兄をたずねて魔の学園

沙羅

文字の大きさ
13 / 24

13 ~天Side~

しおりを挟む

秋弥が、帰って来ない。いつもなら授業が終わったら他に寄り道もせず帰ってくるのに、今日は予定より1時間以上も遅れていた。

杞憂に終わればいいが……と思いつつ、パソコンを立ち上げる。
『サポーター』の証である黒薔薇のネクタイピン。それには実は、超小型の盗聴器とGPSがついている。基本的に生徒会役員と『サポーター』は常に一緒にいるので、この機能が利用されることはほとんどないのだが。

まずは位置情報を確認する。
この学園内、しかも彼が授業を受けているはずの校舎内にはいるようで、居残り勉強でもしているだけなのだろうかと結論づける。そろそろテストも近いし、友人と勉強しているだけということもあるだろう。
そう思いつつも「遅くなる」という連絡がきていないことに違和感を感じて、少しだけ音声を聞いてみようと思い立った。

彼の周りの状況が、音を介して伝わってくる。
結果的には、聞いてよかった。耳に飛び込んできたのが、いかにもガラの悪そうな声だったから。

「ったく手間かけさせやがって。逃げようとすんじゃねぇよ」
「ほら、早くロック解除して会長呼びな? それとももっと痛めつけられないと連絡する気にならない?」
「これだけ殴ってもまだ殴られ足りねぇの? Mなんじゃね?」
今すぐ通信を切りたいような、下卑た笑いが耳に残る。自分のことを指しているワードが聞こえて、なんとなく今の状況を掴んだ。

俺に直接仕掛けてくるまでの度胸はなかった反生徒会派の奴らが、秋弥をダシに俺を脅そうとしているんだろう。
目的はただの憂さ晴らしか、生徒会長の引退か、はたまた遊ぶ金欲しさか……。まだ分からないけれど、こんなくだらない奴らに弱みを見せるわけにはいかない。

「おら、早く連絡するって言えよ!!」
盗聴器越しにも、ドカッと鈍い音が聞こえる。
「っ、は……」
苦しそうな吐息が近くで聞こえて、彼が殴られたか蹴られたかしたようだった。

内容的に彼は、俺への連絡がいくのを防ごうとしているらしい。でも、一体どうして。
見えるところで点数を稼ごうとするなら分かる。でも、彼は盗聴器が自分の身についていることなんて知らない。

「連絡は……しない……」
無駄に耐えても、彼にメリットなんてないのに。そこまでしてもらうだけのことを、俺は何もしていないのに。

これ以上、秋弥を傷つけるわけにはいかない。すぐに、でも彼らの思惑通りにならないだけの準備をして行かなければ。

生徒会派として活動をしている人たちの中で、唯一知っている番号に電話をかける。それは、生徒会派の活動が過激にならないよう統括をしている、その人だった。
生徒会にも入ることができるくらいのカリスマ性を持ちながら、引き立て役にまわることに面白味を感じてその立場に居座った稀有な人。
だからこそ話も通じ、今でも番号が残してある。

「あっ、会長? 珍しいねぇ、電話なんて」
「要。至急でお願いがある。俺の『サポーター』が攫われた。北校舎のD棟の教室のどこかにいる。見つけ出せ。見つけたら突入するより先に俺に連絡しろ」
「北校舎のD棟ね。はーい、連絡まわすよん」

これで1人で突入してしまって、より最悪な状況になることは避けられるだろう。
「もう少し待っててね」
急いで俺も、彼がいるであろう場所へと向かう。

無事だろうか。あの子はたまに生意気なことを言いだすから、ああいうタイプの奴らの怒りをすぐに買ってしまいそうだ。
暴力も受けていたみたいだけれど、ちゃんと浅いダメージなんだろうか。これからも痛みが残ったりとか、傷が残ったりとか、そんなことはないだろうか。

早く、早く彼の元へ行ってあげないと。

北校舎まで走っていくと、既に連絡が来ていた。先に生徒会派の子たちが駆けつけてくれたようで、おそらく204教室に彼が囚われているとのこと。
中の様子までは見れていないが、不穏な音が聞こえてくるようだった。

階段を駆け上がって、204教室の前に立つ。
周りにいた数名と目配せをして……扉を開いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

従者は知らない間に外堀を埋められていた

SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL 転生先は悪役令息の従者でした でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません だから知らんけど精神で人生歩みます

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

処理中です...