた。
「二人でユーデクス様を助けましょう。これでも、わたしは聖女ですから……きっとお力になれると思うんです」
「そうでした、スピラ様は、大変素晴らしい敬虔な祈りを持つ。ですから、聖女の力は最近どんどん強くなり、その魔力さえも増大していますね」
その通り、わたしは聖地で住むようになってから、驚くほど聖なる力に目覚めていた。あのアルゼンタム教会のオムニブス枢機卿が聖地でも構わないから、神に祈りなさいって仰ったので、わたしはその教えに従っていた。
結果、最近では回復魔法であるヒール以外も使えるようになっていた。例えば、呪いや毒などを解除できる『ベネディクタ』。使用者の魔力を回復させる魔聖石生成の『シュタイン』。数多くの力が使えるようになっていた。
「ええ、何か些細な事でも仰ってください。わたしが全力でお支えしますから」
「そう言って戴けて大変嬉しいです。ありがとう、スピラ様。……とにかく今日は休みましょう。明日、ペルソナ家へ参り、兄上を取り戻すんです」
今日はもう時間も遅かった。
オーリム家で一晩を過ごす事になったのだけど――そういえば、お義父さん……エキャルラット辺境伯のお姿がなかった。ウィンクルム母様だけ置いて、何処へ行かれてしまったのだろう。
◇
――次の日――
身支度を済ませ、カエルム様と共に屋敷を出た。
「では、さっそく参りましょう。スピラ様、よろしいですね」
「はい。心の準備は出来ています」
歩き出し、ペルソナ家を目指す。此処からはそこそこ距離があって、ポルフィルン城の裏側にそのお屋敷はあるようだった。
――歩き続けて、やっとペルソナ家の前に到着する。お屋敷はかなり広くて、オーリム家に引けを取らない規模だった。
「凄い……植物がこんなにいっぱい」
「ええ、僕は一度だけ訪れた事があるんですが、ペルソナ家ラクリマ帝領伯は植物学者でもあるのです。故に、この屋敷であらゆる植物を育てられているらしく、中には毒を持ったものもいるそうです。気を付けて」
ど、毒……。
それを聞いて、ちょっと不安になる。
それから、カエルム様は門番に話を付けたようで、中へ入れた。警備も厳重なのね……。
長い庭を歩いて、ようやくお屋敷の前。そこには執事がいて、扉を開けてくれた。中へ通されて歩いて行くと――
「ようこそ、カエルム様。首を長くしてお待ちしておりましたわ。……あら、初めましての方もおりますし、改めて自己紹介を……わたくしはラクリマ帝領伯こと『ウィリデ』でございます」
肩やお腹を大胆に露出した派手なドレスに身を包む、綺麗な緑髪をした女の子がいた。……あの子がラクリマ帝領伯!?
