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きっかけは中学3年生になって、1ヶ月が経った頃だった思う。
クラスが一緒だった小学校からの友達が、ある日ふと僕の『日々の足跡』を見て言った。
「湊って、こんなとこでも真面目なのな」
『日々の足跡』とは、担任の先生との交換日記みたいなもの。学校であったことを毎日5行以上書くのが宿題で、僕は律儀にもきっかり5行ずつ、毎日の反省と良かった点を書いていた。
『今日は5分前着席が守れなくて残念でした。明日は意識するようにしたいです』
『今日は全部の授業で手を挙げることができて嬉しかったです。明日からも続けていきたい』
定型文のずらりと並んだ文章は、遠目から見てもカッチリしていて読む気が失せる。毎日ご丁寧に赤ペンで返信が書かれていて、でもそれも読む気にはならなかった。
だってこんなの、嘘を書き連ねているだけ。
残念だなんて、嬉しかっただなんて、これっぽっちも思っちゃいない。
「湊もこれくらい遊んでみればいいんだよ」
そう得意げに笑った友達の手にあった『日々の足跡』には、楽しげな会話が踊っていた。
趣味、先生への質問、意味のわからないギャグに、彼のオリジナルであろうキャラクターの絵。
それは僕の持っている『日々の足跡』と同じものなのに、全然違うものに進化を遂げていた。
「楽しそう……」
「だろ? 湊も遊んでみろって。この先生、面白いぞ」
友達の言う通り、今年の担任の先生は当たりらしかった。優しくて厳しくて、ちゃんと生徒の話を聞いてくれる。そんな評価が流れているのを噂で聞いて、でもくだらないと思っていた。
どうせ今年の担任だって、僕を『いい子』としか見ない。先生なんて、みんな同じだ。
ただでさえ忙しいのだから、手のかからない子に自分から世話を焼いて、仕事を増やそうなんて思わない。
だから友達の提案に乗ったのは、ほんの出来心だった。どうせ書くこともないのだからと、自分が最近ハマっているアニメについて5行語ってみたんだ。
少しのワクワクと、怒られるだろうかという不安。初めて『日々の足跡』の目的に沿わない内容のものを提出した僕は、それが返却されるのを今か今かと待ち続けていた。
そして今、先生が目を通したあとの『日々の足跡』が僕の目の前にある。
意を決して昨日のページを開くと、そこには丁寧な字でこう書いてあった。
『へぇー。面白そうな内容だな。今度確認してみるよ』
先生を飾らない、気さくな言葉遣い。そこには、急に変わった僕の態度を戒める言葉は1つもなかった。
それに何より、僕の言葉に興味を持ってくれたということが嬉しい。
単純なのは分かっているけれど、たったそれだけの言葉で自分を認めてもらえたような気がした。
だから今日から僕は書き続けた。自分を見てほしくて。先生に、認めてほしくて。
最初は自分のことを書き続けた。
趣味を語って、それに反応してもらえるのが嬉しくて。調子に乗って自分が腐男子だということも明かしてしまったけれど、先生は「理解できない」と言うだけで否定はしなかった。
次に、先生のことが知りたくなって。
『先生の仕事を邪魔するため、こんなに質問を考えてきました!』なんて僕には似合わないセリフを添えながら、五十問ほどの質問を書いた。
鬱陶しいだろうな、嫌われるかも、なんて思いつつも、やめられなかった。
先生は一問一問しっかり答えてくれて、自分しか知らない先生が増えていくようで嬉しかった。
最後に、色々な相談をした。
僕の両親はいつも喧嘩ばっかりで、正直僕はそんな2人を大人だと認めたく無かった。
だから周りに頼れる大人は先生だけだと思ってしまって、進路や人間関係、不安に思うあれこれを全部文字にして送った。
先生は大人だった。どんな大人より大人だった。先生は綺麗事なんかじゃなくて、いつだって先生自身の言葉で僕に対応してくれる。
例えば僕が親の悪口を書けば、ある日は一緒に怒ってくれたし、僕が間違っている時には「それは違うぞ」って諭してくれた。
ちゃんと芯のある、『自分』のある先生が好きだった。……どんどん、好きになっていった。
