兄をたずねて魔の学園

沙羅

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「帰るよ」
天先輩の仕事は終わったようで、部屋に戻るよう合図がかかる。もう兄が好き勝手される姿を見なくてもいいのだと思い、その言葉は救いのように思えた。
「はい、会長」

扉がパタンとしまる。
2人の世界に閉じこもっている彼らには何も届かないと知りながら、「待ってて、兄ちゃん」と小声で呟いた。

俺に出来ることはなんだろう。この人に気に入られるために、出来ることはなんだろう。
……やっぱりこの人も、他の生徒会連中と同じなんだろうか。
俺も『サポーター』としてそういうことをしたら、今より気に入ってもらえるのだろうか。

「どうだった?」
こちらを労わるでもなく面白そうに聞いてくる先輩に、所詮はあなたも同類なのかと悲しくなる。確かに無関心なフリをしていたけれど、実際に見たら倫理観が刺激されるものだと思っていた。それくらいの優しさは、持ちあわせていると思っていた。
「最低だと思いました。兄に無理やりあんなことをさせる副会長も、それを静観しているあなたも……何も出来ない自分も」
「そう」

期待と違う答えだったのか、自分から聞いておいて興味なさげな返事を返す。
最低、だなんて言って怒ったのかとも思ったが、どうやらそうではないらしかった。

「いやに冷静だね。もっとキャンキャン吠えるタイプかと思ってた」
吠えたい気持ちはある。でも、
「吠える人間は嫌いでしょう。会長は」

「君は……会った時からずっと生意気だね」
そう言いつつも先輩は少し楽しそうで、この答えは間違ってないのだと確信する。

「生意気ついでに、1つお願いしてもいいですか」
「……なに?」
「俺にも、『サポーター』の仕事させてほしいです」

あの光景を最低だと形容したくせに、それを利用しようとしている自分だって同類だ。

「自分でやった方が早いって言ったよね」
「そうじゃなくて……。兄がやっていた方の、裏の仕事の方の話です」

「……は?」
さすがの天先輩も、この返答は予想外だったらしい。いつもの丁寧な言葉が消えて、ただひとこと威圧的な言葉が部屋に響く。
変な答え方をしたら殺される、そんな緊張感が漂っていた。

「何の役にも立ててない『サポーター』なんておかしいじゃないですか。何も出来ないなら……俺にだってああいうやり方もあるのかなと思って」

媚びを売ろうとしてるだけ、あなたにとって価値のある人間になりたいだけ。
そう素直に言ってしまえば、天先輩の機嫌を損ねることになるだろう。無理やりにそのニュアンスを消して話すことで自分が望んでいるように聞こえてしまうとしても、素直に本心を言うことは憚られた。
でもそれが、彼の地雷を踏みぬいてしまったみたいだった。

「あんなに御大層なこと言ってたくせに雰囲気にあてられちゃった? それとも、俺が当てられたとでも思った? どちらにせよ不快なんだけど」
いつもよりワントーン低い声に、本当に不快に感じているのだろうということが伺える。それでも、それくらいで引けるほど自分も冷静ではなかった。
冷静になればおかしいと気付けるのに、この時の自分は「抱かれないと有用性を示せない」という意味の分からない思い込みから抜け出せなかったのだ。

「止めなかったのは、そういうことなんじゃないのかよ」
「……何言ってんの」
「会長サマだって欲求不満にはなるだろ? 副会長とうちの兄がいちゃいちゃしてんの見て、羨ましいって思ってたんじゃないのかよ」

はぁ、と効果音がつきそうなほどのあからさまな溜息。これ以上呆れさせるなとでも言っているようだった。
「一緒にしないで。俺は『サポーター』で性欲発散しないとやっていけないような猿じゃないから」
あまりに取りつく島のない様子に、気持ちが焦っていく。ここまで煽っておいて何も収穫なしなんて、そんなの許せるはずがなかった。

「じゃあ、どうしたら会長に近づけるんだよ……!」
隠していた本音が、焦った気持ちのせいで飛び出してしまう。
「俺は何もできないからっ。兄ちゃんを助けるためには、もう会長に気に入られるしかないのに! 俺がやろうとすること全部先に潰されたら、どうしたらいいんだよ……!」
泣き喚く人間は会長は嫌いだろうと思って平静を保っていたのに、もうそれすらも取り繕うことはできなかった。

「うるさいな……何叫んでるの」
「価値ある人間にしてくれよ……」
「……っ、そんなの、頼んでなるもんじゃないでしょ」

そう言いつつも、会長が俺の腕をぐいと掴む。共用スペースを抜けた先の会長の寝室のベッドに、ぽいと投げられた。この人はやっぱり案外、情に弱い人だ。

「そこまで言うなら、満足させてみせてよ」
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