下界の神様奮闘記

LUCA

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神様と女神③

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「凪沙ちゃん、それは本当なのかい……? 証人として天界に戻ると、次戻ってくる時はこの街には戻って来れないの……?」

「そうなんです。天界の神がクビなどの自己都合で一度下界に落とされると、基本的には天界に戻ることは出来ません。しかし、定年退神など天界都合で下界に降りることを選んだ場合、自由に天界と通信したり、一時的に天界に戻ることが出来るんです」

 そ、そうだったのか……。下界に落とされるなんて微塵にも考えたことなかったから、全く知らなかった……。だから、神村さんは天界と通信することが出来るんだ……。

「で、でも、それが下界の同じ場所に戻って来れないのと、どう関係してるんだい?」

「昔、それを悪用した元神様がいたらしいんです。その神様は退神して、つまり天界都合で下界に降りたから、天界と下界を自由に行き来が出来る。それをいいことに、特に大した用事もなく天界と下界を自由に行き来してたらしく、それに困り果てた天界側が特則を作ったようなんです。それが、「下界から天界に戻り、再び下界に降りる際には、同じ場所には降りられない」というものでした」

 なるほど……。下界の慣れた場所では無い、また別の場所に降ろされるとなると、もう一度最初からそこに住み慣れないといけないからとても面倒くさいな。こうすることで、実質的に天界と下界の行き来を極力減らすことが出来るんだ。

「あぁ、だから本来は天界と下界を自由に行き来出来る神村さんも、直接天界に行くんじゃなくて、あくまで通信という手段で天界とコンタクトを取ったのか……。神村さん、この街気に入ってたもんなぁ」

 特にこの花串は。

「だから……、私が証人として一度天界に戻ると、もう二度とこの街には戻ってこれないんです。でも……。でも私が証人として天界に戻ることで、神山さんは天界に復帰できるんですよね……?」

「そうだね……。凪沙ちゃんが証人として来てくれたら、トラックの軌道の件の食い違いを解消することができる。神楽が下界において事実を捻じ曲げたという証拠が出揃うんだ。でも……、凪沙ちゃんがこの街に戻れないとなると、簡単には天界へ連れて行けないね……」

 凪沙ちゃんは途中からほとんどうつむいている。優しい性格の凪沙ちゃんのことだ。葛藤しているのだろう。
 自分が証人として天界に行けば俺を天界に復帰させることができる。
 しかし、本当の生まれ故郷ではない単なる設定とはいえ、凪沙ちゃんはすっかりこの街の住人であり、鳥居家の一員である。そこへ二度と戻れないとなると、それはそれは辛いものだろう。

「……神山さん」

 しばしの沈黙の後、凪沙ちゃんが口を開いた。
 やっぱり嫌かな? それとも、俺のためなら仕方無いですって言うかな? どっちだ……? 

「……少し考える時間を頂いても良いですか? すぐには決められそうにないんです……」

「あ、あぁ……。もちろんだよ。ごめんね、急にこんな大きい決断を迫ることになってしまって」

「神山さんは謝ることないです! 神山さんだって、不本意な形で下界に落とされているんですから! 神山さんは天界に戻るべきなんです! でも……。でも、少し時間を下さい。すみません……」

「凪沙ちゃんこそ、謝ることはないよ! じっくり考えていいからね」

「すいません。では、決断したらまた報告します」

 凪沙ちゃんはそう言うと、俺の前から去っていく。
 果たして、凪沙ちゃんはどっちを選ぶだろうか。

 俺は天界に戻るために情報や証拠を集めてきた。やっと戻ることが出来る一歩手前までやってきた。しかも、確実に戻れる目処が立ったのだ。
 しかし、最後の最後でこれはないだろ……。俺一人が何か辛い思いをするなら良いのだ。天界に戻れるなら何でもする。それが、よりにもよって凪沙ちゃんが絡んでくるとは……。
 こんなに神様を恨んだことはない。俺は元神様だけど……。

 翌日、俺はいつものように居酒屋の仕事に精を出す。何かをしていないと落ち着かないため、いつもはキツい居酒屋の仕事が精神の安定剤になっていた。
 今日もいつものように仕事をしていると、決まった時間に決まったテーブルに一人でやって来る常連さんがそこにいた。

 神村さんである。

「おう、神山くん。あの一件から、少しは進展したのかい? 」

「ここでは詳しく話せないのですが、かなり進展しました。一応、これで天界に戻れる目処は立ちました。ただ……」

「うん? 何か障害があったような様子だね。たしかに、ここでは込み入った話は出来なさそうだ。ちょうど明日が休日だから、もしも君に用事が無かったら家に来るかい?」

「いいんですか? それだと助かります。では明日、神村さんのお宅にお邪魔致しますのでよろしくお願いします」

 元神様ということが周りにバレてしまうと大変なので、これ以上は話さなかった。まぁ、元神様同士の会話を周りが聞いたところで誰も信じないどころか、頭がオカシイやつと思われそうだが。

 そして翌日、俺は約束の時間に神村さんの家に着くよう早めに鳥居家を出発した。いつもは一人で出掛ける俺を珍しい目で見てくる凪沙ちゃんも、今はとてもそういう気分ではないのだろう、必要以上に絡んでくることはなかった。

 俺は約束の時間よりも随分早く、神村さんの住むマンションの前に着いた。スマホなんか持っていない俺は適当に時間を潰し、近くの電光掲示板の時計が約束の時間の5分前になったところで、神村さんの部屋番号を入力した。

「はーい、今開けるよー」

 オートロックの自動ドアが開き、マンションの中に入る。神村さんの部屋の前に辿り着いてインターホンを押すと、ドアを開けて入れと促された。

「お邪魔します。すみません、再び休日に伺ってしまって」

「なんのなんの。私は年金生活者で無職という設定だから、常に暇人だからね。では、話を聞こうかな」

 俺は凪沙ちゃんが天界の元女神だったことや、トラックの軌道を変えていたこと、その凪沙ちゃんを証人として天界に連れて行こうとしていることや、一度天界に戻れば二度と下界の同じ場所には戻れないことなどを話した。

 特に、凪沙ちゃんが天界の元女神だったということは、神村さん驚くだろうなぁ……。

「凪沙ちゃんが元女神だってこと、知ってたよ」

「……へ?」
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