婚約破棄された侯爵令嬢ですが、真実を暴いたら騎士様に溺愛されました

夜桜

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第3話 そして、私は恋を知る

 その日は、朝からどこか落ち着かない気配がしていた。
 鳥のさえずりも、花の香りも、どこか空虚に感じてしまうほどに。

 アレンが送ってくれた報告書――
 【エリーゼ・マリエン嬢、行方不明】
 その一文が、ずっと私の胸に重くのしかかっていた。

 彼女は、夢見ていた伯爵夫人の座を失い、正気をなくしてしまった。
 そして、私を――“リリア・フォン・シュトラール”を憎んでいる。

 まさか、とは思いたい。けれど、心のどこかが警鐘を鳴らしていた。


 ◆


「リリア様、お庭のバラが綺麗に咲いております。少しお散歩などいかがでしょう?」

 気を利かせた侍女の一言で、私は庭へと足を運んだ。

 朝露に濡れた白薔薇が、誇らしげに首を揺らしている。
 少しだけ気が紛れたような気がして、私は微笑んだ。


「……美しいわね」



 その瞬間だった。



 背後から、空気が裂けるような音がした。

 私が振り返るより先に、鋭い叫びが飛ぶ。


「死ねえええええッッ!! 全部、あなたのせいよおおおッ!!」


 金切り声と共に、黒い影が飛びかかってきた。
 白いドレスを乱した女。手には、光るナイフ。


「エリーゼ……!?」


 その刹那、鋭い風のように誰かが間に割って入った。


「リリア様、下がって!!」


 アレンの声だ。
 そして、金属音が響く。
 彼の剣が、エリーゼのナイフを弾いたのだ。


「やめて……邪魔しないでッ!! 私が伯爵夫人になるはずだったのよッ! あんたさえいなければッ!」


「やめなさい、エリーゼ嬢! それ以上の行動は、国家への反逆と見なす!」


「うるさいッ! 私はね……誰にも愛されなかったのよ……! トール様だけが、私を“美しい”って言ってくれたのに……! なのに、全部、全部、あなたが奪ったッ!!」


 ナイフを振りかざす彼女を、アレンは完璧な動きで押さえつけた。
 その瞬間、彼女の目から光が消えたように感じた。


「エリーゼ嬢、あなたは全て間違ってる」
「……私が、いけなかったの……? そんなわけないじゃないッ!」


 つぶやいた彼女は、狂いながらも力なく膝をつき、その場に崩れ落ちた。
 やがて、衛兵たちが駆けつけ、狂乱状態の彼女を連行していった。

 私は……その場から、一歩も動けなかった。あまりに怖すぎたからだ。


 気づけば、アレンが私の肩にそっと触れていた。


「ご無事で……本当に、良かった」


 その言葉に、私はようやく意識を現実に引き戻された。
 震える手を、彼がそっと包む。


「私は……私は、本当に死ぬところだったのね」
「もう大丈夫です。私が守ります。何があっても、リリア様を絶対に――」


 その言葉を、私は静かに胸に刻んだ。

 彼の手は、大きくて温かくて、まるで……
 あの時、失ったものすべてを取り戻してくれるような気がした。

 騎士としての忠誠心ではない。
 もっと深く、もっと優しい気持ちで、彼は私を見てくれている。

 私も……そう思いたい。
 いえ――私は、もう気づいてしまったのかもしれない。

 この胸の高鳴りに。

 彼の声に、仕草に、そして瞳に――
 私は、もう目を離せない。

 気づけば私は、彼の背を見つめながら、そっとつぶやいていた。


「アレン……あなたのこと、もっと知りたい……」


 それは、恋のはじまり。
 そう、私はようやく、本当の“恋”を知ったのかもしれない――。
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