公爵令嬢の白銀の指輪

夜桜

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指輪の力

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 白銀の指輪を受け取り、左手の人差し指にめた。念じれば効力を発揮すると教えてもらった。これで、わたしはもう無敵にも近い。

 お城を後にして、さっそく騎士団へ向かった。

 早くしないとヘイズが自由になってしまう。保釈される前に止めなければ。


 キリエ城から騎士団はそれほど遠くはない。
 徒歩で到着して、わたしは門番の騎士に話しかけた。


「そこの貴方」
「はい、ご用件はなんでしょうか」
「騎士団長に会いたいの。大至急でお願い」

「騎士団長ですか……分かりました。少々お待ち下さい」


 しばらく待つと門番が帰ってきた。
 それから中へ案内してくれて、すんなり会うことができた。

 通路を歩いて会議室らしき場所へ通されると、そこには赤髪の男性が立っていた。


「やはり、公爵令嬢のエリザ様でしたか」
「わたしを知っていたのですね」
「毒殺未遂事件がありましたからね。やはり、伯爵の件ですか?」
「そうです。彼は多額のお金を払って保釈されるそうですね」

「その通り、明日には自由になります。ですが、誤解なきよう言っておきますが、完全な自由ではないですよ。監視の騎士が二名つきますし、逃亡の恐れなどあれば問答無用で処刑されますからね」

 なるほど。とはいえ、自由には変わりない。犯罪者を伸ばしになんてさせない。


「ヘイズに会わせてください」
「面会を希望ですか。……ですが、彼は何も喋らないと思いますが」
「大丈夫です。ヘイズは全てを打ち明けてくれるでしょう。悪事の全てをね」
「あの御方が簡単に口を割るとは考えにくいですね」

「それは会えば分かることです。騎士団長、貴方にも同行していただきたい」
「しかし……。いえ、分かりました。公爵令嬢エリザ様がそこまでおっしゃるのなら、ヘイズに会ってみましょう」


 ようやく折れてくれた騎士団長。
 そういえば、まだ名前も聞いていないけど先を急ぎたい。


 * * *


 留置所へ向かうと、かなり隅の方にヘイズの姿があった。

「…………」

 こちらを凝視する男。
 まさか、ここにわたしが来るとは思わなかったみたいね。

「久しぶりね、ヘイズ」
「な、なにをしに来た……エリザ」

「なにって事件の解決をしに来たの。全て話してもらうから」
「話す? お前に話すことなんて何もないよ。それに、明日には保釈だ。殺人の罪としては異例のね」

 ニヤリと笑うヘイズだけれど、わたしは“白銀の指輪”にそっと触れ、冷静に言葉を返した。

「ヘイズ、貴方には話してもらうと言った」
「……だから、俺もうなにも話さな――」

 その時、指輪が微かに煌めき、ヘイズの様子が変わった。

「包み隠さず真実を明かしなさい」
「…………俺がやった。これまでの五件の事件……全て俺が毒を盛った」

 あれだけ口の堅かったヘイズが素直に薄情する。
 まるで罪の告白――懺悔をするみたいに、ヘイズはありのままを話し始めた。それを騎士団長は驚きながらも聞き入っていた。

 そして、こうつぶやいた。


「……保釈は取り消しだ」


 これが指輪の力なのね。
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