毒殺されそうになりました

夜桜

文字の大きさ
8 / 24

第8話 毒殺事件① Side:アレク

しおりを挟む
◆Side:アレク

 俺は、イリスに全て話す前に今までのことを改めて伝えることにした。

 あれは半年前だ。


「助けてくれ……アレク。貴公の薬なら我が妻を治せるはずだ。妻から知識を与えられ、全てを学んだはず……」


 レオンハルト伯はベッドで眠る妻・エレイナ様の手を握り、祈るように言った。
 俺は確かに、医療や薬学を学ぶうえでエレイナ様のもとで沢山のことを教えてもらい、ついに医者となった。

 しかし、エレイナ様の症状は明らかに進行してしまっていた。

 もう……手遅れ。

 この猛毒は、初動の対応がカギを握る。時間との勝負なのだ。ここまで毒が回ってしまうと、もう取り返しがつかない。


「申し訳ございません、レオンハルト伯……」
「な、なにを申す! アレク! 諦めるというのか!? 見捨てるというのか!?」

「……そうではありません。もう無理なんです」

「そ……そんな。そんなはずはない! エレイナはまだ息が――」


 必死に訴えかけてくるレオンハルト伯だが、言葉を詰まらせた。
 エレイナ様が意識を取り戻し、探るようにこちらに視線を合わせたんだ。

「エレイナ様……!」
「アレク……。私の毒はもう治せない。そうでしょう」
「……はい、残念ながら」
「お菓子に……毒が入っていたようなの」

「いったい誰が」

「分からない。……分からないけど、もういいわ……」

 諦めたかのようにエレイナ様はまぶたを閉じ、呼吸を浅くしていた。いけない、体力がもう持たない。

「エレイナ! 無理をするな」
「あなた……アレクは最高の医者よ。どうか……お願いね。あと娘たちも」
「な、なにを言うんだ、エレイナ! 死ぬな……!」
「愛しているわ……」

 直後、エレイナ様は静かに息を引き取った。

 俺はどうすることもできなかった。

 くそっ……自分の不甲斐なさが恨めしい。

 それに、いったい誰が毒を……!

 悔やんでいると、レオンハルト伯が顔をクシャクシャにしながらも、胸倉を掴んできた。


「アレク!!」
「……レオンハルト伯、なにを」

「貴様! 貴様! 貴様ァ! エレイナを治療できなくて、なにが医者だ! このヤブ医者が!! お前の顔など二度と見たくない! 出ていけ!!」

「し、しかし……」

「エレイナに感謝するんだな。殺されないだけありがたく思え!」


 これ以上は本当に殺される気がしたので、俺は背を向け部屋を出た。

 屋敷を去る最中、ちょうど帰ってきたらしいご令嬢が現れた。……名前はイリス。幼馴染だ。けれど、もう会うことはできない。

 彼女に思いを伝えたかったが、この状況かでは無理だ。

 それに。

 それにきっと、彼女も俺に失望しただろう。

 見つからないよう、静かに去る。

 今は会わない方がいい――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をした相手方は知らぬところで没落して行きました

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢だったアンネリーは婚約者であり、侯爵でもあるスティーブンに真実の愛がどうたらという理由で婚約破棄されてしまった。 悲しみに暮れたアンネリーだったが、偶々、公爵令息のジョージと再会し交流を深めていく。 アンネリーがジョージと楽しく生活をしている中、真実の愛に目覚めたらしいスティーブンには様々な災厄? が降りかかることになり……まさに因果応報の事態が起きるのであった。

彼の妹にキレそう。信頼していた彼にも裏切られて婚約破棄を決意。

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢イブリン・キュスティーヌは男爵令息のホーク・ウィンベルドと婚約した。 好きな人と結ばれる喜びに震え幸せの絶頂を感じ、周りの景色も明るく見え笑顔が輝く。 彼には妹のフランソワがいる。兄のホークのことが異常に好き過ぎて婚約したイブリンに嫌がらせをしてくる。 最初はホークもフランソワを説教していたが、この頃は妹の肩を持つようになって彼だけは味方だと思っていたのに助けてくれない。 実はずっと前から二人はできていたことを知り衝撃を受ける。

