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7月19日、やまなし桃の日~自然が生んだ極上の甘さ、じっくりひんやり完熟桃~
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私、当麻 湊が勤める喫茶店、喫茶「バルカローラ」。
落ち着いたレトロ感漂うこの喫茶店には、いろんなお客さんが来る。
美味しい食事を楽しむ人、落ち着いた雰囲気の中で珈琲と共に本を楽しむ人、そわそわした素振りで待ち合わせをする人、食い入る様にノートパソコンの画面を見る人…他にも色々。
お昼時には少しボリューミーな昼食目当ての、午後はのんびりとした空気や時間目当ての、夜は隠れ家の様な雰囲気目当てのお客さんがそこそこ入って来て、なんだかんだきちんと売り上げは立っている…らしい。
そんな喫茶「バルカローラ」に、大きな段ボールが届いた。
…開ける前からすっごい桃の香りがする…。
これ絶対桃が入ってる…むしろこれで桃じゃ無かったらなんなんだろ…。
宛先はマスターで、送り主は…ああ、少し離れた所にある百貨店だ。え?なんで?
「マスター、何かマスター宛に百貨店から荷物が届いたみたいなんですけれど…」
「ん?ああ、もう届いたんだ。
この間行った百貨店で良い桃を見つけてね、食べたくなって思わず衝動買いしてしまったんだ」
「しょ、衝動買い…」
そういえばマスター、美味しいと思った物には糸目をつけない性格だった…。
少し前にとんでもない金額の生ハムの原木一本を衝動買いしたと聞かされた時は…うん、流石に戦慄したなぁ…。
「びっくりするぐらい強い甘い香りですね…」
「当麻さん、もしかして桃苦手だった?」
「あ、いえ、なーちん共々めっちゃ好きです」
「それは良かった」
うんうんと頷くマスターはカッターで手際よく段ボールを開けていく。
中から出てきたのは…うん、やっぱり桃だ。
桃色を超えて赤に近い色になっている。かなり熟成しているみたいだ。
開けるとより強く桃の香りを感じる…香りがお店に染み付いちゃうんじゃないか…?
それにしてもそっか…もう桃が出回る季節になったかぁ…。
桃の旬は七月から八月。この時期になれば美味しい桃が出回る。
…なんか食べたくなって来たな…。
そういえばなーちんのアルバイト先のスーパーでも、良い桃が安く売られてるってなーちんが言ってたっけ。
帰りに何個か買っていこうかなぁ…何個買っていこうかなぁ…。
「当麻さん、当麻さん」
「あ、はい、どうかしましたか?」
「良かったらいくつか持っていくかい?」
「えっ、本当ですか!?
…いえいえ流石に戴けないです…!」
マスターからの提案に、思わず自分でも分かる程に顔が綻ぶ。
…………いやいやいやいや!いくらなんでもそれは申し訳無さ過ぎる!
この桃見るからに高級品だ…そんな物は流石に貰えない…!
「まぁあんまり気負わないでよ。
いつもいつも本当にお世話になっているし、たまには従業員サービスもしたいし。
それに、当麻さんならきっとこの桃も美味しく食べてくれるだろうからね」
うわぁ満面の良い笑顔だーっ!
うう…申し訳無い…申し訳無いけれど…正直お高めな桃に興味がある…!
「いっ…………戴きます…」
「うんうん、持って行って」
「…っていう事で、今日のデザートはじっくり冷やした桃だ」
「うわーーーーっ!凄い凄いすっごーいっ!」
お夕飯の後。
皮を剥き、切り整えた桃を乗せたお皿を置くと、なーちんは嬉しそうにぴょんこぴょんこと跳ね喜ぶ。
今回のお皿は少し豪勢にガラスのお皿だ。
落とした時が怖いからあんまり使わないけれど…うん、透明なガラスのお皿に桃が良く映える…思った通り綺麗だ…!
