9 / 24
09
しおりを挟む「帰るよ」
天先輩の仕事は終わったようで、部屋に戻るよう合図がかかる。もう兄が好き勝手される姿を見なくてもいいのだと思い、その言葉は救いのように思えた。
「はい、会長」
扉がパタンとしまる。
2人の世界に閉じこもっている彼らには何も届かないと知りながら、「待ってて、兄ちゃん」と小声で呟いた。
俺に出来ることはなんだろう。この人に気に入られるために、出来ることはなんだろう。
……やっぱりこの人も、他の生徒会連中と同じなんだろうか。
俺も『サポーター』としてそういうことをしたら、今より気に入ってもらえるのだろうか。
「どうだった?」
こちらを労わるでもなく面白そうに聞いてくる先輩に、所詮はあなたも同類なのかと悲しくなる。確かに無関心なフリをしていたけれど、実際に見たら倫理観が刺激されるものだと思っていた。それくらいの優しさは、持ちあわせていると思っていた。
「最低だと思いました。兄に無理やりあんなことをさせる副会長も、それを静観しているあなたも……何も出来ない自分も」
「そう」
期待と違う答えだったのか、自分から聞いておいて興味なさげな返事を返す。
最低、だなんて言って怒ったのかとも思ったが、どうやらそうではないらしかった。
「いやに冷静だね。もっとキャンキャン吠えるタイプかと思ってた」
吠えたい気持ちはある。でも、
「吠える人間は嫌いでしょう。会長は」
「君は……会った時からずっと生意気だね」
そう言いつつも先輩は少し楽しそうで、この答えは間違ってないのだと確信する。
「生意気ついでに、1つお願いしてもいいですか」
「……なに?」
「俺にも、『サポーター』の仕事させてほしいです」
あの光景を最低だと形容したくせに、それを利用しようとしている自分だって同類だ。
「自分でやった方が早いって言ったよね」
「そうじゃなくて……。兄がやっていた方の、裏の仕事の方の話です」
「……は?」
さすがの天先輩も、この返答は予想外だったらしい。いつもの丁寧な言葉が消えて、ただひとこと威圧的な言葉が部屋に響く。
変な答え方をしたら殺される、そんな緊張感が漂っていた。
「何の役にも立ててない『サポーター』なんておかしいじゃないですか。何も出来ないなら……俺にだってああいうやり方もあるのかなと思って」
媚びを売ろうとしてるだけ、あなたにとって価値のある人間になりたいだけ。
そう素直に言ってしまえば、天先輩の機嫌を損ねることになるだろう。無理やりにそのニュアンスを消して話すことで自分が望んでいるように聞こえてしまうとしても、素直に本心を言うことは憚られた。
でもそれが、彼の地雷を踏みぬいてしまったみたいだった。
「あんなに御大層なこと言ってたくせに雰囲気にあてられちゃった? それとも、俺が当てられたとでも思った? どちらにせよ不快なんだけど」
いつもよりワントーン低い声に、本当に不快に感じているのだろうということが伺える。それでも、それくらいで引けるほど自分も冷静ではなかった。
冷静になればおかしいと気付けるのに、この時の自分は「抱かれないと有用性を示せない」という意味の分からない思い込みから抜け出せなかったのだ。
「止めなかったのは、そういうことなんじゃないのかよ」
「……何言ってんの」
「会長サマだって欲求不満にはなるだろ? 副会長とうちの兄がいちゃいちゃしてんの見て、羨ましいって思ってたんじゃないのかよ」
はぁ、と効果音がつきそうなほどのあからさまな溜息。これ以上呆れさせるなとでも言っているようだった。
「一緒にしないで。俺は『サポーター』で性欲発散しないとやっていけないような猿じゃないから」
あまりに取りつく島のない様子に、気持ちが焦っていく。ここまで煽っておいて何も収穫なしなんて、そんなの許せるはずがなかった。
「じゃあ、どうしたら会長に近づけるんだよ……!」
隠していた本音が、焦った気持ちのせいで飛び出してしまう。
「俺は何もできないからっ。兄ちゃんを助けるためには、もう会長に気に入られるしかないのに! 俺がやろうとすること全部先に潰されたら、どうしたらいいんだよ……!」
泣き喚く人間は会長は嫌いだろうと思って平静を保っていたのに、もうそれすらも取り繕うことはできなかった。
「うるさいな……何叫んでるの」
「価値ある人間にしてくれよ……」
「……っ、そんなの、頼んでなるもんじゃないでしょ」
そう言いつつも、会長が俺の腕をぐいと掴む。共用スペースを抜けた先の会長の寝室のベッドに、ぽいと投げられた。この人はやっぱり案外、情に弱い人だ。
「そこまで言うなら、満足させてみせてよ」
11
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
僕を嫌っていた幼馴染みが記憶喪失になったら溺愛してきた
無月陸兎
BL
魔力も顔も平凡な僕には、多才で美形な幼馴染みのユーリがいる。昔は仲が良かったものの、今は嫌われていた。そんな彼が授業中の事故でここ十年分の記憶を失い、僕を好きだと言ってきて──。
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる