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神様と女神⑥
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「ぐぬぬ……、結局遅くなっちゃったな……。えぇい! そんなことより、早いとこ凪沙ちゃんがいるかどうか確かめなくては!」
駅前にはタクシーが3台くらい止まっていた。一番前に止まっていたタクシーに乗り込み、運転手に目的地が神鳴山であることを告げる。
およそ20分くらいで、神鳴山の麓へ到着した。タクシーを降り、そのタクシーが行ってしまった直後に、気付いてしまった。
「あ。もし凪沙ちゃんがいなかったら、帰りはどうしようか……」
凪沙ちゃんがいなかったことを全く想定していなかった。仕方がない。そうなった場合、歩いて帰るか……。「浮遊」での移動は二度としないぞ! するもんか!
気を取り直して、俺は神様の能力「探索」を使う。これは以前、失踪した(未遂だったが)鳥居家の猫であるすき焼きに用いた能力で、半径500メートル以内にいる、姿が見えない生き物の目線に立つことができる能力。
今ここでこれを使って凪沙ちゃんの目線を自分の視界に映し出し、そこにこの街を一望できる景色が見えたら、凪沙ちゃんは間違いなく神鳴山の山頂にいることになる。神鳴山の山頂からのこの街の景色は、以前絵を描いた時に目に焼き付けているため鮮明に覚えているからだ。
「探索」でその生き物の目線になるためには、まずその対象となる生き物の特徴を頭の中に思い浮かべなければならない。俺は目を瞑って集中する。
凪沙ちゃんはイメージしやすい。とにかく優しい。画家になる夢に向かって努力する頑張り屋である。絵のタッチは漫画風だけど。ちょっと天然。大丈夫かなこの子? と思うことが多々ある。そして、元女神。情を入れすぎるので向いていなかったけど。
自分の視界が、だんだん別の者の視界に切り替わる感覚がする。目を瞑って真っ暗だった視界が、だんだん、だんだんとオレンジがかった色に染まっていく。これは……、夕焼けの色か。
そして、視界がはっきりとする。眼の前に広がったのは、西の地平線に日が沈む前の、見事なオレンジ色の夕焼けに染まった街の景色だった。
「やっぱりここでこの街の景色を眺めていたか。なんとも、凪沙ちゃんらしいな。とりあえず、早いとこ俺も行かなくちゃ」
神鳴山はそこから見える夜景も人気なので、夕方過ぎになっても人の姿は少なくはなかった。
しかし、周りは友達同士やカップルばかりである。こんな時間に、しかも一人のおじさんがケーブルカーを利用しようとしているからか、係員の男性が怪訝そうな目を向けてくる。それに気付かないふりをしながら、ケーブルカーに乗り込んだ。同じく乗り込んできたカップルが向かいに座る。めちゃくちゃ気まずいし、何よりそのカップルたちに申し訳なかった。山頂へは10分くらいで到着したが、その時間は永遠にも感じられた……。
山頂は夜景を楽しむ人で賑わっていた。さて凪沙ちゃんはどこだ。
しばらく歩きながら周りを見渡していると、一人の若い女性が景色を見ていた。今この空間で一人でいるのは、俺か、その女性かの二人だけであろう。間違いない、あれが凪沙ちゃんだ。
俺はその女性に近づいていった。
「おーい! 凪沙ちゃーん!」
声が届くくらいの距離まで近付いて、声を掛けた。それも、そこそこ大きな声で。
「おーい! 凪沙ちゃーん! おーい!」
距離を詰めていく間も何度か声を掛けてみたが、反応してくれないどころか、振り向いてもくれなかった。
「おーい! 凪沙ちゃーん!」
あ、あれ? 気付かないのかな……? それとも、俺に気付いてはいるけど、俺のせいでこの街を離れなければならなくなったから怒ってるのかな?
あ、あれか? 周りが友達同士やカップルばかりだから、こんなおじさんが知り合いだって思われたくないのかしら……? それはそれで悲しいな……。
とうとう反応すらしてもらえないまま、その女性の元に到着してしまった。
何度も後ろから声を掛けたが反応すらしてくれなかったので、今度は恐る恐る声を掛けてみる。
「連絡も繋がらないから心配したよ、凪沙ちゃ……」
「……?! 誰よあんた!?」
「え……誰?」
次の瞬間、右の頬に鈍い痛みが広がった。なぜ? なぜに俺はビンタされたんだ……?
「私はね! マッチングアプリで初めて会う人と待ち合わせしてるの! あんたがそうなの? プロフィールには、身長180センチの医療従事者で、年齢は30って書いてたんだけど! 全部嘘だったのね!」
「ち、ちがっ……、痛っ!」
その女性は凪沙ちゃんではなかった。凪沙ちゃんではないその女性は、何故か俺を何度もビンタしようとしてくる。どんな状況??
「あれ? 神山さん? 何してるんですかこんな所で!」
「痛っ、やめっ、ん……なんか聞き覚えのある声が……っ」
ビンタを防御して意識が飛びそうになっている俺の横目に映ったのは、紛れもない本物の凪沙ちゃんであった。
「ちょっとー! 喧嘩はダメですよー! そこの女性の方も止めてください!」
凪沙ちゃん、無理だ。この女性はもう誰にも止められない。せめて誰か、男性の人を……。
「こらこら、ここで喧嘩は良くないぞ。せっかくの良い景色が台無しだ」
また聞き覚えのある声が……。でも助かった、男性の声だ。これはありがた……えっ??