そのルビーのように赤い瞳は、間違いなくカエルム様を映し出していた。
「ウィリデ様、我が兄上・ユーデクスを返して戴きたい。一方的な婚約も無効、破棄させてもらいます」
そう彼女を睨むようにカエルム様は、珍しく怒っていた。けれど、意外な返答が返ってきた。
「ええ、構いませんわ。あのようなゴミクズはお返しします」
護衛が現れて、ボロボロのユーデクス様を投げられた。ドシャッっとカエルム様の前に転がって来る。……そんな、酷すぎる。これはあまりに……惨い。
顔は酷く腫れ、出血もされていた。危険な状態だった。……直ぐに治さなきゃ。
わたしは駆け寄って、ヒールを施した。治癒の力が彼の腫れや裂傷を癒し、回復させていく。
「……くっ、ウィリデ様……! 兄上をこのように傷つけて、僕が許すとお思いか。申し訳ありませんが、インペリアルガーディアンとして、貴方を逮捕させて戴きます」
「フフ、そう怒るところも素敵ね。でもね、最初から狙いは貴方なのよ。わたくしはね、カエルムを誰よりも愛しているの。無能のユーデクスではなく、有能な貴方の事しか考えられない……そう、この身を捧ぐなら、貴方のような世界一の男がいい。だからね、わたくしと婚約を結びなさい」
「僕には既に永遠を誓った女性がいます。なので、お断りします」
そうカエルム様が強く言い返すと、ウィリデは小悪魔のようにくすくすと笑い――静かに歩み寄って来た。そして、わたしの前に立った。
「不思議ね、こんな薄汚れた雑巾のような金髪の、田舎臭い女の何処がいいのかしら。……でもいいわ、わたくしのモノにならないというのなら……」
パチンと指を鳴らすウィリデ。すると、玄関の隅の方から植物がニョロニョロと生えて来て、わたし達に狙いを定めた。
「……ウソ、植物が動いて……」
「ええ、そうよ。この子達は、わたくしが育て上げた改良植物。あぁ……そうそう、触れない方がいいですわよ。なんせ『猛毒』を持っていますからね」
……逃げなきゃ。あの子は危険すぎる。このままでは、みんな助からない。殺されてしまうかも。
「カエルム様、わたしがユーデクス様を運びますから!」
「分かりました。スピラ様も兄上も僕がお守りいたします」
魔力で黄金の剣を生成され、構えられるカエルム様。金色の粒子が周囲に飛び散り、幻想を織りなしていた。
「フフ、フフフ……。素晴らしい宝剣ですね、カエルム。けれど、貴方は絶対にわたくしの玩具になるのですよ。その理由は直ぐに分かります」
緑色の植物が襲い掛かってくる。
大丈夫、カエルム様ならきっと……。
「ウィンクルム母様は?」
「心身ともに疲弊しているだけで、無事です。幸い、ケガはありませんでしたが……許せません」
静かに闘志を燃やされながら、わたしの隣に座った。
「これからどうしましょう」
「……なんだか嫌な予感がするのです。こう言っては何ですが……スピラ様は一度、聖地へ戻られた方が……」
きっと、先程の母様を鑑みて、そう心配してくれているのね。でも、わたしは首を横に振る。
「カエルム様と離れ離れになるだなんて、耐えられない。わたしには、貴方が必要なんです」
本心を伝えると、カエルム様は「申し訳ない」と謝って下さり、手を優しく握ってくれた。
「二人でユーデクス様を助けましょう。これでも、わたしは聖女ですから……きっとお力になれると思うんです」
「そうでした、スピラ様は、大変素晴らしい敬虔な祈りを持つ。ですから、聖女の力は最近どんどん強くなり、その魔力さえも増大していますね」
その通り、わたしは聖地で住むようになってから、驚くほど聖なる力に目覚めていた。あのアルゼンタム教会のオムニブス枢機卿が聖地でも構わないから、神に祈りなさいって仰ったので、わたしはその教えに従っていた。
結果、最近では回復魔法であるヒール以外も使えるようになっていた。例えば、呪いや毒などを解除できる『ベネディクタ』。使用者の魔力を回復させる魔聖石生成の『シュタイン』。数多くの力が使えるようになっていた。
「ええ、何か些細な事でも仰ってください。わたしが全力でお支えしますから」
「そう言って戴けて大変嬉しいです。ありがとう、スピラ様。……とにかく今日は休みましょう。明日、ペルソナ家へ参り、兄上を取り戻すんです」
今日はもう時間も遅かった。
オーリム家で一晩を過ごす事になったのだけど――そういえば、お義父さん……エキャルラット辺境伯のお姿がなかった。ウィンクルム母様だけ置いて、何処へ行かれてしまったのだろう。
◇
――次の日――
身支度を済ませ、カエルム様と共に屋敷を出た。
「では、さっそく参りましょう。スピラ様、よろしいですね」
「はい。心の準備は出来ています」
歩き出し、ペルソナ家を目指す。此処からはそこそこ距離があって、ポルフィルン城の裏側にそのお屋敷はあるようだった。
――歩き続けて、やっとペルソナ家の前に到着する。お屋敷はかなり広くて、オーリム家に引けを取らない規模だった。
「凄い……植物がこんなにいっぱい」
「ええ、僕は一度だけ訪れた事があるんですが、ペルソナ家ラクリマ帝領伯は植物学者でもあるのです。故に、この屋敷であらゆる植物を育てられているらしく、中には毒を持ったものもいるそうです。気を付けて」
ど、毒……。
それを聞いて、ちょっと不安になる。
それから、カエルム様は門番に話を付けたようで、中へ入れた。警備も厳重なのね……。
長い庭を歩いて、ようやくお屋敷の前。そこには執事がいて、扉を開けてくれた。中へ通されて歩いて行くと――
「ようこそ、カエルム様。首を長くしてお待ちしておりましたわ。……あら、初めましての方もおりますし、改めて自己紹介を……わたくしはラクリマ帝領伯こと『ウィリデ』でございます」
肩やお腹を大胆に露出した派手なドレスに身を包む、綺麗な緑髪をした女の子がいた。……あの子がラクリマ帝領伯!?