クラスが一緒だった小学校からの友達が、ある日ふと僕の『日々の足跡』を見て言った。
「湊って、こんなとこでも真面目なのな」
『日々の足跡』とは、担任の先生との交換日記みたいなもの。学校であったことを毎日5行以上書くのが宿題で、僕は律儀にもきっかり5行ずつ、毎日の反省と良かった点を書いていた。
『今日は5分前着席が守れなくて残念でした。明日は意識するようにしたいです』
『今日は全部の授業で手を挙げることができて嬉しかったです。明日からも続けていきたい』
定型文のずらりと並んだ文章は、遠目から見てもカッチリしていて読む気が失せる。毎日ご丁寧に赤ペンで返信が書かれていて、でもそれも読む気にはならなかった。
だってこんなの、嘘を書き連ねているだけ。
残念だなんて、嬉しかっただなんて、これっぽっちも思っちゃいない。
「湊もこれくらい遊んでみればいいんだよ」
そう得意げに笑った友達の手にあった『日々の足跡』には、楽しげな会話が踊っていた。
趣味、先生への質問、意味のわからないギャグに、彼のオリジナルであろうキャラクターの絵。
それは僕の持っている『日々の足跡』と同じものなのに、全然違うものに進化を遂げていた。
「楽しそう……」
「だろ? 湊も遊んでみろって。この先生、面白いぞ」
友達の言う通り、今年の担任の先生は当たりらしかった。優しくて厳しくて、ちゃんと生徒の話を聞いてくれる。そんな評価が流れているのを噂で聞いて、でもくだらないと思っていた。
どうせ今年の担任だって、僕を『いい子』としか見ない。先生なんて、みんな同じだ。
ただでさえ忙しいのだから、手のかからない子に自分から世話を焼いて、仕事を増やそうなんて思わない。
だから友達の提案に乗ったのは、ほんの出来心だった。どうせ書くこともないのだからと、自分が最近ハマっているアニメについて5行語ってみたんだ。
少しのワクワクと、怒られるだろうかという不安。初めて『日々の足跡』の目的に沿わない内容のものを提出した僕は、それが返却されるのを今か今かと待ち続けていた。
そして今、先生が目を通したあとの『日々の足跡』が僕の目の前にある。
意を決して昨日のページを開くと、そこには丁寧な字でこう書いてあった。
『へぇー。面白そうな内容だな。今度確認してみるよ』
先生を飾らない、気さくな言葉遣い。そこには、急に変わった僕の態度を戒める言葉は1つもなかった。
それに何より、僕の言葉に興味を持ってくれたということが嬉しい。
単純なのは分かっているけれど、たったそれだけの言葉で自分を認めてもらえたような気がした。
だから今日から僕は書き続けた。自分を見てほしくて。先生に、認めてほしくて。
最初は自分のことを書き続けた。
趣味を語って、それに反応してもらえるのが嬉しくて。調子に乗って自分が腐男子だということも明かしてしまったけれど、先生は「理解できない」と言うだけで否定はしなかった。
次に、先生のことが知りたくなって。
『先生の仕事を邪魔するため、こんなに質問を考えてきました!』なんて僕には似合わないセリフを添えながら、五十問ほどの質問を書いた。
鬱陶しいだろうな、嫌われるかも、なんて思いつつも、やめられなかった。
先生は一問一問しっかり答えてくれて、自分しか知らない先生が増えていくようで嬉しかった。
最後に、色々な相談をした。
僕の両親はいつも喧嘩ばっかりで、正直僕はそんな2人を大人だと認めたく無かった。
だから周りに頼れる大人は先生だけだと思ってしまって、進路や人間関係、不安に思うあれこれを全部文字にして送った。
先生は大人だった。どんな大人より大人だった。先生は綺麗事なんかじゃなくて、いつだって先生自身の言葉で僕に対応してくれる。
例えば僕が親の悪口を書けば、ある日は一緒に怒ってくれたし、僕が間違っている時には「それは違うぞ」って諭してくれた。
ちゃんと芯のある、『自分』のある先生が好きだった。……どんどん、好きになっていった。
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