「いっただっきまーすっ!あー…むっ!…………んぅっ!」
「ど、どうしたなーちん」
「…………みぃ、この桃、次元が違う…!」
「ど、独特な感想だな…」
なーちんの感想は結構聞くけれど、次元が違うっていうのは初めて聞いたな…。
どれ、私も一つ。
「はむっ…んぐ、んぐ、んぐ…んっ!…………これは…確かに次元が違う…!」
思わず声が出た。
これでも結構色々な桃を食べてきた方だけれど…こんなに凄い桃は初めて食べた…。
含まれる果汁は並の桃を遙かに凌駕し、自然生成される甘さの限界を遙かに超えている。
ごく稀にタンニンが原因の苦みがある桃もあるけれど…そういった物を一切感じない。
じっくり冷やしたおかげで心地の良い冷たさになっているし、食感もしっとりじんわり。
これは…なーちんの言う通り、普段食べている桃とは次元が遙かに違う。
「凄いな…この桃…本当に…」
「だね…初めて言葉を失ったよ…」
これ、本当に貰って良い物だったのか…?相当な金額じゃないのかこれ…。
「今度お返しした方が良いなこれ…しかもいつもより良いやつ…」
「あ、じゃあうちのスーパーの西瓜の大玉持ってく?」
「だな、なーちんの所のスーパーの西瓜なら安心だ」
こんなに良い物を貰えたのだ。
何かお返しをした方が良いかなぁとは思うし…何かお返しをしたい、そう、結構本気で思う。
因果応報。
因なる始まりはやがて果実を結び、報いとして応じる。
善因善果。悪因悪果。
善き因は善き果実を結び、悪しき因は悪しき果実を結ぶ。
行いは巡り巡りて、必ず帰って来る。
善くも、悪くも。
人はそれを、きっと、忘れてはいけないのだろう。
…なんて、小難しい事は、私には分からないけれど。
「本当に良い物貰ったよねー」
「ああ、本当に有り難いなぁ…」
呟きながら、はくりともう一つ頬張る。
その甘さに、表情が、心が、うっとりと蕩け出す。
「…あ」
「ん?どったの?」
「いや、うん、まぁ、あー…えー…………うん、いける…かな?」
「どったの?」
「ああいや、この桃を使ってフルーツサンドとかどうかなって思って」
「この桃で?フルーツサンド?うーん…なるほど…なるほど…………めっちゃ美味しそう…!」
「桃が十二分に甘いから全体的に甘さを控え目にして…そうだな、砂糖を減らした生クリーム…いや、プレーンヨーグルトを水切りして挟むだけでも充分に美味しいと思う」
「水切りプレーンヨーグルトの酸っぱさと滑らかさ…それに完熟桃の甘さ…うわ、口の中じゅわってした…!」
「…私もちょっと想像したら食べたくなっちゃったな…。
…んー…だいたい一、二時間ぐらいで滑らかヨーグルトになるのか…。
…なーちんま」
「待てるっ!全っ然待てるよっ!」
「お、おお。
それじゃあ…うん、作ってみるかー」
「いよっしゃーっ!」
なーちんは踊る様に喜びをあらわにした。
私の何かのおかげで、この桃を貰う事ができて。
この桃のおかげで、なーちんのこの笑顔を見る事ができる。
それならきっと、これは、良い因という意味なのだろうなぁ。
落ち着いたレトロ感漂うこの喫茶店には、いろんなお客さんが来る。
美味しい食事を楽しむ人、落ち着いた雰囲気の中で珈琲と共に本を楽しむ人、そわそわした素振りで待ち合わせをする人、食い入る様にノートパソコンの画面を見る人…他にも色々。
お昼時には少しボリューミーな昼食目当ての、午後はのんびりとした空気や時間目当ての、夜は隠れ家の様な雰囲気目当てのお客さんがそこそこ入って来て、なんだかんだきちんと売り上げは立っている…らしい。
そんな喫茶「バルカローラ」に、大きな段ボールが届いた。
…開ける前からすっごい桃の香りがする…。
これ絶対桃が入ってる…むしろこれで桃じゃ無かったらなんなんだろ…。
宛先はマスターで、送り主は…ああ、少し離れた所にある百貨店だ。え?なんで?
「マスター、何かマスター宛に百貨店から荷物が届いたみたいなんですけれど…」
「ん?ああ、もう届いたんだ。
この間行った百貨店で良い桃を見つけてね、食べたくなって思わず衝動買いしてしまったんだ」
「しょ、衝動買い…」
そういえばマスター、美味しいと思った物には糸目をつけない性格だった…。
少し前にとんでもない金額の生ハムの原木一本を衝動買いしたと聞かされた時は…うん、流石に戦慄したなぁ…。
「びっくりするぐらい強い甘い香りですね…」
「当麻さん、もしかして桃苦手だった?」
「あ、いえ、なーちん共々めっちゃ好きです」
「それは良かった」
うんうんと頷くマスターはカッターで手際よく段ボールを開けていく。
中から出てきたのは…うん、やっぱり桃だ。
桃色を超えて赤に近い色になっている。かなり熟成しているみたいだ。
開けるとより強く桃の香りを感じる…香りがお店に染み付いちゃうんじゃないか…?
