海に溺れる

沙羅

文字の大きさ
9 / 10

09

しおりを挟む

「なぁ、いいか?」
先ほどのクールな雰囲気とは一転、僕を見つめる目に欲望の色が宿る。
「なにが?」
少しだけ海斗の言葉の先を予想しつつも、わかってないフリで答えた。
「こういうこと」
海斗の顔が近付く。そう思っている間に、唇に柔らかい感触を感じた。
「っ……!」
それがキスだと気付けば、恥ずかしさで一気に身体の体温が上がる。唇が離れてもなお、顔は近付いたままで余計に恥ずかしい。
「嫌だったか?」
疑問形な言葉とは反対に、彼の表情に映るのは余裕の表情。

このとききっと僕は、間抜けな顔を晒していたことだろう。急にキスをされたからじゃない。嫌だったかと問われて、大嫌いなはずの吸血鬼にキスをされても全く嫌悪感を感じない自分にびっくりしていたのだ。
「そんな顔するなよ。止められなくなる」
海斗の手が僕の頰をなぞる。少しヒヤリとするその手が心地よくて僕は目を閉じた。
「……逃げないのか?」
意外そうな声に笑みがこぼれる。僕は、ずっと求めていたのだ。甘えさせてくれる存在を。僕のせいで居なくなったりしない存在を。だからその理想に当てはまるその人から、僕が自分から逃げるなんてありえない。
「逃げてほしいの?」
海斗の好意に応えてもいいだろうか。そんなことをしたら、天の一族を裏切ることになるのだろうか。少しだけ、まだ揺れるけれど。

「……その言い方、誘ってんのか?」
いや、きっと大丈夫だろう。祖父も母も、僕の意志で決めたことなら許してくれる。それに祖父や母は、吸血鬼も人間も関係なく人の本質を見れる人たちだ。
「海斗は本当に、吸血鬼らしくないね」
「どういう意味だよ」
「優しい、ってこと」
僕は海斗の胸のあたりの服を掴んでぐっと引き、触れるだけのキスをした。
「なっ、」
今まで余裕そうな海斗しか見ていなかったため驚いた顔が新鮮に映る。次いで、余裕を失っていく彼の表情。彼は僕の顎を掴んでぐっと固定し、荒々しく口を塞いだ。
「っ……ん、」
さっきとは違ってぬるりとしたものも入ってきた。酸素がもっていかれる感覚もする。キスが、こんなに苦しいものだなんて。

「っ、やっと、らしくなった」
「うるせ。襲われたいのかよ」
そういうことを聞くから、海斗は海斗なのだと思った。思えば、名前を呼び合うようになったときから、海斗はずっと優しかった。僕を守ろうとしてくれて、リュウキの所までも助けに来てくれた。
「海斗、ありがと」
小さく呟いて抱きしめれば、
「……愁介のせいだからな」
ふわりと身体が浮いて寝室へと連れて行かれる。
顔に触れる服には海斗の匂いが染み付いていて、それだけで身体が熱くなった。全身から水分が蒸発してしまうようで、思い出したかのように喉が強烈な渇きを訴える。
「かい、と……」
柔らかいベッドの上に押し倒される。僕の意図を汲み取ったのか、それとも海斗も同じ気持ちになったのか。
チクリと右肩に走る痛み。海斗の柔らかい髪の毛にくすぐったさを感じながらも海斗の方へ顔を向け、彼の首筋へと牙をたてた。
……美味しい。
数分の間、無言で互いの血液を飲みあう。僕の血と海斗の血が身体の中で混ざり合っているかのような錯覚を起こした。それにさえ変な気持ちが高まって、息が荒くなっていく。僕の上に被さる海斗の息もまた、荒くなっていた。

「かわいい」

ようやく顔をあげた海斗は、僕の目をじっと見てそういった。
「可愛くなんか、」
ない。と言おうとしたところでまた口が塞がれる。意識がキスに向いている間にだんだんと脱がされていく服。
「怖い?」
無意識に震える身体。あんなことがあった後なのだ。怖くないと言えば嘘になるが、仄かな期待が混ざっていることも自分でわかっていた。
「怖く、ない」
「……嫌だって言っても止めないからな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...