【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…

西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。 最初は私もムカつきました。 でも、この頃私は、なんでもあげるんです。 だって・・・ね

【完結】妹のせいで貧乏くじを引いてますが、幸せになります

恋愛
 妹が関わるとロクなことがないアリーシャ。そのため、学校生活も後ろ指をさされる生活。  せめて普通に許嫁と結婚を……と思っていたら、父の失態で祖父より年上の男爵と結婚させられることに。そして、許嫁はふわカワな妹を選ぶ始末。  普通に幸せになりたかっただけなのに、どうしてこんなことに……  唯一の味方は学友のシーナのみ。  アリーシャは幸せをつかめるのか。 ※小説家になろうにも投稿中

妹よりも劣っていると指摘され、ついでに婚約破棄までされた私は修行の旅に出ます

キョウキョウ
恋愛
 回復魔法を得意としている、姉妹の貴族令嬢が居た。  姉のマリアンヌと、妹のルイーゼ。  マクシミリアン王子は、姉のマリアンヌと婚約関係を結んでおり、妹のルイーゼとも面識があった。  ある日、妹のルイーゼが回復魔法で怪我人を治療している場面に遭遇したマクシミリアン王子。それを見て、姉のマリアンヌよりも能力が高いと思った彼は、今の婚約関係を破棄しようと思い立った。  優秀な妹の方が、婚約者に相応しいと考えたから。自分のパートナーは優秀な人物であるべきだと、そう思っていた。  マクシミリアン王子は、大きな勘違いをしていた。見た目が派手な魔法を扱っていたから、ルイーゼの事を優秀な魔法使いだと思い込んでいたのだ。それに比べて、マリアンヌの魔法は地味だった。  しかし実際は、マリアンヌの回復魔法のほうが効果が高い。それは、見た目では分からない実力。回復魔法についての知識がなければ、分からないこと。ルイーゼよりもマリアンヌに任せたほうが確実で、完璧に治る。  だが、それを知らないマクシミリアン王子は、マリアンヌではなくルイーゼを選んだ。  婚約を破棄されたマリアンヌは、もっと魔法の腕を磨くため修行の旅に出ることにした。国を離れて、まだ見ぬ世界へ飛び込んでいく。  マリアンヌが居なくなってから、マクシミリアン王子は後悔することになる。その事実に気付くのは、マリアンヌが居なくなってしばらく経ってから。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

執着はありません。婚約者の座、譲りますよ

四季
恋愛
ニーナには婚約者がいる。 カインという青年である。 彼は周囲の人たちにはとても親切だが、実は裏の顔があって……。

辺境伯令嬢ファウスティナと豪商の公爵

桜井正宗
恋愛
 辺境伯令嬢であり、聖女でもあるファウスティナは家族と婚約の問題に直面していた。  父も母もファウスティナの黄金を求めた。妹さえも。  父・ギャレットは半ば強制的に伯爵・エルズワースと婚約させる。しかし、ファウスティナはそれを拒絶。  婚約破棄を言い渡し、屋敷を飛び出して帝国の街中へ消えた。アテもなく彷徨っていると、あるお店の前で躓く。  そのお店の名は『エル・ドラード』だった。  お店の中から青年が現れ、ファウスティナを助けた。これが運命的な出逢いとなり、一緒にお店を経営していくことになるのだが――。

言いたいことは、それだけかしら?

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【彼のもう一つの顔を知るのは、婚約者であるこの私だけ……】 ある日突然、幼馴染でもあり婚約者の彼が訪ねて来た。そして「すまない、婚約解消してもらえないか?」と告げてきた。理由を聞いて納得したものの、どうにも気持ちが収まらない。そこで、私はある行動に出ることにした。私だけが知っている、彼の本性を暴くため―― * 短編です。あっさり終わります * 他サイトでも投稿中

処理中です...