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第十話 地獄の五日間《後編》
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───四月十九日 午後二十三時。東京都・空港の屋上にて
「だーれがあんたのですか!!」
背中半分まで伸び切った青髪を風になびかせ、黒い瞳に白色のワイシャツに黒いネクタイ。藍色の外套を身に纏った私と同い年の青年が、私にそう怒鳴ってきた。
「だって~芥川君は私の右腕じゃないか!」
私の危機に現れたのは、樋口君と坂口君と沖縄に向かったはずの芥川龍之介だった。彼の右手には短刀があり、その短刀で私を締め付けていた青い花の葉を刻み込んだのだ。
「うっさいですよ……でもまぁ、右腕としては間違ってはいませんけどね」
「龍……」
谷崎君は、身動きのできなかった私から距離を取って、フョードルの横に立っていた。芥川君は彼の新聞社の同僚の谷崎君を睨んだ。
「潤一郎。貴方、テロ組織の人間でしたか……」
「あぁ。龍はクライシスの一員なんだな。なぁ龍」
「潤一郎、残念ですが貴方とは一緒にいれません。これからは敵同士なのですから」
芥川君は谷崎君にそう言ったが、彼も彼で傷ついているみたいで、いつものポーカーフェイスではいるものの、雰囲気が違うのが分かってくる。感情豊かな織田君や樋口くんなら芥川君のこの悲しい雰囲気を察知できるだろう。私は芥川君とは長い付き合いだからすぐ彼の変化には察知できる。
「芥川さん、貴方沖縄に向かったのではないのですか?」
「なぜっていう顔してるね~いいだろう!教えてあげなさい芥川君!!」
芥川君に右親指を立てると、『あんたが説明するんじゃないのかい!!』と短刀の鞘で頭を叩かれてしまった。
「ったく……では、貴方たちは一つ誤算があったのはご存じで?」
「誤算ですか?」
「はい、ドストエフスキー貴方樋口さんに接触した際に、これを彼女の外套のポケットに入れましたのよね?」
芥川君は自分の胸ポケットから、小型の盗聴器を取り出し、彼らに見せつけた。フョードルは驚きを隠せないのか真剣な表情で芥川君を睨みつけた。
「あの後、織田作さんと樋口さんと合流した際、樋口さんにポケットを漁って貰い、盗聴機が出てきたので敢えて嘘の情報を流しました」
「嘘の情報……沖縄に向かったというのは噓の情報ということでしょうか?」
「その通りです。五日間ではなく、ここで終わらせます」
次の瞬間、芥川君の背後に大きな歯車が現れた。
「芥川君のギフトは【触った相手の過去が見れる】。ギフト名は【歯車】」
「触った相手の過去を……非攻撃タイプのギフトじゃないか!!」
谷崎君は非攻撃タイプのギフトだと思っているみたいだけど、フョードルは芥川君の本当のギフトを知っている。
「谷崎さん!今日は退散しますよ!!」
「はぁ!?龍のギフトは非攻撃……」
「違います!彼のギフトは二つ存在します!!」
そう、フョードルの言う通り芥川君のギフトは二つ存在する。
「ご名答。芥川君は普段使うギフトは【歯車】だけど、非攻撃タイプのギフトを補う【地獄変】が存在する。【地獄変】は【歯車】を使用中に発動される」
「えぇ。僕のギフトは【冥界から死神を呼び出す事ができ、自由自在に操れる】。その為、死神に命じれば冥界に連れていくことも可能です」
「それに、【歯車】は相手を触る事によって発動するから、それは敵味方関係なく発動出来る。だから芥川君は私の肩に手を置いている。よって私の過去を読み取りながら【地獄変】を発動させているわけなのだよ」
丁寧に解説してあげると、フョードルは舌打ちをし、谷崎君は先程のフョードルの指示に従って、【青い花】を発動させ、夜空に青い花の花びらが舞い、フョードル共々一瞬で消えてしまった。しばらくすると芥川君の背後にあった歯車も消えていった。私は背伸びをしながら芥川君に話しかけた。
「行ってしまったね~」
「そうですね。しかし、潤一郎が敵組織だったというのは予想外でしたよ」
芥川君はやはり仲の良かった同僚が敵組織の人間だと知ってしまったことで少しショックを受けているみたいだ。
「まぁ、こればかりは仕方がのないことだよ……芥川君はどうしたい?谷崎君を野放しにするか、それともあの空間から解放させてあげるのか」
私は芥川君に問うと、夜空を見上げながら私の問いに答えた。
「潤一郎を解放する……僕にできることはそれだけだ」
私の赤い瞳は、彼の黒い瞳をとらえた。その瞳はとても真剣で、嘘偽りのない綺麗な瞳だった。私は芥川君に近づき、頭を撫で彼の胸ポケットからフョードルが樋口君に仕込んだ小型の盗聴器を抜き取り、左手で握りつぶした。そんな私に芥川君は何かを感じ取ったのか、私の名前を呼んだ。
「な、永井さ……」
「心配ないさ。君に対して怒っていないから。さぁ、クライシスに帰ろう!あの子たちが待ってる」
私は彼に手を差し伸べ、その手を取った。屋上の下には樋口君、太宰君、坂口君、織田君が待っていた。私も改めて、自分の居場所を再認識することが出来た。私が全員護って見せる。誰一人欠けさせはしない。そのためには、ユグドラシルを潰さなければならない。一日も早く壊滅させるために、今日も明日も明後日も私たちは走り続ける。