「やぁ、神山くん。さっきぶりだね」
「こ、ここで何してるんですか? 神村さん!」
駅前にはタクシーが3台くらい止まっていた。一番前に止まっていたタクシーに乗り込み、運転手に目的地が神鳴山であることを告げる。
およそ20分くらいで、神鳴山の麓へ到着した。タクシーを降り、そのタクシーが行ってしまった直後に、気付いてしまった。
「あ。もし凪沙ちゃんがいなかったら、帰りはどうしようか……」
凪沙ちゃんがいなかったことを全く想定していなかった。仕方がない。そうなった場合、歩いて帰るか……。「浮遊」での移動は二度としないぞ! するもんか!
気を取り直して、俺は神様の能力「探索」を使う。これは以前、失踪した(未遂だったが)鳥居家の猫であるすき焼きに用いた能力で、半径500メートル以内にいる、姿が見えない生き物の目線に立つことができる能力。
今ここでこれを使って凪沙ちゃんの目線を自分の視界に映し出し、そこにこの街を一望できる景色が見えたら、凪沙ちゃんは間違いなく神鳴山の山頂にいることになる。神鳴山の山頂からのこの街の景色は、以前絵を描いた時に目に焼き付けているため鮮明に覚えているからだ。
「探索」でその生き物の目線になるためには、まずその対象となる生き物の特徴を頭の中に思い浮かべなければならない。俺は目を瞑って集中する。
凪沙ちゃんはイメージしやすい。とにかく優しい。画家になる夢に向かって努力する頑張り屋である。絵のタッチは漫画風だけど。ちょっと天然。大丈夫かなこの子? と思うことが多々ある。そして、元女神。情を入れすぎるので向いていなかったけど。
自分の視界が、だんだん別の者の視界に切り替わる感覚がする。目を瞑って真っ暗だった視界が、だんだん、だんだんとオレンジがかった色に染まっていく。これは……、夕焼けの色か。
そして、視界がはっきりとする。眼の前に広がったのは、西の地平線に日が沈む前の、見事なオレンジ色の夕焼けに染まった街の景色だった。
「やっぱりここでこの街の景色を眺めていたか。なんとも、凪沙ちゃんらしいな。とりあえず、早いとこ俺も行かなくちゃ」
神鳴山はそこから見える夜景も人気なので、夕方過ぎになっても人の姿は少なくはなかった。
しかし、周りは友達同士やカップルばかりである。こんな時間に、しかも一人のおじさんがケーブルカーを利用しようとしているからか、係員の男性が怪訝そうな目を向けてくる。それに気付かないふりをしながら、ケーブルカーに乗り込んだ。同じく乗り込んできたカップルが向かいに座る。めちゃくちゃ気まずいし、何よりそのカップルたちに申し訳なかった。山頂へは10分くらいで到着したが、その時間は永遠にも感じられた……。
山頂は夜景を楽しむ人で賑わっていた。さて凪沙ちゃんはどこだ。
しばらく歩きながら周りを見渡していると、一人の若い女性が景色を見ていた。今この空間で一人でいるのは、俺か、その女性かの二人だけであろう。間違いない、あれが凪沙ちゃんだ。
俺はその女性に近づいていった。
「おーい! 凪沙ちゃーん!」
声が届くくらいの距離まで近付いて、声を掛けた。それも、そこそこ大きな声で。
「おーい! 凪沙ちゃーん! おーい!」
距離を詰めていく間も何度か声を掛けてみたが、反応してくれないどころか、振り向いてもくれなかった。
「おーい! 凪沙ちゃーん!」
あ、あれ? 気付かないのかな……? それとも、俺に気付いてはいるけど、俺のせいでこの街を離れなければならなくなったから怒ってるのかな?
あ、あれか? 周りが友達同士やカップルばかりだから、こんなおじさんが知り合いだって思われたくないのかしら……? それはそれで悲しいな……。
とうとう反応すらしてもらえないまま、その女性の元に到着してしまった。
何度も後ろから声を掛けたが反応すらしてくれなかったので、今度は恐る恐る声を掛けてみる。
「連絡も繋がらないから心配したよ、凪沙ちゃ……」
「……?! 誰よあんた!?」
「え……誰?」
次の瞬間、右の頬に鈍い痛みが広がった。なぜ? なぜに俺はビンタされたんだ……?
「私はね! マッチングアプリで初めて会う人と待ち合わせしてるの! あんたがそうなの? プロフィールには、身長180センチの医療従事者で、年齢は30って書いてたんだけど! 全部嘘だったのね!」
「ち、ちがっ……、痛っ!」
その女性は凪沙ちゃんではなかった。凪沙ちゃんではないその女性は、何故か俺を何度もビンタしようとしてくる。どんな状況??
「あれ? 神山さん? 何してるんですかこんな所で!」
「痛っ、やめっ、ん……なんか聞き覚えのある声が……っ」
ビンタを防御して意識が飛びそうになっている俺の横目に映ったのは、紛れもない本物の凪沙ちゃんであった。
「ちょっとー! 喧嘩はダメですよー! そこの女性の方も止めてください!」
凪沙ちゃん、無理だ。この女性はもう誰にも止められない。せめて誰か、男性の人を……。
「こらこら、ここで喧嘩は良くないぞ。せっかくの良い景色が台無しだ」
また聞き覚えのある声が……。でも助かった、男性の声だ。これはありがた……えっ??
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