兄をたずねて魔の学園

沙羅

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俺は、兄のことが大好きだった。

こんなことを言われるとブラコンだなんて笑われるかもしれないけれど、俺にとってみれば兄は憧れの人だった。年の近い兄弟なんてケンカばかりと言われるけれど兄はいつだって俺に優しかったし、スポーツも塾も習い事全てに全力投球で取り組む兄は、いつしか何でもできる完璧超人になっていた。

だから有名な私立からも声がかかったのだろう。希望者多数で難関と言われるそこが、わざわざ兄へと自ら声をかけてきたのだ。
全寮制ということで迷っていた兄だったけれど、父さんや母さん、そして兄のこれ以上の活躍を望む俺だって兄の背中を押した。そうして頷いた彼は、去年からその私立天魔学園へと通うことになった。

別に、兄と離れたってそんなに悲しくはなかったのだ。
彼はマメに家族に連絡を送ってきてくれていたし、3連休以上の休みがあればこちらに帰ってきてくれたから。3連休がない月には土日にだって帰ってきてくれるほど、兄はちゃんと俺や家族のことを大事にしてくれていた。

……それなのに、去年の夏休みを境に兄からの愛情はぱったりと途絶えた。
必要最低限の連絡は返ってくるから、心配はしても事件性があるとまでは考えられなかった。でも、明らかに兄は変わってしまったのだ。
俺から電話をかけても出なくて、メッセージ機能だけで会話を終わらせようとする。その理由を聞いても、はぐらかされるばかりで本当の理由は聞けなかった。夏休み以降はもう家に帰ってきてもくれなくて、去年から兄の顔を一度も見ていない。母さんたちは「もう高校生だもの……反抗期にもなるわよね……」と寂しそうな顔をしていたが、どうもそれだけが理由だとは俺は考えられなかった。

「俺も、兄ちゃんと同じ学校行くよ。んで、なんで俺らに連絡しなくなったんだって文句言ってやる」

だから、そんな宣言をした。兄に何かがあるのなら、それを調べられるのは俺だけしかいないと思った。考えすぎで終わるならそれでいいが、どうして急に連絡をやめたのかという納得のいく理由をこの目で見定めたかった。

さすがは難関校と言われるだけあって、受験勉強は大変だった。もともとそこまで頭が悪いわけではなかったけれど、中の上を抜けきれずにいた俺は中学3年生の全てを勉強に打ち込んだ。家に帰ってくるなり塾に行き、塾から帰ってきてからも夜の2時まで勉強をする。今の自分でも狂気を感じるくらい、勉強に憑かれていた。

それくらいやると、神様も力を貸してくれるらしい。入試の本番は自分が得意としている分野がたくさん出て、なんとか合格をおさめることができた。
母さんたちは「寂しくなるわ」とは言っていたけれど、俺が努力してきたことを知っているので自分のことのように喜んでくれた。



そして今。俺は、私立天魔学園の門の前に立っている。

入学式は保護者も参加のため別の会場で行われて、いよいよこれから寮や授業の説明を受けるといったところだった。
西洋風の白を基調とした建物は、遠目から見ているだけでも心が躍る。世間と隔離されている立地ということもあって周りは緑の木々に囲まれているが、田舎というよりは空気が済んでいるという前向きなイメージを持った。

寮は1,2年生で4人1部屋。3年生では2人1部屋の希望も出せるようになるらしい。部屋割りはランダムだが、唯一生徒会のメンバーになった場合のみ『サポーター』と一緒に住むか、1人で住むかを選べるようであった。生徒会に入るつもりはないため流し聴きしかしていなかったが、なかなか好待遇を受けているんだなぁという印象だった。

それより、2年生と同じ部屋というのは好都合だ。もしかしたら兄のことを知っている人もいるかもしれない。ちょうどこの後同じ部屋の寮生たちとの対面があるらしいので、さっそく兄のことを尋ねてみようと思った。

話しやすい人だといいななんて期待を抱きながら、寮の方へと向かって歩いていく。
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