8 / 12
この中に、犯人がいる
しおりを挟む
沈黙を破ったのは、若き騎士団長だった。
リチャード・ケントゥリア。
彼は、場内を一望し、低く——だがはっきりとした声で告げた。
「レイド・アストレイは、殺害された」
ざわ、と空気が揺れる。
「亡命先での事故死ではない。明確な——殺しだ」
さらに、重たい言葉が落とされた。
「そして」
一瞬、間を置いて。
「その犯人は、この城内にいる」
——え?
思わず、息を呑んだ。
ロナンも、目を見開いている。
場内が、一気にざわついた。
「な、何を言っている!」
「そんなはずはない!」
「冗談じゃない!」
貴族たちの声が、重なり合う。
疑い。
恐怖。
責任転嫁。
それらが、渦巻いている。
わたしは、一歩前に出た。
「……騎士団長」
声が、思ったより落ち着いていた。
「犯人は、誰なのですか」
リチャードは、わたしを見つめたまま、首を横に振る。
「それは、まだ分からない」
……分からない?
「だが」
彼の視線が、ゆっくりと場内をなぞる。
「確実に、ここにいる」
その言葉が、火種になった。
疑心暗鬼。
視線が、視線を疑う。
友が、敵に見える。
「まさか……」
「誰が?」
「いや、待て……」
——そして。
「では、次に進む」
リチャードが、言った。
「マロナ・ジュピター」
名を呼ばれ、心臓が一つ跳ねる。
「ロナン・エルドラド」
続いて、ロナン。
「二人だけ、こちらへ」
場内が、どっと沸いた。
「待て!」
「なぜ、その二人だけだ!」
「怪しいのは、元婚約者だろう!」
——ああ。
来ると思っていた。
「そうだ!」
「レイドと最も近かったのは、伯爵令嬢だ!」
「ドロップキックで殺したのでは?」
……最後のは、余計です。
わたしは、言い返そうとした。
でも。
ロナンが、一歩前に出た。
「ふざけるな」
その声は、低く、鋭かった。
場内が、再び静まる。
「マロナが犯人だと?」
ロナンの青い目が、貴族たちを射抜く。
「彼女は、被害者だ。毒殺され、生き埋めにされ……それでも生き延びた。そんな人間が、陰でこそこそ殺しをすると思うのか」
誰も、すぐには答えられなかった。
ロナンは、さらに続ける。
「もし疑うなら、俺も一緒に疑え」
「彼女のそばにいたのは、俺だ」
……ばか。
そんなこと言われたら。
胸の奥が、熱くなる。
「ロナン……」
心の中で、名前を呼んだ。
ときめきが、抑えきれない。
リチャードは、その様子を黙って見ていた。
そして、再び口を開く。
「異論は、認めない」
その一言で、すべてが決まった。
「来い」
わたしとロナンは、リチャードの後に続いた。
向かった先は、騎士団の会議室。
重厚な扉が閉じられ、外の喧騒が遮断される。
三人だけの空間。
リチャードは、机の上に一つの封筒を置いた。
「これは」
そう言って、こちらを見る。
「二人にだけ渡す情報だ」
封蝋には、見覚えのない紋章。
嫌な予感が、背筋を走る。
「……中身は?」
リチャードは、答えなかった。
ただ。
「よく、見ろ」
とだけ、言った。
わたしは、封筒に手を伸ばす。
紙に触れた瞬間。
——何かが、始まった気がした。
リチャード・ケントゥリア。
彼は、場内を一望し、低く——だがはっきりとした声で告げた。
「レイド・アストレイは、殺害された」
ざわ、と空気が揺れる。
「亡命先での事故死ではない。明確な——殺しだ」
さらに、重たい言葉が落とされた。
「そして」
一瞬、間を置いて。
「その犯人は、この城内にいる」
——え?
思わず、息を呑んだ。
ロナンも、目を見開いている。
場内が、一気にざわついた。
「な、何を言っている!」
「そんなはずはない!」
「冗談じゃない!」
貴族たちの声が、重なり合う。
疑い。
恐怖。
責任転嫁。
それらが、渦巻いている。
わたしは、一歩前に出た。
「……騎士団長」
声が、思ったより落ち着いていた。
「犯人は、誰なのですか」
リチャードは、わたしを見つめたまま、首を横に振る。
「それは、まだ分からない」
……分からない?
