とある令嬢の華麗なるドロップキック

夜桜

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裏切り者は、騎士団の中にいる

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封筒は、思ったよりも軽かった。
それなのに。

中身を見た瞬間、胸の奥がずしりと重くなる。

紙には、たった一行だけ。


『騎士団の中に裏切り者がいる』


……一瞬、意味が分からなかった。

「……え?」

声が、間抜けに漏れる。
ロナンも、目を見開いていた。

「騎士団……の、中に?」

リチャード騎士団長は、静かに頷いた。

「レイド・アストレイを殺害した犯人は、その裏切り者だ」
「そんな……」

帝国を守るはずの騎士団。
その中に、犯人がいる。
想像しただけで、背筋が冷たくなる。

「この件は、内密にする」

リチャードの声は、揺れなかった。

「なぜですか」

わたしが問うと、彼は即答した。

「知れ渡れば、騎士団の信用が揺らぐ」

……確かに。
帝国の柱である騎士団に裏切り者がいると知れたら、混乱は避けられない。

「だから」

リチャードは、わたしたちを見る。

「隠密に進める」

嫌な予感が、胸をよぎった。

「そこでだ」

予感は、的中する。

「マロナ・ジュピター」

名を呼ばれ、背筋が伸びる。

「そしてロナン・エルドラド。お前たちに、裏切り者の騎士を探してもらう」


……は?


「ちょっと待ってください!」

思わず、声を上げた。

「なぜ、わたしたちが?」

リチャードは、淡々と答える。

「マロナは、渦中の人間だ」
「……」
「そして」

一瞬、間を置いて。

「レイドを殺した犯人は、お前たちも狙う可能性が高い」

息を呑む。
……だから?

「それは、どういう……」

言いかけたわたしを、ロナンが遮った。

「なぜ、そんな危険なことを彼女にさせる」

声が、鋭くなる。

「彼女は、すでに十分すぎるほど——」
「理由は」

リチャードが、静かに言った。

「いずれ、分かる」

その言い方。
まるで——。
犯人に、心当たりがあるかのような。

「……あなたは」

問いかけようとした瞬間。
リチャードは、微笑んだ。

「話は以上だ」

それ以上、何も言わない。

「騎士団長!」

ロナンの声が、会議室に響く。
でも。
リチャードは、振り返らなかった。
扉が閉まる。
重い音が、胸に残った。
静寂。
わたしは、しばらく動けなかった。
ロナンの横顔を見る。
——怒っている。
今まで見たことのないほど。


「……ロナン」


声をかけると、彼は拳を握りしめたまま、低く言った。

「……許せない」

その感情に、胸がきゅっと締めつけられる。
わたしのために。
こんなふうに、怒ってくれる。
怖いのに。
不安なのに。
……嬉しい。


 ◆


騎士団を後にした。
夕暮れの城下は、人の声が遠く感じる。
しばらく、沈黙が続いた。

「……」
「……」

同時に、口を開く。

「どうぞ」
「いや、マロナが」

譲り合って、苦笑してしまう。
そのあと。
ロナンが、ぽつりと言った。

「キミは、強い」
「……はい」
「でも」

一歩、近づく。

「俺が、守る」

予想していなかった言葉。
胸が、跳ねた。

「……それは」
「助言役の、範疇だ」

そう言って、視線を逸らす。
耳が、少し赤い。
……ずるいです。





三日後。
伯爵邸は、穏やかだった。
父——ディエス・ジュピターは、猫と戯れている。

「……心配だな」

猫を撫でながら、呟く。

「マロナの状況も、だが」

ちらりと、ロナンを見る。

「キミは、たくましい騎士だ」

ロナンが、姿勢を正す。

「公認の護衛騎士にするのは、どうだ」
「……え?」
「それは……」

わたしは、首を振った。

「嫌です」

即答。

「そんな、堅苦しい関係は」

父は、片目を細めて笑った。

「そうか」

——そのとき。
空気が、変わった。
庭の方から。
確かな——騎士の気配。
わたしとロナンは、同時に顔を上げた。


「……来ましたね」


誰が。
何のために。
答えは、まだ見えない。
けれど。
戦いは、確実に——近づいている。
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