皇帝陛下の精子検査

雲丹はち

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1、検査当夜


とうとうこの日が来てしまった。
皇帝マクシミリアンは夜の回廊でひとりため息をついた。
もはやこの国で自分を悩ますものなど何もない、そう思っていた。数週間前までは――

(すべて、あの男が原因だ……っ)

あの眼鏡をかけた穏やかな容貌に騙されたと言っていい。
医務官ロイド・フォートナム。
今年二十五歳を迎えたマクシミリアンより三つ年下の青年だが、外見とはかけ離れた押しの強さでも有名な男だった。
奴の言い分はこうだ。

――陛下は御年二十五歳となられましたが、いまだ妃を迎えておりません。となれば今後の帝国発展のためにもいま一度、例の検査を実施させて頂きたい。

二十五にもなって妃を迎えてこられなかったのは、この広大な国土で常に反乱が起きていたからだ。
マクシミリアンが物心ついた頃には、皇帝の権威が弱りきっていて、兵力や富は全て地方の大貴族が牛耳っていた。
気弱な少年であれば、ゆっくりと弱っていく国を見て見ぬふりもできただろう。だがマクシミリアンは生まれついての反逆児であった。
こちらが黙っていればどんどん増長し、果ては皇族に敬意も払わない地方貴族どもを野放しにはできなかった。

――これは私の生涯をかけて、根絶やしにしなければならぬ敵だ……!

その一心で奴らを罠にかけ、使える者は生かし、操り、ともに戦ってきた。
その道中で亡くした者は数え切れない。それでもようやくかつての威光を取り戻すことはできた。
まだ国内で小競り合いが起きることはあるが、十年前と比べたら驚くほど少なくなっている。
こうやって帝都から少し離れた夏の離宮で余暇を過ごせるようになったのも、ここ数年のことだ。
以前は離宮にさえ仕事を持ち込み、部下から身体を休めるようにと良く嘆願されたものだ。その数も減り、今ではこうして離宮の中庭に造られた噴水を見て、涼を楽しむこともできる。
ちょうどマクシミリアンが立っている回廊から、噴水がぶわりと勢いを増すのが見えた。

(どうせ妃は一人と言わず二人、三人と娶ることになるだろうに、なぜあんな『検査』を……!)

頭に思い浮かべるのも腹立たしい言葉がよみがえる。

――精子検査。

それがロイドの提案してきた検査の名称だった。
妃を迎える前に皇帝の子種が機能しているか調べるものらしい。詳細を聞くのも腹立たしい。
だが帝国が国教に定めたビリジアン教では、いにしえより子種を残すことが至高とされている。
そのため男や女が子を作れるかどうか必ず検査をする習わしがあった。
マクシミリアンは帝国の動乱を治めるため、この十年まったく検査を受けてこなかった。
ロイドの言葉にも一理ある。
だが、だからといって、あんな……!
思い出すのも厭わしい、子供の頃受けた検査の数々に頬が熱くなる。

(ッ……あんな、恥ずかしいものをどうして今になって……!)

他人の指で性器を何度もしごかれ、白い子種汁を噴き出させられた。
射精は一回では済まず、二回、三回と続き、性器が萎えると尻の穴にまで指を入れられて、勃起させられた。
性への目覚めが薄い子どもの頃だったからこそ受け入れられた。だが成人を迎え、セックスの知識もそれなりにある今となっては屈辱としか思えなかった。
それに検査を行うのはあのロイドだ。
部下に、しかも同じ男に身を任せるなど、恥ずかしいことこの上ない。

(……私が恥ずかしいと考えるから恥ずかしくなるのだ。今夜のは単なる医療検査……医療検査だ!)

マクシミリアンは胸いっぱいに息を吸い込むと、意を決してロイドが待つ己の寝室に向かった。
大股で歩くたび、金色の前髪が揺れる。今夜のために羽織った薄手のナイトガウンは瞳の色と同じ深いブルー。
中庭には夜になると月光を花びらにため込んで、白く輝く月光花が咲き誇っていて、足元は明るい。
内心の屈辱を押し隠して、優雅な足どりで進むと寝室の前に立つ衛兵たちが敬礼した。

「医務官は?」
「部屋でご準備なさっておられます」

用意周到なことだ。
舌打ちしたくなる気持ちを押さえて、マクシミリアンは苦虫を噛みつぶす顔で衛兵に命じた。

「我が寝室の前から去れ。なんびとも寄せ付けるな」
「しかし陛下、それでは警備が手薄に……!」
「私が良いと言っているのだ。人払いをせよ」

付き合いの長い衛兵だからこそ、今夜の音を聞かれたくない。
扉は分厚く、万が一にも音が漏れることはないはずだが、、彼らの耳に届かない保証もなかった。
自分のあられもない声を聞かせる相手くらい選びたい。