「だが」
彼の視線が、ゆっくりと場内をなぞる。
「確実に、ここにいる」
その言葉が、火種になった。
疑心暗鬼。
視線が、視線を疑う。
友が、敵に見える。
「まさか……」
「誰が?」
「いや、待て……」
——そして。
「では、次に進む」
リチャードが、言った。
「マロナ・ジュピター」
名を呼ばれ、心臓が一つ跳ねる。
「ロナン・エルドラド」
続いて、ロナン。
「二人だけ、こちらへ」
場内が、どっと沸いた。
「待て!」
「なぜ、その二人だけだ!」
「怪しいのは、元婚約者だろう!」
——ああ。
来ると思っていた。
「そうだ!」
「レイドと最も近かったのは、伯爵令嬢だ!」
「ドロップキックで殺したのでは?」
……最後のは、余計です。
わたしは、言い返そうとした。
でも。
ロナンが、一歩前に出た。
「ふざけるな」
その声は、低く、鋭かった。
場内が、再び静まる。
「マロナが犯人だと?」
ロナンの青い目が、貴族たちを射抜く。
「彼女は、被害者だ。毒殺され、生き埋めにされ……それでも生き延びた。そんな人間が、陰でこそこそ殺しをすると思うのか」
誰も、すぐには答えられなかった。
ロナンは、さらに続ける。
「もし疑うなら、俺も一緒に疑え」
「彼女のそばにいたのは、俺だ」
……ばか。
そんなこと言われたら。
胸の奥が、熱くなる。
「ロナン……」
心の中で、名前を呼んだ。
ときめきが、抑えきれない。
リチャードは、その様子を黙って見ていた。
そして、再び口を開く。
「異論は、認めない」
その一言で、すべてが決まった。
「来い」
わたしとロナンは、リチャードの後に続いた。
向かった先は、騎士団の会議室。
重厚な扉が閉じられ、外の喧騒が遮断される。
三人だけの空間。
リチャードは、机の上に一つの封筒を置いた。
「これは」
そう言って、こちらを見る。
「二人にだけ渡す情報だ」
封蝋には、見覚えのない紋章。
嫌な予感が、背筋を走る。
「……中身は?」
リチャードは、答えなかった。
ただ。
「よく、見ろ」
とだけ、言った。
わたしは、封筒に手を伸ばす。
紙に触れた瞬間。
——何かが、始まった気がした。
5
あなたにおすすめの小説
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
わたしと婚約破棄? では、一族の力を使って復讐させていただきますね
ともボン
恋愛
伯爵令嬢カスミ・リンドバーグは、第二王太子シグマとの婚約お披露目パーティーで衝撃的な告白をされる。
「カスミ・リンドバーグ! やはりお前とは結婚できない! なのでこの場において、この僕――ガルディア王国の第二王太子であるシグマ・ガルディアによって婚約を破棄する!」
理由は、カスミが東方の血を引く“蛮族女”だから。
さらにシグマは侯爵令嬢シルビアを抱き寄せ、彼女と新たに婚約すると貴族諸侯たちに宣言した。
屈辱に染まる大広間――だが、カスミの黒瞳は涙ではなく、冷ややかな光を宿していた。
「承知しました……それではただいまより伯爵令嬢カスミ・リンドバーグではなく、ガルディア王国お庭番衆の統領の娘――カスミ・クレナイとして応対させていただきます」
カスミが指を鳴らした瞬間、ホール内に潜んでいたカスミの隠密護衛衆が一斉に動き出す。
気がつけばシグマは王城地下牢の中だった。
そこに現れたのは、国王バラモンと第一王太子キース――。
二人はカスミこそ隣国との戦争で王国を勝利へ導いたクレナイ一族の姫であり、シグマの暴挙は王家にとっても許されぬ大罪だとしてシグマとの縁を切った。
それだけではなく、シグマには想像を絶する処罰が下される。
これは婚約破棄から生まれる痛快な逆転劇と新たなラブストーリー。
裏切者には神罰を
夜桜
恋愛
幸せな生活は途端に終わりを告げた。
辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。
けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。
あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。
魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす
三谷朱花
恋愛
ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。
ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。
伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。
そして、告げられた両親の死の真相。
家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。
絶望しかなかった。
涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。
雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。
そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。
ルーナは死を待つしか他になかった。
途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。
そして、ルーナがその温もりを感じた日。
ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。
黒の聖女、白の聖女に復讐したい
夜桜
恋愛
婚約破棄だ。
その言葉を口にした瞬間、婚約者は死ぬ。
黒の聖女・エイトは伯爵と婚約していた。
だが、伯爵は白の聖女として有名なエイトの妹と関係をもっていた。
だから、言ってはならない“あの言葉”を口にした瞬間、伯爵は罰を受けるのだった。
※イラストは登場人物の『アインス』です
婚約破棄の帰り道
春月もも
恋愛
婚約破棄を宣言されたその日、彼女はただ静かに頷いた。
拍手の中を背筋を伸ばして歩き、令嬢としての役目をひとつ終える。
やがて醜聞にまみれ、「傷物」「行き遅れ」と囁かれながらも、
薔薇と風だけを相手に庭でお茶を飲む日々。
気品だけを残して、心はゆっくりと枯れていく。
――そんな彼女の前に現れたのは、
かつて身分違いで諦めた幼馴染、隣国の若き王だった。
「迎えに来た」
静かな破滅の先に訪れる、軍を率いた一途な求婚。
これは、声を荒げずにすべてを覆す、上品な逆転劇。
私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね?
みこと。
恋愛
鉛色の髪と目を持つクローディアは"鉱石姫"と呼ばれ、婚約者ランバートからおざなりに扱われていた。
「俺には"宝石姫"であるタバサのほうが相応しい」そう言ってランバートは、新年祭のパートナーに、クローディアではなくタバサを伴う。
(あんなヤツ、こっちから婚約破棄してやりたいのに!)
現代日本にはなかった身分差のせいで、伯爵令嬢クローディアは、侯爵家のランバートに逆らえない。
そう、クローディアは転生者だった。現代知識で鉱石を扱い、カイロはじめ防寒具をドレス下に仕込む彼女は、冷えに苦しむ他国の王女リアナを助けるが──。
なんとリアナ王女の正体は、王子リアンで?
この出会いが、クローディアに新しい道を拓く!
※小説家になろう様でも「私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね? 〜不実な婚約者を見限って。冷え性令嬢は、熱愛を希望します」というタイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる