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第8話 毒殺事件① Side:アレク
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◆Side:アレク
俺は、イリスに全て話す前に今までのことを改めて伝えることにした。
あれは半年前だ。
「助けてくれ……アレク。貴公の薬なら我が妻を治せるはずだ。妻から知識を与えられ、全てを学んだはず……」
レオンハルト伯はベッドで眠る妻・エレイナ様の手を握り、祈るように言った。
俺は確かに、医療や薬学を学ぶうえでエレイナ様のもとで沢山のことを教えてもらい、ついに医者となった。
しかし、エレイナ様の症状は明らかに進行してしまっていた。
もう……手遅れ。
この猛毒は、初動の対応がカギを握る。時間との勝負なのだ。ここまで毒が回ってしまうと、もう取り返しがつかない。
「申し訳ございません、レオンハルト伯……」
「な、なにを申す! アレク! 諦めるというのか!? 見捨てるというのか!?」
「……そうではありません。もう無理なんです」
「そ……そんな。そんなはずはない! エレイナはまだ息が――」
必死に訴えかけてくるレオンハルト伯だが、言葉を詰まらせた。
エレイナ様が意識を取り戻し、探るようにこちらに視線を合わせたんだ。
「エレイナ様……!」
「アレク……。私の毒はもう治せない。そうでしょう」
「……はい、残念ながら」
「お菓子に……毒が入っていたようなの」
「いったい誰が」
「分からない。……分からないけど、もういいわ……」
諦めたかのようにエレイナ様は瞼を閉じ、呼吸を浅くしていた。いけない、体力がもう持たない。
「エレイナ! 無理をするな」
「あなた……アレクは最高の医者よ。どうか……お願いね。あと娘たちも」
「な、なにを言うんだ、エレイナ! 死ぬな……!」
「愛しているわ……」
直後、エレイナ様は静かに息を引き取った。
俺はどうすることもできなかった。
くそっ……自分の不甲斐なさが恨めしい。
それに、いったい誰が毒を……!
悔やんでいると、レオンハルト伯が顔をクシャクシャにしながらも、胸倉を掴んできた。
「アレク!!」
「……レオンハルト伯、なにを」
「貴様! 貴様! 貴様ァ! エレイナを治療できなくて、なにが医者だ! このヤブ医者が!! お前の顔など二度と見たくない! 出ていけ!!」
「し、しかし……」
「エレイナに感謝するんだな。殺されないだけありがたく思え!」
これ以上は本当に殺される気がしたので、俺は背を向け部屋を出た。
屋敷を去る最中、ちょうど帰ってきたらしいご令嬢が現れた。……名前はイリス。幼馴染だ。けれど、もう会うことはできない。
彼女に思いを伝えたかったが、この状況かでは無理だ。
それに。
それにきっと、彼女も俺に失望しただろう。
見つからないよう、静かに去る。
今は会わない方がいい――。
俺は、イリスに全て話す前に今までのことを改めて伝えることにした。
あれは半年前だ。
「助けてくれ……アレク。貴公の薬なら我が妻を治せるはずだ。妻から知識を与えられ、全てを学んだはず……」
レオンハルト伯はベッドで眠る妻・エレイナ様の手を握り、祈るように言った。
俺は確かに、医療や薬学を学ぶうえでエレイナ様のもとで沢山のことを教えてもらい、ついに医者となった。
しかし、エレイナ様の症状は明らかに進行してしまっていた。
もう……手遅れ。
この猛毒は、初動の対応がカギを握る。時間との勝負なのだ。ここまで毒が回ってしまうと、もう取り返しがつかない。
「申し訳ございません、レオンハルト伯……」
「な、なにを申す! アレク! 諦めるというのか!? 見捨てるというのか!?」
「……そうではありません。もう無理なんです」
「そ……そんな。そんなはずはない! エレイナはまだ息が――」
必死に訴えかけてくるレオンハルト伯だが、言葉を詰まらせた。
エレイナ様が意識を取り戻し、探るようにこちらに視線を合わせたんだ。
「エレイナ様……!」
「アレク……。私の毒はもう治せない。そうでしょう」
「……はい、残念ながら」
「お菓子に……毒が入っていたようなの」
「いったい誰が」
「分からない。……分からないけど、もういいわ……」
諦めたかのようにエレイナ様は瞼を閉じ、呼吸を浅くしていた。いけない、体力がもう持たない。
「エレイナ! 無理をするな」
「あなた……アレクは最高の医者よ。どうか……お願いね。あと娘たちも」
「な、なにを言うんだ、エレイナ! 死ぬな……!」
「愛しているわ……」
直後、エレイナ様は静かに息を引き取った。
俺はどうすることもできなかった。
くそっ……自分の不甲斐なさが恨めしい。
それに、いったい誰が毒を……!
悔やんでいると、レオンハルト伯が顔をクシャクシャにしながらも、胸倉を掴んできた。
「アレク!!」
「……レオンハルト伯、なにを」
「貴様! 貴様! 貴様ァ! エレイナを治療できなくて、なにが医者だ! このヤブ医者が!! お前の顔など二度と見たくない! 出ていけ!!」
「し、しかし……」
「エレイナに感謝するんだな。殺されないだけありがたく思え!」
これ以上は本当に殺される気がしたので、俺は背を向け部屋を出た。
屋敷を去る最中、ちょうど帰ってきたらしいご令嬢が現れた。……名前はイリス。幼馴染だ。けれど、もう会うことはできない。
彼女に思いを伝えたかったが、この状況かでは無理だ。
それに。
それにきっと、彼女も俺に失望しただろう。
見つからないよう、静かに去る。
今は会わない方がいい――。
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