だって僕は君だけのモノ

沙羅

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プロローグ

第3話

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もう1つの事件は、高校2年生の秋頃だっただろうか。
1年生の時に起こったあの一件から拓海は少しだけ強くなり、僕以外の人とも遊ぶ頻度が増えた。容姿の良さや雰囲気の柔らかさから人気者になった拓海は、どんどん僕から自立していくように見えた。その中に女の子との遊びが含まれるようになったのは複雑な気分だったけれど、それでも拓海が良い方向に向かっていけるならと思っていた。

だが、それと同時に問題も起こる。

今でも発作的に人を信じられなくなる拓海は、不安定になると決まって僕を呼び出しキスを迫った。そんな拓海を可愛いとは思いつつも、いつまでもこのままではいけないという気持ちは片隅にはあった。

だってこんな、高校生の男2人が慰め合うようにキスをするだなんて。

――そんな時、僕はとある女の子と付き合うことになる。

「千秋くん。今日の放課後ちょっといいかな」

この頃には2人で帰る習慣も薄れていたから、何の用事か明確になる前にその言葉を了承した。彼女は森山美穂さんという人で、前期の時に隣の席になった女の子だ。そんなに近くに居ながら、目立った接点はほとんどなかったけれど。

「私、千秋くんのことが好きなの。いきなりでびっくりしたかもしれないけど……よかったら、付き合ってくれないかな。お願いします。」

だから、そう頭を下げた彼女の言葉には、ただただ驚くしかなかった。一瞬思考が止まって、「付き合う」という言葉の意味を検索して。検索しきった後に浮かんだのは、なせか幼馴染のことだった。

僕に彼女ができたら、拓海の悪い癖もなくなるんじゃないだろうか。
僕がキスを拒まざるをえなくなったら、彼を真っ当な道に戻してあげられるかもしれない。

彼女もできて、拓海との関係も清いものになる。
そんなの、一石二鳥じゃないか。

そう思えば、自然と口から言葉が出た。
「僕も、森山さんと話していると和むっていうか、安心するっていうか……とにかく、心地いいなって感じがしてた。だから……僕でよければ」
これは全くの嘘ではない。彼女のことは人として好きだし、付き合うならこんな感じの癒し系の女の子がいいなぁなんて思ったこともある。
恋愛的意味で彼女のことを好きかどうかなんて分からないけれど、こういう始まりだってきっとおかしくはない。

「ほんとに……? どうしよう、すごく嬉しい!」
彼女の満面の笑みを見ながら、きっとこれが正しい選択なんだと信じ込む。

その日の夕陽はやけに赤くて、窓から差し込む光が教室中を染めた。


「このあと、何か用事あったりする? よかったら一緒に……」
「ないよ。一緒に帰ろっか」
彼女の手と自分の手とが重なる。柔らかくて、僕より少し温かかった。

そうして教室を出ようとしたその時――。

「きゃっ!?」
彼女が小さな悲鳴をあげた。何事かと思い彼女の視線の先を辿れば、そこには彼の姿があった。
「拓海? どうしてここに」
「たっ、拓海くん、さっきのもしかして聞いてた……?」

慌てる僕たちをよそに、拓海は優しい笑みを浮かべながら答える。
「忘れ物を取りに来ただけだよ。聞いちゃったけど、誰にも言わないから心配しないで。俺も千秋ちゃんが幸せになってくれるのは嬉しいから」
最近になって少し距離ができたような気もしていたけれど、自分を思いやる言葉を聞いて気分が良くなる。やっぱり拓海は、優しくて最高の友だちだと思った。

「拓海……。ありがとう、じゃあ僕たちは行くね」
「うん、また明日」

それでも付き合う場面を見られたという恥ずかしさは拭えなくて、彼女の手を引きながら僕たちは逃げるようにその場を去った。

「居たのが拓海くんでよかったぁー。他の男子だったら絶対にからかわれてたよ」
「うん。拓海はほんとうに……いい奴だよ」
だから彼も、早く1人の相手を見つけて幸せになればいいのに。僕だってそう、彼の幸せを願っているのに、あの一件から拓海は特定の相手をつくらずにフラフラと遊ぶことが日常になっていた。

拓海の周りの「好き」は、まるで水のように彼の体をすり抜けていく。彼も、それを止めようとはしない。だって、水は彼の周りに常にあるものだから。その「好き」が誰からの「好き」でも、「好き」の形をしている以上拓海にとっては同じなのだ。
彼の周りにいる女の子の誰か1人でも、それは違うと気付かせてあげてくれればいのに。
彼女らは拓海をどこか「そういう人」だと見ているから、過度な期待はしない。本当の意味で彼女になりたいとは、誰も言いださない。
それが彼を傷つけていることは、僕だけしか知らない。

「千秋くんは、家どのへんなの?」
「南雲町。森山さん……美穂、ちゃんは?」
「ふふ、下沢町だよ。でもそっかぁ……じゃあ、そろそろお別れだね」
「送ってくよ」
「ううん、まだ明るいし大丈夫」
「でももう夕暮れ……」
「平気だって! また明日も一緒に帰ってくれたら大丈夫!」

微笑みながら手を振る彼女は本当に可愛くて、僕なんかにはもったいないかもしれないと思った。

彼女と別れるとすぐに、自分の家が見えてくる。隣には、拓海の家。
彼を置いてくる形になってしまって申し訳なかったなと、今更ながらに思う。自分だって、拓海が女の子と帰るのを見送る時に少し寂しい気持ちになっていたから。

「待ってみるかぁ」

1人で誰も居ない家に帰るより、その手前だけでも人を感じられた方が、きっと拓海も嬉しいだろう。そう思って、外の階段に腰を下ろした。
陽が完全に沈むまでだから、30分くらいは待っただろうか。それだけ待っても、彼は返ってこなかった。まだ学校に、用事が残っていたんだろうか。

彼に会うのは諦めて、僕は家へと帰ることにした。
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