そのルビーのように赤い瞳は、間違いなくカエルム様を映し出していた。
「ウィリデ様、我が兄上・ユーデクスを返して戴きたい。一方的な婚約も無効、破棄させてもらいます」
そう彼女を睨むようにカエルム様は、珍しく怒っていた。けれど、意外な返答が返ってきた。
「ええ、構いませんわ。あのようなゴミクズはお返しします」
護衛が現れて、ボロボロのユーデクス様を投げられた。ドシャッっとカエルム様の前に転がって来る。……そんな、酷すぎる。これはあまりに……惨い。
顔は酷く腫れ、出血もされていた。危険な状態だった。……直ぐに治さなきゃ。
わたしは駆け寄って、ヒールを施した。治癒の力が彼の腫れや裂傷を癒し、回復させていく。
「……くっ、ウィリデ様……! 兄上をこのように傷つけて、僕が許すとお思いか。申し訳ありませんが、インペリアルガーディアンとして、貴方を逮捕させて戴きます」
「フフ、そう怒るところも素敵ね。でもね、最初から狙いは貴方なのよ。わたくしはね、カエルムを誰よりも愛しているの。無能のユーデクスではなく、有能な貴方の事しか考えられない……そう、この身を捧ぐなら、貴方のような世界一の男がいい。だからね、わたくしと婚約を結びなさい」
「僕には既に永遠を誓った女性がいます。なので、お断りします」
そうカエルム様が強く言い返すと、ウィリデは小悪魔のようにくすくすと笑い――静かに歩み寄って来た。そして、わたしの前に立った。
「不思議ね、こんな薄汚れた雑巾のような金髪の、田舎臭い女の何処がいいのかしら。……でもいいわ、わたくしのモノにならないというのなら……」
パチンと指を鳴らすウィリデ。すると、玄関の隅の方から植物がニョロニョロと生えて来て、わたし達に狙いを定めた。
「……ウソ、植物が動いて……」
「ええ、そうよ。この子達は、わたくしが育て上げた改良植物。あぁ……そうそう、触れない方がいいですわよ。なんせ『猛毒』を持っていますからね」
……逃げなきゃ。あの子は危険すぎる。このままでは、みんな助からない。殺されてしまうかも。
「カエルム様、わたしがユーデクス様を運びますから!」
「分かりました。スピラ様も兄上も僕がお守りいたします」
魔力で黄金の剣を生成され、構えられるカエルム様。金色の粒子が周囲に飛び散り、幻想を織りなしていた。
「フフ、フフフ……。素晴らしい宝剣ですね、カエルム。けれど、貴方は絶対にわたくしの玩具になるのですよ。その理由は直ぐに分かります」
緑色の植物が襲い掛かってくる。
大丈夫、カエルム様ならきっと……。
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