───もう二度と失わないように
「だーれがあんたのですか!!」
背中半分まで伸び切った青髪を風になびかせ、黒い瞳に白色のワイシャツに黒いネクタイ。藍色の外套を身に纏った私と同い年の青年が、私にそう怒鳴ってきた。
「だって~芥川君は私の右腕じゃないか!」
私の危機に現れたのは、樋口君と坂口君と沖縄に向かったはずの芥川龍之介だった。彼の右手には短刀があり、その短刀で私を締め付けていた青い花の葉を刻み込んだのだ。
「うっさいですよ……でもまぁ、右腕としては間違ってはいませんけどね」
「龍……」
谷崎君は、身動きのできなかった私から距離を取って、フョードルの横に立っていた。芥川君は彼の新聞社の同僚の谷崎君を睨んだ。
「潤一郎。貴方、テロ組織の人間でしたか……」
「あぁ。龍はクライシスの一員なんだな。なぁ龍」
「潤一郎、残念ですが貴方とは一緒にいれません。これからは敵同士なのですから」
芥川君は谷崎君にそう言ったが、彼も彼で傷ついているみたいで、いつものポーカーフェイスではいるものの、雰囲気が違うのが分かってくる。感情豊かな織田君や樋口くんなら芥川君のこの悲しい雰囲気を察知できるだろう。私は芥川君とは長い付き合いだからすぐ彼の変化には察知できる。
「芥川さん、貴方沖縄に向かったのではないのですか?」
「なぜっていう顔してるね~いいだろう!教えてあげなさい芥川君!!」
芥川君に右親指を立てると、『あんたが説明するんじゃないのかい!!』と短刀の鞘で頭を叩かれてしまった。
「ったく……では、貴方たちは一つ誤算があったのはご存じで?」
「誤算ですか?」
「はい、ドストエフスキー貴方樋口さんに接触した際に、これを彼女の外套のポケットに入れましたのよね?」
芥川君は自分の胸ポケットから、小型の盗聴器を取り出し、彼らに見せつけた。フョードルは驚きを隠せないのか真剣な表情で芥川君を睨みつけた。
「あの後、織田作さんと樋口さんと合流した際、樋口さんにポケットを漁って貰い、盗聴機が出てきたので敢えて嘘の情報を流しました」
「嘘の情報……沖縄に向かったというのは噓の情報ということでしょうか?」
「その通りです。五日間ではなく、ここで終わらせます」
次の瞬間、芥川君の背後に大きな歯車が現れた。
「芥川君のギフトは【触った相手の過去が見れる】。ギフト名は【歯車】」
「触った相手の過去を……非攻撃タイプのギフトじゃないか!!」
谷崎君は非攻撃タイプのギフトだと思っているみたいだけど、フョードルは芥川君の本当のギフトを知っている。
「谷崎さん!今日は退散しますよ!!」
「はぁ!?龍のギフトは非攻撃……」
「違います!彼のギフトは二つ存在します!!」
そう、フョードルの言う通り芥川君のギフトは二つ存在する。
「ご名答。芥川君は普段使うギフトは【歯車】だけど、非攻撃タイプのギフトを補う【地獄変】が存在する。【地獄変】は【歯車】を使用中に発動される」
「えぇ。僕のギフトは【冥界から死神を呼び出す事ができ、自由自在に操れる】。その為、死神に命じれば冥界に連れていくことも可能です」
「それに、【歯車】は相手を触る事によって発動するから、それは敵味方関係なく発動出来る。だから芥川君は私の肩に手を置いている。よって私の過去を読み取りながら【地獄変】を発動させているわけなのだよ」
丁寧に解説してあげると、フョードルは舌打ちをし、谷崎君は先程のフョードルの指示に従って、【青い花】を発動させ、夜空に青い花の花びらが舞い、フョードル共々一瞬で消えてしまった。しばらくすると芥川君の背後にあった歯車も消えていった。私は背伸びをしながら芥川君に話しかけた。
「行ってしまったね~」
「そうですね。しかし、潤一郎が敵組織だったというのは予想外でしたよ」
芥川君はやはり仲の良かった同僚が敵組織の人間だと知ってしまったことで少しショックを受けているみたいだ。
「まぁ、こればかりは仕方がのないことだよ……芥川君はどうしたい?谷崎君を野放しにするか、それともあの空間から解放させてあげるのか」
私は芥川君に問うと、夜空を見上げながら私の問いに答えた。
「潤一郎を解放する……僕にできることはそれだけだ」
私の赤い瞳は、彼の黒い瞳をとらえた。その瞳はとても真剣で、嘘偽りのない綺麗な瞳だった。私は芥川君に近づき、頭を撫で彼の胸ポケットからフョードルが樋口君に仕込んだ小型の盗聴器を抜き取り、左手で握りつぶした。そんな私に芥川君は何かを感じ取ったのか、私の名前を呼んだ。
「な、永井さ……」
「心配ないさ。君に対して怒っていないから。さぁ、クライシスに帰ろう!あの子たちが待ってる」
私は彼に手を差し伸べ、その手を取った。屋上の下には樋口君、太宰君、坂口君、織田君が待っていた。私も改めて、自分の居場所を再認識することが出来た。私が全員護って見せる。誰一人欠けさせはしない。そのためには、ユグドラシルを潰さなければならない。一日も早く壊滅させるために、今日も明日も明後日も私たちは走り続ける。
───もう二度と失わないように
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