「これは命令だ」

キツく言えば彼らは渋々といった様子で部屋から遠ざかっていった。
それを見送ってから寝室に入った。

「あれ? 思ったよりも早かったですねぇ」

間延びした声が届く。
ロイドはベッドサイドに怪しい薬瓶をいくつも並べていた。使い道の分からぬ道具も置かれている。

「奥手な陛下のことですから、お部屋にいらっしゃるまでもっと時間がかかると思ってましたよ」

安っぽい挑発だ。
こんなもの真に受ける方がどうかしている。

「ふん。たかだか検査一つ、なぜ私が臆する必要がある」

ずかずかと大股で天蓋ベッドに近づき、腰を下ろした。
夏離宮の寝室らしく天蓋から垂れ下がる布は目にも涼やかなロイヤルブルーの薄絹だった。
窓辺からそよぐ夜風にはためく景色が美しい。
窓の向こうは広い堀があるため、聞こえてくるのは木々の葉ずれと眠たげなフクロウの鳴き声ばかりだった。
灯りと呼べるものはベッドサイドに置かれた燭台一つきりで、淡いオレンジの光がロイドの横顔を照らしていた。
内心の緊張を悟られぬよう、ナイトガウンのベルトを外すと、ロイドが声をかけてきた。

「あぁ、座られたまま大きく股をひらいて下さい」

言われたとおり大股びらきで座りなおしたが、ロイドの予想とは違ったらしい。

「全然足りませんよ」

ぐいっと大きく開かされ、膝に置かれた手がゆっくりと股間に伸びる。

「ッ……!」
「ほ~ら。マクシミリアン陛下のおちんちんを見せてもらいましょうね」

ガウンの中に着ていた寝間着のズボンを下着ごと引きずり下ろされる。
ぼろん、と萎えた性器が躍り出た。ロイドが眼鏡をかけ直して、じっとそれを見つめてくる。

「ふうむ。形は悪くない。欲をいえばもう少し太さと長さが欲しいですね」

つぅ、と医務官らしい細い指が竿をなぞる。体温の高いマクシミリアンと比べるとロイドの指はひんやりと冷たかった。

「色つやもすばらしい。あまり使い込まれていらっしゃらないという噂は事実なのですね」
「…、……貴様は黙って仕事が進められないのか……っ」

文句をたれると、反撃するかのように生暖かい息を亀頭に吹きかけられた。

「――ヒッ――!?」
「お静かに。陛下も衛兵にお声を聞かれたくはないでしょう?」
「……ふん、あいにくと人払いはもう済ませてある」

どうだ参ったか! と、生来の気性よろしく反論すると、ロイドと今夜初めて目が合った。
明るいハシバミ色の瞳がじっと下から自分を観察してくる。
研究家肌らしい強い視線に、今まで一度も臆したことのないマクシミリアンが気圧されていた。
部屋に入ってからずっとひた隠しにしてきた緊張や屈辱、羞恥がバレてしまう。そんな気さえした。

「ふふ。では本日ご用意した検査項目を全て満たせそうですね」

にっこりとほほ笑む笑顔に、マクシミリアンは今すぐ部屋から逃げ出したくなった。
だが皇帝としてのプライドがそれを許さない。
勇気を振り絞って尋ねた。

「その検査項目とはいくつあるんだ?」

ロイドはマクシミリアンの性器を両手で弄びながら、答えた。

「うーんそうですね。まず射精の速度、時間、切れの良さといった基礎項目に、持続時間、前立腺の反応具合などを用意した道具で調べます。前立腺を刺激する道具は各種サイズをかなり取り揃えてありますので、きっと陛下がお気に召すものがあると思いますよ」

すらすらと答えるロイドの言葉にマクシミリアンは質問した自分をすでに絞め殺したい気分だった。

「す、全ての項目を満たす必要はないであろう……?」
「おやぁ? 皇帝陛下ともあろうお方が国の教えに反するのですか?」

ぺたぺたとロイドの指が竿に触れては、小さなシワをめくろうとしてくる。

「ッ…………そうではない、が…………!」
「ご安心ください。このロイド・フォートナム、陛下の玉体を傷つけることは絶対にありません」

(そういうことを聞いてるのではない……!)

「では早速、検査を始めましょう」

閉じかけた両足を再び強引に開かされ、体温の低い指に睾丸を優しく揉まれる。
マクシミリアンに否と言う権利はもうなかった。


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