それにしてもそっか…もう桃が出回る季節になったかぁ…。
桃の旬は七月から八月。この時期になれば美味しい桃が出回る。
…なんか食べたくなって来たな…。
そういえばなーちんのアルバイト先のスーパーでも、良い桃が安く売られてるってなーちんが言ってたっけ。
帰りに何個か買っていこうかなぁ…何個買っていこうかなぁ…。
「当麻さん、当麻さん」
「あ、はい、どうかしましたか?」
「良かったらいくつか持っていくかい?」
「えっ、本当ですか!?
…いえいえ流石に戴けないです…!」
マスターからの提案に、思わず自分でも分かる程に顔が綻ぶ。
…………いやいやいやいや!いくらなんでもそれは申し訳無さ過ぎる!
この桃見るからに高級品だ…そんな物は流石に貰えない…!
「まぁあんまり気負わないでよ。
いつもいつも本当にお世話になっているし、たまには従業員サービスもしたいし。
それに、当麻さんならきっとこの桃も美味しく食べてくれるだろうからね」
うわぁ満面の良い笑顔だーっ!
うう…申し訳無い…申し訳無いけれど…正直お高めな桃に興味がある…!
「いっ…………戴きます…」
「うんうん、持って行って」
「…っていう事で、今日のデザートはじっくり冷やした桃だ」
「うわーーーーっ!凄い凄いすっごーいっ!」
お夕飯の後。
皮を剥き、切り整えた桃を乗せたお皿を置くと、なーちんは嬉しそうにぴょんこぴょんこと跳ね喜ぶ。
今回のお皿は少し豪勢にガラスのお皿だ。
落とした時が怖いからあんまり使わないけれど…うん、透明なガラスのお皿に桃が良く映える…思った通り綺麗だ…!
「いっただっきまーすっ!あー…むっ!…………んぅっ!」
「ど、どうしたなーちん」
「…………みぃ、この桃、次元が違う…!」
「ど、独特な感想だな…」
なーちんの感想は結構聞くけれど、次元が違うっていうのは初めて聞いたな…。
どれ、私も一つ。
「はむっ…んぐ、んぐ、んぐ…んっ!…………これは…確かに次元が違う…!」
思わず声が出た。
これでも結構色々な桃を食べてきた方だけれど…こんなに凄い桃は初めて食べた…。
含まれる果汁は並の桃を遙かに凌駕し、自然生成される甘さの限界を遙かに超えている。
ごく稀にタンニンが原因の苦みがある桃もあるけれど…そういった物を一切感じない。
じっくり冷やしたおかげで心地の良い冷たさになっているし、食感もしっとりじんわり。
これは…なーちんの言う通り、普段食べている桃とは次元が遙かに違う。
「凄いな…この桃…本当に…」
「だね…初めて言葉を失ったよ…」
これ、本当に貰って良い物だったのか…?相当な金額じゃないのかこれ…。
「今度お返しした方が良いなこれ…しかもいつもより良いやつ…」
「あ、じゃあうちのスーパーの西瓜の大玉持ってく?」
「だな、なーちんの所のスーパーの西瓜なら安心だ」
こんなに良い物を貰えたのだ。
何かお返しをした方が良いかなぁとは思うし…何かお返しをしたい、そう、結構本気で思う。
因果応報。
因なる始まりはやがて果実を結び、報いとして応じる。
善因善果。悪因悪果。
善き因は善き果実を結び、悪しき因は悪しき果実を結ぶ。
行いは巡り巡りて、必ず帰って来る。
善くも、悪くも。
人はそれを、きっと、忘れてはいけないのだろう。
…なんて、小難しい事は、私には分からないけれど。
「本当に良い物貰ったよねー」
「ああ、本当に有り難いなぁ…」
呟きながら、はくりともう一つ頬張る。
その甘さに、表情が、心が、うっとりと蕩け出す。
「…あ」
「ん?どったの?」
「いや、うん、まぁ、あー…えー…………うん、いける…かな?」
「どったの?」
「ああいや、この桃を使ってフルーツサンドとかどうかなって思って」
「この桃で?フルーツサンド?うーん…なるほど…なるほど…………めっちゃ美味しそう…!」
「桃が十二分に甘いから全体的に甘さを控え目にして…そうだな、砂糖を減らした生クリーム…いや、プレーンヨーグルトを水切りして挟むだけでも充分に美味しいと思う」
「水切りプレーンヨーグルトの酸っぱさと滑らかさ…それに完熟桃の甘さ…うわ、口の中じゅわってした…!」
「…私もちょっと想像したら食べたくなっちゃったな…。
…んー…だいたい一、二時間ぐらいで滑らかヨーグルトになるのか…。
…なーちんま」
「待てるっ!全っ然待てるよっ!」
「お、おお。
それじゃあ…うん、作ってみるかー」
「いよっしゃーっ!」
なーちんは踊る様に喜びをあらわにした。
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